2022年7月17日日曜日

Blue Island 憂鬱の島

 文化大革命、六七暴動、天安門事件など、過去を紐解きながら、香港人としてのアイデンティティを探る『乱世備忘 僕らの雨傘運動』監督の意欲作



2022年/ 香港・日本
監督・編集:チャン・ジーウン
配給:太秦
上映時間:97分
公開:7/16(土)よりユーロスペースほか全国順次公開 
HP : blueisland-movie.com


●レヴュー

先月の6月4日(天安門事件が起きた日である)、マレーシア出身のリム・カーワイ監督らが主催する『時代革命の少年たち』(2021年/レックス・レン、ラム・サム監督)という香港映画の上映会があったので、参加してきた。
ストーリーを簡単に説明すると、2019年の民主化デモに参加し、警察に逮捕されたことをトラウマに抱える17歳の少女が、死をほのめかして行方不明になり、デモで居合わせた少年達グループが彼女を探し回るという劇映画だ。当時、抗議の自殺をする若者が相次いだという事実を背景としており、登場人物の様々な家庭事情も描かれていた。
場内には、在日の香港人たちも駆けつけており、上映後のトークショーも熱気を帯びていた。上映中、すすり泣きの声も聞こえてきた。映画の終わりは、決してバッドエンドではなく、希望を感じられるものではあったが、彼らにとってはまだ生々しい記憶であり、デモの灯火はまだ消えていなのだ、と実感した。

さて、本作『Blue Island  憂鬱の島』は、以前ここでも紹介した『乱世備忘 僕らの雨傘運動』(2016)を監督したチャン・ジーウン監督の新作だ。今回は、ドキュメンタリーとフィクションを交えた斬新なスタイルで、過去の民主化運動と、それに関わりのあった実在の人びとを取り上げ、現在に至る香港人のアイデンティティを浮かびあがらせようと試みる。具体的には、雨傘運動に参加した若い世代の俳優が実在の人物を演じ、過去の事件を映画化するという過程を見せるというもの。この方法は、スタンリー・クワン『 阮玲玉』(1993)やジャ・ジャンクーの作品群を思い出させる。全般、方法論に加え、画も素晴らしかった。

ビクトリア・ハーバーで水泳を楽しむ老人チャン・ハックジー(陳克治)74歳。1968年、彼と恋人(現在の妻)は、中国本土から、海を泳いで香港に逃れてきた。その様子を97年生まれの若手俳優たちが演じる。その映像は、やはり文化大革命から香港に逃れる筋書を持った唐書璇『再見中国』(1972)のシーンとよく似ていて、つながりを感じた。

セッ・チョンイェン(石中英)、ヨン・ヒョッキッ(楊向杰)70歳。彼らは16歳の時、共産主義寄りの文芸誌を配布したことで、投獄された。当時信じていた共産主義が、現在では形を変え抑圧する側になっていることを複雑に思っている様子。日本ではあまり知られていない六七暴動は、文化大革命に刺激を受けた香港の親中派の労働者が、香港イギリス政庁に抵抗するデモを行い、それが7か月に及ぶ暴動に発展。1,936人が逮捕・起訴され、832人が負傷(うち警察官212人)、51人が死亡するという事件だ。

ラム・イウキョン(林耀強)54歳。1989年、学生支援のため訪れた北京で天安門事件に遭遇。中国民主化運動の敗北感をひきずって生きている。彼が実生活で人と会い吐露する会話に同年代としてシンパシーを感じる。
そして、映画は最後のパートで、有名・無名は問わず、意外な人たちを登場させる。これには驚いた。


翻って、日本はどうか。
僕は去年から、この国がジョージ・オーウェルの『1984』で描かれた未来社会の更に上をいくディストピア国家になってしまったと感じている。香港は問題の所在がはっきりっしているだけマシに見えるが、日本国民の大半はその問題の所在さえわかっていない。巧妙に隠されているのだ。「伝えない」「知らせない」という言論統制をするマスコミ。”洗脳”という言葉がぴったりかもしれない。データ改竄、ワクチンのリスクを伝えないまま幼い子供にまで打とうとする勢力(民族浄化か?)、一方的なウクライナ報道、改憲勢力3分の2を獲得した参院選、安倍元首相の銃撃事件から露わになったカルト教団との関係…。どこか誰かのシナリオ通りな感じもするし、不気味で不穏だ。この国は一体どこへ向かおうとしてるのか。「憂鬱の島」とは、この国の事ではないだろうか?

(★★★☆カネコマサアキ)


関連事項

2019年の香港民主化デモの記録を描いた大作『時代革命』(2021) も8月13日(土)に同館にて緊急公開。こちらも合わせてみると、本作のラストがより響いてくると思う。