2021年2月22日月曜日

レンブラントは誰の手に

 レンブラントに情熱を注く人々、彼らの人間模様をドラマティックに映し出すドキュメンタリー


My Rembrandt

2019年/オランダ
監督・脚本:ウケ・ホーヘンダイク
出演:ヤン・シックス、エリック・ド・ロスチャイルド男爵、ターコ・ディッビッツ(アムステルダム国立美術館)
配給:アンプラグド
上映時間:101分
公開:2021年2月26日(金) Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
HP:http://rembrandt-movie.com

●ストーリー 
 オランダの貴族の家系に生まれ、レンブラントが描いた貴重な肖像画のある家で育った若き画商ヤン・シックス。ロンドンのオークションハウス「クリスティーズ」で競売にかけられていた「若い紳士の肖像」を見た彼は、レンブラントの真筆だと直感し安値で落札する。もし本物であれば、44年ぶりの新発見となり、真贋論争に美術界はヒートアップしていく。
 一方、フランス在住の富豪ロスチャイルド家から、何世代にも渡って所有してきたレンブラント絵画「マールテンとオープイェ」の2点が1億6千万ユーロ(約200億円)という高額で売りに出される。市場には出ない見事な作品にルーブル美術館、アムステルダム国立美術館が獲得に向けて動き出すのだが・・。

●レヴュー 
 オランダが生んだ巨匠・レンブラント絵画に魅せられた人々のドキュメンタリー。個々の登場人物を丁寧に捉えたオムニバス映画のような、見応えのある作品になっている。
 まず登場するのは、スコットランドの古城に住む公爵。お気に入りのレンブラントを相応しい場所に掛け替えたいと考え、そのために呼ばれたのは、アムステルダム国立美術館の絵画部長(現館長)。はなから雲の上の贅沢な話だ。
 そして、競売にかけられた絵画をレンブラントの真筆と直感した若い画商。レンブラントは弟子の作品や模写などその周辺作とされるものが多く、そうしたもののひとつとして売りに出された作品だった。貴族の11代目は、自分なりの新しいやり方でその作品に本物という確証を得ようとしていく。その裏には、先代の父との葛藤があり、レンブラント研究の権威、凄腕の修復家、美術館関係者、長年の顧客であるコレクター夫婦といった人たちも絡んでくる。
 ロスチャイルド家に長年かけられていた2点の絵にも驚かされる。税金対策で売りに出された絵は絵は1億6千万ユーロ(200億円)という超高額。何としても獲得したいルーブル美術館とアムステルダム国立美術館が名乗りをあげるが、単館ではどうにもこうにも予算不足。そこから巻き起こる騒動は有名だ。
 
 本作の見所は、そうした私たちとは別世界の人々の暮らしや事情が垣間見られる点にあると思う。原題は『My Rembrandt』。レンブラント作品の所有者、とてつもない金額が動く絵画市場に参入する画商やコレクター、各国の美術館関係者。その周辺の美術史家、修復家などが登場する。彼らが、それぞれの価値観でレンブラント作品に対峙する様が、周密に描かれている。レンブラント絵画そのものの評価とは別な、絵画への深い愛、社会的地位の獲得、国家のプライドといったそれぞれの視点が刺激的に映る。
 そして、もう一つの見所だと思うのが、大作の多いレンブラント作品では近づけない、作品の細部を詳細に見られるところだ。筆致は明らかなのだが、まるで写真、いやそれ以上にリアルな表現を新近距離から何とも贅沢に堪能することができる。レースの細かさや、布のドレープ、生きているかのような表情・・。どうしたらあのように描かけるのだろうかと思いため息が出る。
 
 監督は『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』『みんなのアムステルダム国立美術館へ』でその力量を発揮したウケ・ホーヘンダイク。明確なコンセプトをもって秀逸なドキュメンタリーを作り上げた。「光と影の魔術師」と呼ばれ、数百年の時を経てなお、多くの人々を魅了してやまないレンブラント。作品を見終えて、本物のレンブラントをじっくりと鑑賞してみたいと衝動に駆られいる。監督が語っているように「レンブラントのレガシーは私たちをどこに導くのか」ときっと思うだろう。(★★★☆加賀美まき)