2021年8月16日月曜日

Summer of 85

フランソワ・オゾン監督が描く、少年たちの運命の出会いと永遠の別れ。

映画制作の原点となった小説の映画化。



Summer of 85


2020年/フランス


監督・脚本:フランソワ・オゾン

出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ

配給:フラッグ、クロック・ワークス

上映時間:101分

公開:2021年8月20日(金)より 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開

HP:https://summer85.jp


●ストーリー

 1985年の夏のフランス。セーリングを楽しもうとヨットで一人沖に出た16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーブル)は、突然の嵐に見舞われ転覆してしまう。その時、彼に助けたのは、18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)だった。二人は急速に惹かれ合い、友情を超えてやがて恋愛感情で結ばれる。アレックスにとってはそれが初めての恋だった。互いに深く想い合う中、ダヴィドの提案で「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを二人は立てる。

 しかし、一人の女性の出現を機に、二人の気持ちはすれ違い始める。追い打ちをかけるように事故が起こり、ダヴィドは帰らぬ人となってしまう。悲しみと絶望に暮れ、生きる希望を失ったアレックスを突き動かしたのは、ダヴィドとあの夜に交わした誓いだった――。



●レヴュー 

 物語は、警察署のシーンから始まる。なぜあんなことをしたのかと問われる主人公のアレックス。その問いに、彼はダヴィドとの始終を語リ始める。ちょっと謎めいた始まりがいかにもフランソワ・オゾン監督らしい。

 フランスのノルマンディーの海岸沿いに暮らすアレックスとダヴィド。二人の出会いは、ある夏の日。アレックスのヨットが転覆し、それを助けたのがダヴィドだった。文章を書くのが好きで少し奥手、進路に悩みを抱えていたアレックス。一方のダヴィドは奔放で能動的。だが父親を亡くしどことなく謎めいた少年。二人は急速に近づき、互いに惹かれていく。自分にないものを相手に求めていたのだろう。突然訪れた胸の高鳴り、溢れ出る愛おしさの感情、そこから始まる切なさと苦しさ、危うさに悶える若者の姿をフランソワ・オゾン監督は瑞々しく見事に描き出している。

 

 監督が、10代の頃に読み影響を受けたというエイダン・チェンバーズの小説「おれの墓で踊れ」が原作。じっくりと35年の年月をかけてどう撮るかを練り、小説を読んだ当時の感情を重視して映像にしたという。作品は1985年の夏の出来事で、原題は「Ete 85(85年 夏)」。それは監督がこの小説を読んだ年とリンクしている。全編フィルムで撮影され、その質感は当時に撮影されたような雰囲気を醸し出す。衣装や、音楽からも当時の様子が伝わってくる。だが、不思議と年代を意識することはなく、物語に引き込まれる。しっかりとした物語の展開の中、二人の青年の心の機微を丁寧に追って描写しているからだろう。 


 その少年を演じた二人の若い俳優、フェリックス・ルフェーブル、バンジャマン・ヴォアザンが素晴らしく、また、二人の間に入り、重要な役所であるケイトを演じたフィリッピーヌ・ヴェルジュもフレッシュで魅力に溢れている。とりわけ、アレックスを演じたルフェーブルは、前半は、初恋に沸き立ちそして悶え苦しむ葛藤を、後半は恋と友情を失った失意の中、彼との約束を果たそうと苦しみ、やがて自身を見直していく姿を繊細に演じている。


 原作を拠り所として純粋に仕立てられたこの作品は、観る人の心を揺さぶり、またかつて心が高鳴ったり感傷的になったりした頃の記憶を呼び起こすだろう。フランソワ・オゾン監督のそうした手腕は秀逸だと思う。(★★★☆加賀美まき)