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2022年5月31日火曜日

ワン・セカンド 永遠の24フレーム

1秒だけのフィルムに映る娘。父親は逃亡者になりフィルムを追い、孤児の娘と出会う。イーモウ監督による映画の奇跡。

 

 


 

 

 

原題:1秒鐘

監督:チャン・イーモウ

出演:チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ

製作年:2020

製作国:中国

配給:ツイン

公開:2022520日よりTOHOシネマズシャンテほか

上映時間:103

公式HPhttps://onesecond-movie.com/

 

ストーリー

1969年、文化大革命が進行中の中国西北部の強制労働所から、ある男が脱走する。男が村にたどり着くと映画の上映が終わり、フィルムが次の町に届けられる所だった。男は、目の前でフィルムを盗み出す子供 “リウの娘”を目撃し、彼女を追う。妻と離婚し、娘とも疎遠になっていたその男は、フィルムに娘の姿が映っていると知り、一目見ようと逃亡者となったのだ。次の上映地となる村で、男はフィルムを取り返すが、別のトラブルが起きる。


レビュー

チャン・イーモウ作品が好きだ。大作でも小さな作品でも、画面の隅々まで監督の美意識が宿っており、それはリアルを通り越してメタファーとなり、すべてが寓話に見えてくる。この映画も1969年の文化大革命という特殊な時期の特殊な事情を背景に映画化しているが、それでもどの時間枠にもとらえられないような寓話と化しているのは、イーモウの演出の“くせ”とでも言うべきものだろう。

 

今や中国をと言うより、世界を代表する巨匠のチャン・イーモウ。先日行われた2022北京オリンピックの開会式と閉会式でも総合演出を務めたが、そこにもしっかりと彼の美意識が現れていた(前年の東京オリンピックの開会式が「隠し芸大会」になって散々だったのと対照的だ)。かと思うと、ハリウッドでは珍品とも言える大失敗作『グレート・ウォール』(2016)なんて怪獣映画を撮ってしまう。

 

そのイーモウ監督は、自身が文化大革命を経験している。下放され、農民や工場労働者として働いていたのだ。文化大革命は文化を根絶する革命のようなものだったが、それが終わった時、彼はようやく映画が撮れると開放感を味わったに違いない。

 

本作は、そんな文化大革命時代の彼の経験が生かされた作品だ。娘が映っているフィルムに男はなぜ脱走してまでこだわるのか。収容所で娘の成長を見ることができなかったからか。罪滅ぼしのためなのか。どちらにせよ、娘が映るのは一瞬で、しかも映画本編の前に上映されるニュース映像なので、その映画が次の映画に変わればおそらく永久に見ることはできなくなってしまう。少なくともいつ出所できるかわからない時代だから、その年齢の娘の姿を見る最後のチャンスかもしれない。

 

そんな男の目的はフィルムを見ることだけ。だから、周りの状況にも無頓着だ。フィルムを盗んだ孤児の少女を追いかけ、取り返すときにも、彼女の状況などお構いなしだ。しかし、取ったり取られたりの道中を繰り返すうちに、彼にも気づかない感情が湧いてくるようになる。

 

この映画の舞台となる、砂漠に囲まれた村や道中の風景がいい。フォトショップで、まるでいらない要素を全て消してしまったかのように、必要な絵だけが抽出されているような感じだ。到着した村の映画館の情景は、まるでイーモウ版『ニュー・シネマ・パラダイス』。みな映画を見るのを心待ちにしている。汚れてしまったフィルムを村人総出できれいにするシーンは、スペクタクル映画のようだ。フィルムの洗浄や修復作業の辺りは、下放中にイーモウ監督がしていた作業が反映されているのだろう。そして娘役のリウ・ハオツンがいい。これから、チャン・ツィイーのようなスターになっていくのだろうか。

 

寓話のような話だが、各人物たちに実際にそこに生きていたかのような存在感がある。映画が終わった後も、彼らはその後どうなったのだろうかと、生き続けている人のように感じてしまうのだ。それが映画の力だ。

 

★★★★前原利行)

 

