2021年12月31日金曜日

なれのはて


フィリピンのマニラ。貧困地区で暮らす困窮邦人たちがいる。その中の4人を、およそ7年に渡って撮り続けたドキュメンタリーだ。

落ちぶれた生活といえばそうだが、そこには日本では得られない幸せもある。

 


監督:粂田剛

出演:嶋村正、安岡一生、谷口俊比古、平山敏春

製作年:2021

製作国:日本

配給:プライトホース・フィルム

公開:20211218日より新宿K’s cinemaほか

上映時間:120

公式HPhttps://nareno-hate.com/

 

ストーリー

 

マニラの貧困地区で、ひっそりと暮らしている日本人の老人たち。フィリピーナにはまり、離婚してフィリピンにやってきた元警察官。しかし脳梗塞からフィリピン人妻に逃げられ、今は社会の片隅で何とか暮らしている。退職後、マニラで内縁の妻と10年近く同居生活を送り、細々と日本人ガイドの仕事をしている者もいる。日本で事件を起こし、マニラにやってきたが、お金がなくなって路上生活をしていた元暴力団員。フィリピンで持ち金を全て無くし、その場の仕事で食い繋ぐも、今は結婚して子供もいる者。みな、生きていくのにギリギリの生活だが、彼らは日本に戻る道は選ばない。


レビュー

 

3回東京ドキュメンタリー映画祭で長編部門グランプリと観客賞をダブル受賞した作品。映像作家の粂田剛が、2012年から2018年の間、マニラで暮らす4人の困窮邦人たちを18回に及ぶ取材で撮影したドキュメンタリーだ。

 

僕は海外へよく行ったが、現地で生活したことはない。だからいつも海外は旅行者の目線だ。そんな僕でもたまに、現地に住んでいる邦人たちと接触することはある。働いている若者も入れば、現地で結婚して住んでいる者もいる。しかし東南アジアで現地妻と暮らしている男たちは、他の国で結婚して暮らしている邦人たちとは、どこか雰囲気が違う。

 

「なれのはて」というすごいタイトルだが、実際に映画は本人が自業自得で選んだ末の貧しい境遇を映し出す。そして当の本人たちも、カメラに撮られながら自嘲気味にだがそれを自覚している。だが、彼ら自身が不幸せと感じているかどうかは別だ。おおむね現在の境遇になったことを後悔していない。誰かへの恨みつらみはないのだ。

 

困窮老人たちは日本にもいる。多分、それと比べても彼らの生活はかなり厳しい。それはその年齢以上の見た目の老け具合や、ボロボロになった歯並びからもわかる。彼らの年齢が僕とそう変わり無いのに、70歳代に見えてしまうことに驚いた。過酷な生活や栄養状態、あるいはドラッグによるものなのかもしれない。とにかく彼らは、日本の同年代の老人よりも老けて見えるのだ。

 

特に気になったのは、歯の抜け具合だ。日本だったら医療補助や生活保護を受けて治すのだろうが、フィリピンで保険に入っていない彼らは、歯の治療は高額になるので治せないのだろう。具合が悪くなっても、病院に行くにはお金がかかるのだ。

 

では日本に帰って来ればいいじゃないかと思う人もいるだろう。

しかし彼らはすでに日本には居場所がない。居場所は単に物理的な場所ではない。他者との関係性が大事だが、その関係が日本ではもうないのだ。一度戻った者も居心地が悪く、またマニラの貧困地区に戻ってきてしまっている。

 

そんな彼らがマニラに住むのは、快適な暮らしのためではなく、人として付き合ってくれる人々が周囲にいるからだ。日本で多少いい暮らしができても、独居老人となり精神を病んでいく人もいる。それに比べれば、彼らの方がよほどまだ社会の中で生きている。とはいえ、貧乏は貧乏で、その生活は決して楽ではない。

 

ショックなのは、映画の後半になると、亡くなって行く人もいること。「〇〇さんなら、先月亡くなりましたよ」という感じなのだ。人生の終わりのそのあまりのあっけなさに、こちらも動揺してしまう。そして、彼らの生涯を単純に良かったとも悪かったともいえないが、自分ならどうしようと考えるのだ。

 

★★★前原利行)