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2022年2月11日金曜日

オーストリアからオーストラリアへ ふたりの自転車大冒険

 三大陸18,000キロを走破。二人の若者が、自分たちでカメラを回して撮った自転車ロード・ムービー。



Austria 2 Australia

2020年/オーストリア
監督・脚本・撮影・編集:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
配給:パンドラ
上映時間:88分
公開:2022年2月11日(金・祝) ヒューマントラストシネマ有楽町/アップリンク吉祥寺にて全国順次公開
HP:http://www.pan-dora.co.jp/austria2australia/


●ストーリー 

 アンディとドミニクは勤めていたIT企業をやめ、家族や友人を残して旅に出ることを決意。オーストリアからオーストラリアへ、18,000キロを自転車で走破するという大冒険へと乗り出す。撮影機材を積み込み、自撮りしながらリンツを出発するが、初日から豪雨、暴風雨に襲われる。
 ロシア、カザフスタン、中国、パキスタン、インドなどユーラシア大陸を横断し、オーストラリアの目的地へと自転車をこぎ進めるふたり。果たして最終目的地へ到達できるのか・・。


●レヴュー 

 オーストリアに住む若者、アンディとドニミク。IT企業に勤めていた二人が、「限界に挑戦してみたい」「まだ見ぬ世界を見てみたい」という純粋な気持ちと好奇心から旅に出る決意をする。自国オーストリアからオーストラリアまでの18,000キロを自転車で走破するという計画。二人は冒険家でもなければ、そういう経験のあるタフガイでもなさそう。ごく普通の若者にはちょっと無謀にも思える船出。案の定、旅は山あり谷あり。トラブルも仲間割れもありの11ヶ月だが、今までに見たことのない自転車ロードムービー、自撮りドキュメンタリーが展開する。

 本作の面白さは、そうした普通の二人が旅に出たこと。そして移動手段が自転車であること。旅の行程を自撮りしているということにある。
 自転車はふたりにとって最善の手段。ある地点から、次の地点までかなり早く移動ができ、そして途中の風景を楽しんだり、自然を体感したり、何より人との出会いが期待できる。初日から暴雨に見舞われ、灼熱のカザフスタン平原では限界がきて、トラックのお世話になったりする。パキスタンでは警察に付きまとわれヒヤッとするが、思いがけず事態は好転!インドの寺院では、世界最大の無料食堂のお世話になり、人の温かさに触れる。蚊やハエにも襲われ、アクシデントも数知れないが、どんな時でも解決法があることを学んでいく。そうした全てがかけがえのない経験になっていく。

 そして、この旅に挑む自分達の姿を曝け出し、自身で撮影していることが、本作の最大の面白みになっている。小型4Kカメラ2台とGoPro。行く先々の様子がリアルに映し出されていく。そして最大の武器はドローン。ヒマラヤ、カラコルム山脈の雄大な風景、オーストラリアの広大な砂漠等々、旅の先々での空撮は、その時にしか撮れない映像を私たちに見せてくれる。昨今の撮影機材の進化は凄い。自転車に積み込みるほどになり、プロでなくてもこれだけの撮影ができることに驚かされる。

 未知の世界を知るべく、文字通り外に飛び出した二人の、観光ガイドにもない、計算された旅のドキュメンタリーでもないリアルな旅の記録。旅は本当に多くのことを教えてくれるとあらためて思う。旅に出られる日が待ち遠しい。(★★★☆加賀美まき)

2020年6月30日火曜日

17歳のウィーン  フロイト教授 人生のレッスン

青年の成長とフロイト教授との交流を描く、儚くも美しいかけがえのない日々

Der Trafikant / The Tobacconist

2018年/オーストリア、ドイツ
監督:ニコラウス・ライトナー
脚本:クラウス・リヒター、ニコラウス・ライトナー
出演:ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノヴァ
配給:キノフィルムズ
上映時間:113
公開:2020724日(金・祝) Bunnkamuraル・シネマほか全国公開
HP17wien.jp