2021年3月30日火曜日

春江水暖~しゅんこうすいだん

大河沿いの都市に住む4人兄弟。それぞれの家族の生活を、四季の風景を織り交ぜながら描く。

©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

春江水暖 Dwelling in the Fuchun Moutains

 

2019
監督:グー・シャオガン

出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ

配給:ムヴィオラ

公開:2020211日より公開中

上映時間:150

公式HPwww.moviola.jp/shunkosuidan/

 

●ストーリー

杭州近く、富春江が流れる都市・富陽。夏、年老いた母親の誕生日を祝うため、顧(ぐー)家4人の息子たちの家族や親戚がレストランに集う。長男はレストラン経営、次男は漁師、三男は定職に就かず、四男は独身で解体作業をしていた。その祝宴中に母親が脳卒中を起こし、倒れてしまった。長男が介護のために母親を家に引き取るが、生活はギリギリだった。

 

 

 
©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved.

 

●レビュー

ストーリーは、レストランを経営する長男一家のエピソードを中心に進む。長男は四兄弟の中では一番余裕はあるものの、富裕層とも言えない。だから一人娘に富裕層の息子との結婚を願うが、娘が好きなのはお金がない学校教師だ。娘の将来のためと言いつつ、長男夫婦は親の望みを押し付けようとする。

 

漁師をしている次男一家は、集合住宅が取り壊しになり今は船上で暮らしている。立ち退き料を元手に新しい住宅に住み、息子を結婚させてあげたいと願う。自身は貧しくとも、子供には不自由させたくないと願う両親は、現代の日本でも珍しくはない。

 

兄弟のトラブルメーカーである三男は、賭博やヤクザな仕事に手を出しており、兄弟から借りたお金を返したためしはない。それも男手一つでダウン症の息子を育てているからで、そのためにもお金が必要なのだ。

 

いまだ独身の四男は、ビルの解体工事をしている。ただし出番は少なく、四人の中では影が薄い。

 

この四人兄弟を結びつけていた母親が倒れ、認知症になってしまう場面から話は始まる。少しずつ状況が変わっていくが、格別大きな事件が起こるわけではない。せいぜい長男の娘の結婚問題とヤクザな三男がトラブルを起こすぐらいだ。

 

本作はアジア映画を見慣れた人なら、侯孝賢などの台湾映画や中国のジャ・ジヤンクー作品を連想するだろう。僕は何となく『悲情城市』を思い出した。あれも家族をめぐる物語だった。本作もそれらの作品同様、ゆったりとした長回しが特徴だ。特に途中、何度か出てくる河面の横移動が印象的だ。これは、横に長く描かれた山水画の巻物を表すためだという。ただ、時としてその技法が先行しすぎて、鼻につくシーンもある。

 

そうした技術的な演出より感心したのは、素人たちの良さをうまく引き出したキャスティングだ。三男とダウン症の息子の顔がよく似ていて、よく見つけてきたなとプレスシートを見たら、本当の親子だった。そして他の人もチェックしてみたら、他の夫婦も素人で、本当の夫婦が演じていた。なるほど、本当に中国の街にいそうな顔つきという強烈なリアル感は、そこからきていたのかと納得がいった。

 

素人と言っても、長々とした台詞や芝居もあり、下手ではない。多分、本人をイメージした脚本の当て書きをしたのだろう。それに比べると、本物の役者が演じるキャラは少し演技臭ささえを感じる。これは物語を動かしていく役目なので、演技ができる俳優を配さないと仕方がないのだろう。

 

本作は、グー・シャオガン監督のデビュー作で、2019年のカンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれたほか、東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞している。

 

★★★☆前原利行)

2021年1月15日金曜日

羊飼いと風船

変わりゆく時代の狭間で揺らぐ、チベット遊牧民の一家を描く

BALLOON    

2019年/中国
監督・脚本:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤンシクツォ
配給:ビターズ・エンド
上映時間:102分
公開:2021年1月22日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
HP:http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/

