2019年6月1日土曜日

メモリーズ・オブ・サマー



70年代末、ポーランドの短い夏。少年は母の秘密を知る。

Memories of Summer
2016年/ポーランド

監督:アダム・グジンスキ
出演:マックス・ヤブチシェンスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ
配給:マグネタイズ
公開:6月1日(土)YEBIS GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー

■ストーリー

1970年代末のポーランドにある小さな町。12歳のピョトレックは新学期までの夏休みを母ヴィシアと過ごしている。父親はソ連へ出稼ぎ中。ピョトレックはその休みを大好きな母親と満喫できるものと思っていたが、母親は毎晩のように外へ出かけるようになり、ピョトレックは疑心暗鬼になる。そんなある日、都会からやってきた少女マイカと知り合い、好意を抱くようになる。

■レビュー

美しい映画だと思った。
まず目を引いたのはオレンジを基調とした色彩設計だ。登場人物たちのブロンドとよく似合い、少年の水色のランニングシャツや朱色の海水パンツを際立たせる。母親の洋服の色合いの選択も、惚れ惚れしてしまう。加えて、部屋に置かれているミッドセンチュリーの素朴な家具調度品。70年代の共産圏の、質素だがお洒落な雰囲気が伝わってくる。

劇中には琥珀のペンダントが象徴的に出てくる。オレンジ色はその琥珀色に呼応していて、映画自体がある時代を琥珀の中に閉じ込めたような雰囲気を持っている。ポーランドは琥珀の産地として名高いそうで、劇中に流れる曲のアンナ・ヤンタルという女性歌手の名前「ヤンタル」はポーランド語で「琥珀」という意味なのだそうだ。

もう一つの魅力はピョトレックを演じる少年だ。あどけなさの残る、大人の世界に足を踏み入れようとしている多感な年頃を見事に演じている。『大人は判ってくれない』の頃のジャン=ピエール・レオや『小さな恋のメロディ』のマーク・レスターを思わせる。この少年が登場するだけで、映画が成立してしまう。そんな存在だ。

表層の美しさとは相反して、物語はかなりダークでトゲがある。母親の不倫、引っ越して来た少女への恋が、楽しいはずの少年の夏休みに影を落とす。信頼していた2人の女性の欲望と嘘を目の当たりにするのだ。この時期のポーランドは西側諸国からの資本と技術を導入し高度成長を目指したが失敗、経済的に混乱を極めていたようで、出稼ぎによる夫(父親)の不在が社会や家庭に深く影響を及ぼしてるているように見える。

多くは語られず、謎めいていて、パズルのようにピースを当てはめていく必要がある。ある種のミステリとしての語り口だ。欲をいえば、母親の不倫相手の必然性を、もう少し露にしてくれたら良かったと思うが、何度も観たくなる中毒性を孕んでいる。


(カネコマサアキ★★★☆)