ストーリー
 1937年、ナチ・ドイツとの併合に揺れるオーストリア。17歳の青年フランツ(ジーモン・モルツェ)は、自然豊かなアッタ湖のほとりで母親と暮らしていたが、母の恋人の事故死を機に、ウィーンのタバコ店に見習いとして働きに出ることになる。戦争で片足を失った店主オットー(ヨハネス・クリシュ)のそばで様々な客と出会っていく。
 ある日、特別な常連客が訪れる。それは、頭の医者として世界的に知られるフロイト教授(ブルーノ・ガンツ)だった。フロイト教授と親しくなったフランツは、教授から人生を楽しみ、恋をするよう勧めを受ける。ある日フランツは、街の遊園地で出会ったボヘミア出身の女性に一目惚れするのだが、初めての恋に戸惑ってしまう。フロイト教授は彼にある3つの処方を与える。
 やがて時代は国全体を巻き込んで、激動の時を迎えようとしていた。

レヴュー 
 この作品は、17歳の若者の成長物語である。オーストリア、ザルツカンマーグートのアッター湖のほとり、自然豊かな田舎で育った17歳のフランツは、母の勧めでウィーンのタバコ店で働くことになるのだが、純朴な青年は、そこで様々な人と出会い、恋をし、人生経験を重ねていく。ナチ・ドイツの勢力がオーストリアにも拡大し、混沌としていた時代を背景に、フランツが成熟した大人になっていく姿が印象的な作品になっている。
 
 物語は、フランツが一目惚れしたボヘミアンのアネシュカとの初恋とその行方を軸に進んでいき、その恋の悩みや不思議な夢のことをタバコ屋で知り合ったフロイト博士に相談する。「答えを見つけるために生まれてくるのではない、問いかけるためだ」という人生のヒントを得て、フランツは前を向き着実に成長していく。実在するフロイト博士の存在が、この作品にリアリティを持たせ、情緒ある物語にしていると思う。

 フランツの成長には、彼が出会った様々な人の生き様が織り込まれている。歴史的背景の描写は、前半は控えめな演出になっているが、後半、ナチ・ドイツによりオーストリアが併合されると、街と人の様相の変化が瞭然と描かれる。したたかに生きる道を選ぶアネシュカ、街の劇場の演目はナチを賞賛するものに変わり、隣の肉店の密告により、タバコ店はナチ親衛隊の襲撃を受ける。オットーは捕らえられ、フロイト教授も亡命を余儀なくされる。時代の波がフランツを取り巻く人たちの人生に大きな影響を及ぼしていく。物語は終始、フランツの目線でしっかりと捉えられ、彼の人生にも劇的な変化が起きていく様子が説得力をもって描かれている。ラストに、「足跡を残す」べくフランツがとる行動は、この作品を象徴するシーンになっていて、胸に迫る。

 原作はローベルト・ゼーターラーの『キオスク』で、ドイツ語圏では80万部を超える大ベストセラーになった。ウィーン市中のタバコ店は、タバコはもちろん、新聞や雑誌、文房具なども扱う。様々な街の人が出入りし、世相を映し出す場所だろう。監督は、ウィーンの雰囲気大切にして、野外のシーンはウィーン市内で撮影したという。リンク内の市街地は、今も石畳の道が続き、建物も当時のままに撮影ができるところが素晴らしい。フランツとフロイトがカフェで話すシーンがあるのだが、そこは1988年創業のカフェ・シュペール。筆者がウィーンで必ず訪れる店ですぐにわかった。今も変わらず、当時の雰囲気を醸し出している。銀のお盆にのって、一杯の水が添えられてくるのがウィーンのカフェの伝統。美味しい水が自慢のウィーンならではのサービスは、今も変わらず受け継がれている。フロイト教授を老練に演じた名優ブルーノ・ガンツは、この作品が遺作となった。
                                     (★★★☆加賀美まき)