●ストーリー 
 チベットの草原地帯。タルギェ(ジンバ)、ドルカル(ソナム・ワンモ)の夫婦は、3人の息子とタルギェの父との三世代で牧畜で生計をたてながら暮らしている。父タルギェは力強い羊飼いで、働き者の母ドルカルは家を切り盛りしている。学校の長期休みには牧羊を手伝う長男、自然の中を駆け回る弟兄弟。仏教の教えと伝統文化を大切にする祖父が家族を見守っている。貧しくも昔ながらの素朴で穏やかな生活を送っていた。
 だが、家族に少しずつ波風が立っていく。祖父が亡くなり、時を同じくして、ドルカルの妊娠が明らかになる。だが、もう一人子どもを産めば罰金が課せられてしまう。彼女は子どもを堕したいと夫に告げるのだが・・

●レヴュー 
 チベットの大平原。遊牧民の一家の幼い兄弟が、楕円形の妙な風船を持って駆け回って遊んでいる。物語は、のどかな情景とそんな彼らの些細ないたずらからユーモラスに始まるのだが、様々な波に翻弄され苦悩する遊牧民家族の次第を映し出す展開になっていく。その中でも伝統と慣習の中にあるチベットの女性たちの姿が印象深く描かれている。

 今日、昔ながらの牧畜文化を継承していくのは、簡単ではないだろう。父タルギェは、父親からその精神を受け継ぎながらも新しい時代へ適応していかなくてはならない世代。遊牧民の暮らしは貧しく厳しいが、子どもを全寮制の学校に入れて、その学費のために羊を売る。種付けのための羊を友人から借り、バイクに括り付けて運び、力強く牧畜の作業をこなす。父の死は、友人と酒を交わしている時、スマートフォンで知らされる。
 一方、女性はどうだろうか。家族は穏やかに暮らしているが、母ドルカルは、朝起きてから寝るまで、家のこと、子どもや舅の世話、そして牧畜の仕事までも忍耐強くこなしている。それは遊牧民の女性たちの果たすべき伝統的な役割で、彼女自身もそのしきたりを大切にしているのだろう。だが、伝統的な生活と新しい生活様式との摩擦の中で困難な思いをしていることも伝わってくる。妊娠や出産についても同様だ。村の診療所は、女性たちにコンドームを配っているが、ドルカルはこれ以上の妊娠を避けるため、避妊手術を受けることを決める。しかし、その間に祖父が急逝し、そして彼女の妊娠が明らかになる。チベットの人々の宗教観をもってその子は輪廻転生による祖父の生まれ代わりだと喜ぶ夫。だが、これ以上子どもは持てないと考えるドルカルの決意は固い。遊牧民の女性たちは男性と対等であって、決して弱い立場ではないという。ドルカルの芯の強さが最後まで物語を引っ張っていく。そのような女性を演じたソナム・ワンモの演技と彼女の眼差しが印象的に残る。

 監督は小説家でもあるペマ・ツェテン。チベットの人々の精神文化と現代社会との関係性を描き、選択を迫られた人々の姿を描きたかったと語っている。だが、物語の結末は、観客に委ねられている。赤い風船が空を飛んでいくラストシーンを見ながら、チベットの人々はどう進むだろうか、そして自分なら何を選択するだろうかと思いを巡らせることになるだろう。変わりゆくチベットで、厳しい土地にたくましく生きる人々の営み。そして美しい映像美で映し出される雄大な自然が心に残る作品だ。(★★★☆加賀美まき)

第20回(2019年)東京フィルメックス・コンペティション部門最優秀作品賞 受賞

2020年9月23日水曜日

鵞鳥湖の夜

再開発から取り残された街で、居場所を失くした男と寄り添う女

『薄氷の殺人』のディアオ・イーナン監督がグイ・ルンメイと再びタッグを組んだ野心作





南方車站的聚会 The Wild Goose Lake


2019年/中国・フランス

監督:ディアオ・イーナン

出演:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン

配給:ブロードメディア・スタジオ

公開:9月25日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラスト有楽町&渋谷ほか

HP  :http://wildgoose-movie.com/


●ストーリー

2012年、中国南部。再開発から取り残された鵞鳥(がちょう)湖周辺の地区で、ギャングたちの縄張り争いが激化していた。刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻った男チョウは、対立組織との争いに巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう。指名手配された彼は、自身にかけられた報奨金30万元を妻子に残すために画策する。しかし、妻の方は警察の協力要請があり、迂闊に動くことができない。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイが妻の代理として現れるのだった。


