2019年6月9日日曜日

The CROSSING クロッシング




ジョン・ウー監督渾身の大河ドラマ。

太平輪/The Crossing
2014年/中国
監督:ジョン・ウー
出演:チャン・ツィイー、金城武、ソン・ヘギョ、ホアン・シャンミン、ドン・ダーウェイ、長澤まさみ、トニー・ヤン
配給:ツイン
上映時間:129分(part1) 125(part2)
公開: 67日(part1)14日(part2)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://thecrossing.jp/


■ストーリー

1945年、抗日戦線で英雄になった雷義方(ホン・シャオミン)は、上海の舞踏会で令嬢・周蘊芬(ソン・ヘギョ)と出会い、結婚するが、国共内戦の激化に伴い、彼女を台湾に避難させ、戦闘の最前線へ。日本軍の従軍医だった嚴澤坤(金城武)は除隊後、台湾の実家で医師を続けるが恋人・雅子(長澤まさみ)のことが忘れられないでいる。1948年、于真(チャン・ツィイー)は出征したまま行方不明になった恋人を探すため、従軍看護婦に志願。見知らぬ兵士・佟大慶(ドン・ダーウェイ)と偽の家族として写真をとり、配給の食べ物を得るが、そのうち困窮し娼婦に身を落として行く。3組の男女の人生は、上海ー基隆間を結ぶ大型船・太平輪沈没事故を軸に交差する。part1「国共内戦編」、part2「太平輪号編」。

■レビュー

1949年に起きた太平輪沈没事故を題材にしたジョン・ウー監督渾身の大作である。
戦闘シーンの過剰な爆発や、戯画化された銃の持ち方は、ジョン・ウー作品を良く知ってる人なら特に気にならないと思うが、そうでない人は、長澤まさみの着物姿や髪型に過度なエキゾチシズムを感じるかもしれない。だが、得意のアクションを抜きにしても、3組の男女が辿るドラマは相当な見応えがあるのではないかと思う。
太平輪沈没事故は中国のタイタニック号と形容されるだけあって、ジェームス・キャメロン監督作と比較されそうだが、クライマックスの一大スペクタクルシーンにも、ジョン・ウー節が炸裂しており、見応え十分だ。

龍印つき(つまり中国のセンサーシップを受けている)の香港・中国映画は、もはや当たり前になってしまったけど、意外だったのは、国共内戦を描いているのに、共産党軍はほとんど蚊帳の外のように描かれていることだ。チャン・ツィイーの役どころも国民党軍の兵士の恋人を捜すという設定だ。中国市場のことを考えるなら、共産党軍側にメインキャラクターがいても不思議ではないと思うからだ。
また、台湾映画の文脈からいえば、戦後大陸から渡って来た「外省人」と、金城演じる台湾語を話す「本省人」たちの出会いの時期を描いており、(その後、両者の間で大きな軋轢が生まれるわけだけど)勢力的にはわりとフラットに描かれている。だが、トニー・ヤン演じる弟が台湾から理想を求めて大陸に渡るというサブストーリーや、日本(娘)に想いを馳せる金城武の役どころ含め、この兄弟の描き方はすごく意味深だ。総じて僕がこの映画から感じるのは、「外省人」が持つような台湾から大陸への望郷のベクトルではなく、大陸から台湾への強い眼差しだ。

自分は「オールド上海」の世界観に興味があるので、チャン・ツィイーのパートにとりわけ引き込まれた。娼婦として身を落として行く姿は阮玲玉の『女神』('34)を思い出した。また黄暁明演じる兵糧攻めに合う将校のパートは、たまたま同時期に観たハワード・ホークスの『永遠の戦場』('36)の筋書きと似ていて、案外ジョン・ウー監督なら参考にしているのかもしれないと思った。(同じように爆撃シーンがすごいのだ)現代の東アジア情勢に通じる歴史モノとして、見所つきない作品だと思う。

カネコマサアキ(★★★☆1/2

■関連事項

「太平輪沈没事故」は1949127日に発生した海難事故である。中華民國中聯企業公司の客船・太平輪が上海から基隆市に向けて夜間航行中に過積載(2093トン)と航海灯の無灯火により、舟山群島海域の白節山付近で石炭や木材を運搬中の貨物船建元輪と衝突し、両船とも沈没した。太平輪に乗っていた1000人が死亡した。オーストラリア軍艦が34人を救助、舟山群島の漁師が登録されていない人々(未記名人員)を救助したが、生存者は合わせて50人だった。この事故は、中国のタイタニック号沈没事故と呼ばれるている。(ウィキペディアより)


2019年6月1日土曜日

メモリーズ・オブ・サマー



70年代末、ポーランドの短い夏。少年は母の秘密を知る。

Memories of Summer
2016年/ポーランド

監督:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤブチシェンスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ
配給:マグネタイズ
公開:6月1日(土)YEBIS GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー

■ストーリー

1970年代末のポーランドにある小さな町。12歳のピョトレックは新学期までの夏休みを母ヴィシアと過ごしている。父親はソ連へ出稼ぎ中。ピョトレックはその休みを大好きな母親と満喫できるものと思っていたが、母親は毎晩のように外へ出かけるようになり、ピョトレックは疑心暗鬼になる。そんなある日、都会からやってきた少女マイカと知り合い、好意を抱くようになる。

■レビュー

美しい映画だと思った。
まず目を引いたのはオレンジを基調とした色彩設計だ。登場人物たちのブロンドとよく似合い、少年の水色のランニングシャツや朱色の海水パンツを際立たせる。母親の洋服の色合いの選択も、惚れ惚れしてしまう。加えて、部屋に置かれているミッドセンチュリーの素朴な家具調度品。70年代の共産圏の、質素だがお洒落な雰囲気が伝わってくる。

劇中には琥珀のペンダントが象徴的に出てくる。オレンジ色はその琥珀色に呼応していて、映画自体がある時代を琥珀の中に閉じ込めたような雰囲気を持っている。ポーランドは琥珀の産地として名高いそうで、劇中に流れる曲のアンナ・ヤンタルという女性歌手の名前「ヤンタル」はポーランド語で「琥珀」という意味なのだそうだ。

もう一つの魅力はピョトレックを演じる少年だ。あどけなさの残る、大人の世界に足を踏み入れようとしている多感な年頃を見事に演じている。『大人は判ってくれない』の頃のジャン=ピエール・レオや『小さな恋のメロディ』のマーク・レスターを思わせる。この少年が登場するだけで、映画が成立してしまう。そんな存在だ。

表層の美しさとは相反して、物語はかなりダークでトゲがある。母親の不倫、引っ越して来た少女への恋が、楽しいはずの少年の夏休みに影を落とす。信頼していた2人の女性の欲望と嘘を目の当たりにするのだ。この時期のポーランドは西側諸国からの資本と技術を導入し高度成長を目指したが失敗、経済的に混乱を極めていたようで、出稼ぎによる夫(父親)の不在が社会や家庭に深く影響を及ぼしてるているように見える。

多くは語られず、謎めいていて、パズルのようにピースを当てはめていく必要がある。ある種のミステリとしての語り口だ。欲をいえば、母親の不倫相手の必然性を、もう少し露にしてくれたら良かったと思うが、何度も観たくなる中毒性を孕んでいる。


(カネコマサアキ★★★☆)