2017年2月2日木曜日

ホームレス ニューヨークと寝た男

Homme Less

夢を追い続けるには代償が必要だ。しかし代償のために夢がない生活はありえない



 

2014年
監督:トーマス・ヴィルテンゾーン
出演:マーク・レイ
配給:ミモザフィルムズ
公開:2017年1月28日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中


■レビュー


夢を追い続けるってどういうことだろう? 
子供のころに読んだ「アリとキリギリス」を思い出した。
子供のころは、「遊んでばかりいると惨めになるよ。
まじめに働けば幸せになるよ」
という話だと思っていた。
大人になってみれば、童話だけあっていろいろに解釈ができる。
芸術家のように自分の好きなことをしている人間は後で後悔する。
個をなくして社会の歯車になれば、幸せな老後が待っているという、
全体主義のプロパガンダにも読める。ナチスとかスターリンとか。

最初に予告編をみれば、このドキュメンタリーの
アウトラインはわかるだろう。
カメラが追うマークは、デザイナーズスーツを着こなす
ロマンスグレーのナイスミドル(53歳)。
元モデルだけあってカッコいい。
職業はフリーランスのファッション写真家。
街で見かけたモデルの写真を撮り、雑誌に売り込んでいる。
役者としても登録していて、たまに映画のチョイ役に出演。
しかし彼に家はない。
数年前からビルの屋上で、寝袋にくるまって生活しているのだ。
荷物はスポーツジムのロッカー4つ分。ジムでシャワーを浴び、洗濯。
夜はカフェをハシゴし、パソコン仕事だ。

見た目はリッチそうで、人生の勝ち組にしか見えないマーク。
誰も彼がホームレスだとは思わないだろう。
私たちがイメージする“ホームレス”と違い、彼の1日は忙しい。
朝は公園のトイレで、パリッとスーツに着替えて身支度し、
街中やファッションショー、ビーチなどに撮影に行く。
夜は深夜まで、カフェで写真のチェックに余念がない。
ビルの屋上に戻って寝るのは、夜の2時だ。
その日課は忙しいフリーランサーと大して変わらない。
家がないことを除けば。

映画の前半は、そんな彼の日々をカメラが追う。
ちなみに監督・撮影はマークの過去のモデル友達だ。
予告編にあるように、忙しそうに行動しているマークを見て、
「これは“持たない”を選択した、ちょっとカッコイイ生き方?」
と納得しかけた頃に、マークの本音が出てくる。
彼だって、こんな生活がいいなんて思ってはいないのだ。
彼だって部屋があり、彼女がいる生活を望んでいる。
しかし、現在のファッションフォトグラファーだけでは、
とうていニューヨークのアパルトマンに部屋を借りるほど
の収入があるわけではない。
かといって、自分が親しんだファッション業界から離れる決意もつかない。

僕は、これは
「ニューヨークという金のかかる美女に惚れてしまい、
その生活を続けるために無理している男」

の話のようにも見えてしまった。
少数の者にしか振り向いてくれない、高みにいる女。それがニューヨークだ。
そして、先の「アリとキリギリス」の話も。
僕もマークとほぼ同じ歳だ。
だから人生も半分を過ぎると、果たせなかった“自分の夢”に対する折り合いをつけなくてはならないことはよくわかっている。
夏は終わり、秋もそろそろ終盤。この先には人生の冬が待っている。
アリさんのように蓄えがあるわけではない。
キリギリスを選んだ人生を後悔してるわけではない。
もう一度人生があっても、アリではなくキリギリスを選ぶだろう
たぶんキリギリスとして生きている人は、みなそうじゃないか。
ただし、成功したキリギリスになれなかったことが残念だけで。

マークはまだ夢を追っている。
そして「どうしたらいい」という彼の迷いは、
キリギリスの道を選んだ人たちの悩みでもあるのだ。
だから、このドキュメンタリーを見ても、アリを選んだ人たちとキリギリスを選んだ人たちでは、感じ方は全く違うだろうな。
★★★☆