●レヴュー

近年、中国のノワール映画の存在感が目立つ。

昨年公開された董越(ドン・ユエ)監督の90年代を舞台にした『迫り来る嵐』(’17)、日本未公開だが、ロシアの地を股にかけヤクザの抗争を描いた『氷の下』(’17 /蔡尚君監督/フィルメックスで上映)、一冊の本でつながった犯罪を描いた『追跡』(’17/李霄峰監督/「電影2018」で上映)も斬新な作品だった。そして『薄氷の殺人』(’14)で世界をあっと言わせたディアオ・イーナンの新作『鵞鳥湖の夜』も、安定の面白さだ。共通してるのは時代設定だろうか。現在ではなく、一昔前。中国に住んでいなくとも、どこかノスタルジーを感じる世界観。この映画の時代設定は2012年で、習近平が最高指導者になった年である。

前作とは打って変わって、季節は夏。南方の湿った風が吹いている土地が舞台だ。ネオン、屋台街が旅の郷愁を感じさせ、引き込まれる。劇中では武漢方言が話されてるようだが、架空の場所らしい。ギャングの抗争に巻き込まれ、逃走中に警官を撃ってしまったことで指名手配されるチョウ。彼は自分にかけられた報奨金を苦労をかけた妻に渡そうと画策するが、約束の場所に現れたのは、グイ・ルンメイ演じる謎の女アイアイだった。

彼女は鵞鳥湖周辺にたむろする“水浴嬢“といわれる風俗嬢で、どうやら報奨金を横取りしようとするホアという男と繋がっている。髪を短く刈り込んだヘアスタイルは彼女を一層細くみせ、独特の魅力を醸し出している。前作の無口なクリーニング店の女とは違って、かなり能動的である。彼女の意図が掴めぬまま、しかし、彼女にすがるしかないチョウ。ワンタン屋での食事、湖上の憩いのひと時も束の間に、敵対するギャング、警察の捜査に追いつめられて行く。はたして報奨金の行方は…?

『薄氷の殺人』では”ヤメ刑”だったリュウ・ファンが再び刑事役として登場したり、『ロングデイズ・ジャーニー』の主演ホアン・ジュエがカメオ出演していたりと、心憎い演出。チョウの妻(レジーナ・ワン)が働く家具屋倉庫に並ぶ「鏡」や、クライマックスの雑居ビルのシーン、闇と影の使い方、斬新なカメラワーク。何となくオーソン・ウェルズの作風、とりわけ『上海から来た女』(’47)を思い出してしまうのは私だけだろうか。前作同様、ラストに哀切が満ちている。

(★★★☆ カネコマサアキ)


2020年2月13日木曜日

巡礼の約束


ラサへの巡礼を通し家族それぞれの想いが浮き彫りになり、それが受け継がれていく


2018
監督:ソンタルジャ(『草原の河』
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンパ
配給:ムヴィオラ
公開:28日より岩波ホールにて


●ストーリー
四川省北部の山間の村に、夫のロルジェとその父と暮らすウォマ。
ある朝、不思議な夢を見て目覚めた彼女は、夫に付き添ってもらった病院からの帰り、夫にラサに五体投地で巡礼に行く決心を告げる。
15kmぐらいしか進まない五体投地では、ラサまでは半年以上もかかる。
反対するロルジェだが、ウォマの固い決心は揺らがない。
ウォマには実家に預けたままの前夫との間の息子のノルウもいた。

ウォマの巡礼の旅が始まる。
しばらくしてウォマの病を知って追いかけてきたロルジェ、ノルウも巡礼に合流する。
しかし病をおして旅に出たウォマの体は衰弱していった。

●レビュー

ポンポンパッ。
映画を観た後、しばらくその音が耳から離れない。

ご存知の方も多いと思うが、チベット人が一生に一度は望むのが聖地ラサへの巡礼だ。
ラサには活仏ダライ・ラマが住んでいたポタラ宮、巡礼者が訪れるジョカン(大昭寺)がある。
道のりは遠いが、鉄道やバスも通じているので、乗り物に乗れば難なく行けるのは我々も中国の人も変わりない。
しかしチベットの人々が望むのは、自分の家かららラサまで五体投地で行くことだ。
近ければまだいいが、ラサから遠いところに住んでいる人にとっては気の遠くなるような時間がかかる。そして肉体的にも辛い。
夫婦が住むギャロンからラサへは2000km近くもある。
なぜ妻は、突然巡礼を決意したのか。

ある朝、夢で起きた妻が突然供養を始める。
そして医師の診断を受けた後に、ラサへの巡礼の旅を夫に告げる。
妻には死に別れた夫がいた。
その後、再婚したが、前夫との間の息子は実家に置いたまま。
後悔や後ろめたさが、彼女を日々苦しめていたのだ。

この作品をその妻の気持ちで見るのか、夫の気持ちで見るのかによっても感じ方は違うだろう。
隠されていた妻の想いを知り、激しく動揺する夫の心は切ない。
嫉妬にかられるシーンはとても人間臭く、いけないことだがその気持ちはよくわかるだろう。
後半では、今まで夫が向き合うことがなかった血の繋がらない息子との関係が軸になって進行していく。

登場人物すべてが秘めた思いを口にしないが、その分、行き場のない感情がこちらにより伝わってくる。ふだんペラペラと喋らない分だけ、話した時にその中身が心に迫るのだ。
背景に映るチべットの自然が、彼らの気持ちを時には代弁し、時には包み込む。
地味だが丁寧な描写で描かれた良作。
監督は前作『草原の河』が評判を呼んだソンタルジャ。
★★★☆前原利行)

2019年6月9日日曜日

The CROSSING クロッシング




ジョン・ウー監督渾身の大河ドラマ。

太平輪/The Crossing
2014年/中国
監督:ジョン・ウー
出演:チャン・ツィイー、金城武、ソン・ヘギョ、ホアン・シャンミン、ドン・ダーウェイ、長澤まさみ、トニー・ヤン
配給:ツイン
上映時間:129分(part1) 125(part2)
公開: 67日(part1)14日(part2)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://thecrossing.jp/


■ストーリー

1945年、抗日戦線で英雄になった雷義方(ホン・シャオミン)は、上海の舞踏会で令嬢・周蘊芬(ソン・ヘギョ)と出会い、結婚するが、国共内戦の激化に伴い、彼女を台湾に避難させ、戦闘の最前線へ。日本軍の従軍医だった嚴澤坤(金城武)は除隊後、台湾の実家で医師を続けるが恋人・雅子(長澤まさみ)のことが忘れられないでいる。1948年、于真(チャン・ツィイー)は出征したまま行方不明になった恋人を探すため、従軍看護婦に志願。見知らぬ兵士・佟大慶(ドン・ダーウェイ)と偽の家族として写真をとり、配給の食べ物を得るが、そのうち困窮し娼婦に身を落として行く。3組の男女の人生は、上海ー基隆間を結ぶ大型船・太平輪沈没事故を軸に交差する。part1「国共内戦編」、part2「太平輪号編」。

■レビュー

1949年に起きた太平輪沈没事故を題材にしたジョン・ウー監督渾身の大作である。
戦闘シーンの過剰な爆発や、戯画化された銃の持ち方は、ジョン・ウー作品を良く知ってる人なら特に気にならないと思うが、そうでない人は、長澤まさみの着物姿や髪型に過度なエキゾチシズムを感じるかもしれない。だが、得意のアクションを抜きにしても、3組の男女が辿るドラマは相当な見応えがあるのではないかと思う。
太平輪沈没事故は中国のタイタニック号と形容されるだけあって、ジェームス・キャメロン監督作と比較されそうだが、クライマックスの一大スペクタクルシーンにも、ジョン・ウー節が炸裂しており、見応え十分だ。

龍印つき(つまり中国のセンサーシップを受けている)の香港・中国映画は、もはや当たり前になってしまったけど、意外だったのは、国共内戦を描いているのに、共産党軍はほとんど蚊帳の外のように描かれていることだ。チャン・ツィイーの役どころも国民党軍の兵士の恋人を捜すという設定だ。中国市場のことを考えるなら、共産党軍側にメインキャラクターがいても不思議ではないと思うからだ。
また、台湾映画の文脈からいえば、戦後大陸から渡って来た「外省人」と、金城演じる台湾語を話す「本省人」たちの出会いの時期を描いており、(その後、両者の間で大きな軋轢が生まれるわけだけど)勢力的にはわりとフラットに描かれている。だが、トニー・ヤン演じる弟が台湾から理想を求めて大陸に渡るというサブストーリーや、日本(娘)に想いを馳せる金城武の役どころ含め、この兄弟の描き方はすごく意味深だ。総じて僕がこの映画から感じるのは、「外省人」が持つような台湾から大陸への望郷のベクトルではなく、大陸から台湾への強い眼差しだ。

自分は「オールド上海」の世界観に興味があるので、チャン・ツィイーのパートにとりわけ引き込まれた。娼婦として身を落として行く姿は阮玲玉の『女神』('34)を思い出した。また黄暁明演じる兵糧攻めに合う将校のパートは、たまたま同時期に観たハワード・ホークスの『永遠の戦場』('36)の筋書きと似ていて、案外ジョン・ウー監督なら参考にしているのかもしれないと思った。(同じように爆撃シーンがすごいのだ)現代の東アジア情勢に通じる歴史モノとして、見所つきない作品だと思う。

カネコマサアキ(★★★☆1/2

■関連事項

「太平輪沈没事故」は1949127日に発生した海難事故である。中華民國中聯企業公司の客船・太平輪が上海から基隆市に向けて夜間航行中に過積載(2093トン)と航海灯の無灯火により、舟山群島海域の白節山付近で石炭や木材を運搬中の貨物船建元輪と衝突し、両船とも沈没した。太平輪に乗っていた1000人が死亡した。オーストラリア軍艦が34人を救助、舟山群島の漁師が登録されていない人々(未記名人員)を救助したが、生存者は合わせて50人だった。この事故は、中国のタイタニック号沈没事故と呼ばれるている。(ウィキペディアより)


2018年10月13日土曜日

世界で一番ゴッホを描いた男

中国のゴッホの複製画家が本物に会いに欧州へ




2016年
監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ
出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
公開:10月20日より新宿シネマカリテにて公開
公式ページ:http://chinas-van-goghs-movie.jp/

職人か芸術家か
その問いを自分に投げかける人は、世の中にたくさんいるだろう。
自分を表現するために何かを始め、それで飯が食えるようになっても、
いつのまにか単に技術を提供するだけになっている、
なんてこの世界、当たり前のことだ。
僕が住んでいる出版や編集の世界でもまったく同じ。
最初は“バイト仕事”ぐらいに感じていた、技術だけ提供する雇われ仕事が、いつのまにか生活を支えるようになっている。
このドキュメンタリーの主人公となる趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、その逆だ。
スタート地点が、生活を支えるための模写だった。
そして20年目にして、彼の心を動かす出来事が起きる。

中国深圳市にある大芬(ダーフェン)村
複製画の制作が世界の半分以上のシェアを占めるという、
世界最大の絵画村だ。
ここには複製画を描く職人たちの工房が軒を連ねている。
地方の農村から出稼ぎでここにやってきた趙小勇は、独学で絵を学び、ここでもう20年、ゴッホの複製画を描いている
工房には彼の妻や親戚もいるが、籍はまだ地方にあるので、
娘は遠く離れ、言葉もあまり通じない田舎の学校に通わなくてはならない。

本作の前半は、この大芬村で複製画を描いていく人々や、
その様子を映し出していく。
その中で次第に、ベテランの趙小勇がクローズアップされていく。
彼の夢はいつしか、“本物のゴッホ”を見ることだ。
本やテレビでしか見たことがない、ゴッホの絵。
自分が20年も描いてきたものの、本物が見たい。
仲間のひとりは、すでに複製画ではなく、“自分の”絵を描くようになっていた。そんな焦りもあったかもしれない。

後半は、お金をかき集めて、ついに念願の欧州へ旅立つ
趙小勇をカメラが追う。
長年、自分たちの描いた複製画がアムステルダムの画廊で
売られていると思っていた趙小勇だが、
着いてみるとそこはただのおみやげ屋だった
失望が顔に浮かぶ趙小勇。
さらに販売価格が、自分たちの売値の8倍と知って
やるせない気持ちにもなる。
複製画だが、誇りを持って描いてた自分なのに。

そして彼は、アムステルダムのゴッホ美術館に。
ゴッホの自画像に見入る趙小勇。
彼の旅は、アルル、サン・レミ、最後の地となったオーヴェル・シュル・オワーズと続く。
ゴッホの足跡を訪ねるその旅はまた、
趙小勇が自分を見つめ直す旅でもあった。
自分はいったい何者なのか。
本物と偽物の違いとは? 芸術家と職人の違いは? 
帰国後、彼はある決断をする。

複製しか描いたことがなく、自分の作品がない趙小勇が苦悩する姿は、滑稽でもあり、また私たちに真摯に訴えかけるものでもある。
彼が苦しむ姿は、“本物”だからだ。
これといった大きな仕掛けはない小品だが、
趙小勇の問いは多くの人が感じていること。
きっと観客の心にも、その問いは投げかけられることだろう。
★★★

2016年1月11日月曜日

最愛の子

3歳の息子が3年後によその子となって見つかった・・。
中国で実際に起こった誘拐事件を基に、親たちの至上の愛情を描くヒューマンドラマ。


親愛的/DEAREST
 
2014年/中国・香港
監督:ピーター・チャン
脚本:チャン・ジー
出演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー
配給:ハピネット、ビターズ・エンド
上映時間:130分
公開:2016年1月16日(土)、シネスイッチ・銀座ほか全国順次ロードショー


●ストーリー

 中国・圳の下町。ある日、ティエン(ホアン・ボー)の3歳の息子ポンポンが突然姿を消してしまう。別れた妻ジュアン(ハオ・レイ)と一緒に必死で愛する息子を探すが、警察に届け出て、インターネットを使って情報を求めてもその消息は掴めなかった。罪の意識と後悔に苛まれながらも、かすかな希望を胸に探し続けた3年後、二人は中国北部の村に暮らす息子をようやく見つけ出す。 だが、6歳になった彼は実の親のことを何一つ覚えておらず、育ての親である母ホンチン(ヴィッキー・チャオ)や幼い妹との別れを嘆き悲しむのだった…。

●レビュー

 年間20万人の子どもが行方不明になると言われている中国。本作は、2008年に誘拐された男の子が3年後、両親の元に戻ったという実際に起こった事件が基となっている。

 ある日、人が行き交う都会で、3歳の男の子を何者かが抱きかかえて連れ去ってしまう。前半は、離婚していた夫婦が、愛する息子を一緒に探す姿を追っている。24時間経たないと事件として扱わない警察、組織的な児童誘拐の実態や金目当てにニセ情報を寄せてくる輩など、彼らを取り巻く不条理を盛り込みながら、手がかりすら見つけられない両親の苛立ちや苦悩が描かれる。元妻は次第に心が疲弊していき、子どもが行方不明となった親たちの会で心の内を吐露する。元夫婦が、一連の出来事を通じて関係を変化させていく過程の描きかたが秀逸で、元妻を支えながら、気丈に息子を探し続ける父親をホアン・ボーが見事に演じている。

 そして3年後、遠く離れた農村で育てられていた息子が見つかる。しかし、実の両親のことを息子は何も覚えていなかった。後半は、元夫婦の新たな苦悩と、亡き夫が深の女に産ませた子どもを連れてきたと信じていた育ての母親の難儀を軸に新たな物語が展開していく。都会と農村の格差や一人っ子政策の実情、子どもの連れ去りや置き去りが引き起こす現代中国の闇をあぶり出しながら、失った子どもを必死に取り戻そうとする女性の姿とその悲哀が見事に描かれる。母親役をほぼノーメークで演じたヴィッキー・チャオ。彼女の凜とした姿が後半の物語を実のあるものにしていると思う。

 「ラブソング」「ウォーロード」のピーター・チャン監督は、子どもの誘拐をテーマにしながら、現代の中国社会にある多くの問題と、そこに巻き込まれる人間模様を見事に織り込んでいて心憎い。子に対する親の愛情は、深く至上なものだと感じさせる作品として見応えがある。(★★★★