2020年3月7日土曜日

レ・ミゼラブル

Les Miserables
世界で各賞を受賞、パリ郊外の移民の街の1日半を描く問題作


2019年/フランス
監督:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
配給:東北新社
公開:228日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマにて

●ストーリー
パリ郊外の街モンフェルメイユ。ここには住民の大半が移民や低所得者たちという団地があり、複数のギャング団がお互いに緊張関係にあった。その街に赴任して来た警官のステファンは、街を巡回しているうちに警官の威圧的な態度やそれに対する住民の怒りを感じる。
その日、少年たちの一人がサーカスからライオンの子を盗んだことから、グループ間の緊張が高まった。
ステファンたちは事件解決を試みるが、やがて取り返しのつかない事態に発展していく。


●レヴュー

新型ウィルス騒ぎで、映画館から客足が遠のいているこの時期に公開されるのがもったいない。カンヌ国際映画祭で『パラサイト 半地下の家族』と賞を争い、審査員賞を受賞するなど、世界各国で高い評価を得た作品で、見応え十分。落ち着いたら是非足を運んで欲しい作品だ。

冒頭はサッカーW杯に湧く2018年のパリ。 
20年ぶり2度目の優勝を果たしたフランスチームに興奮する人々。その中にこの物語の一部となる少年たちがいる。パリ中心部から電車やバスに乗って少年たちが帰るのは、郊外の街モンフェルメイユの団地だ。

モンフェルメイユは、ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台となった街で、映画のタイトルもそこから取られている。その郊外団地に住むのは貧しい移民たちだ。純粋な白人系と言えるのは、映画の中ではごく一部しか登場しない。
移民たちと言っても出自は様々で、アラブ系、ブラックアフリカ系、ムスリム、ロマの人々など。
彼らはギャングのようなグループのもとで、微妙な均衡を保って暮らしている。この団地では住民に高圧的な警官でさえ、地元グループの協力なしには治められないのだ。

かろうじて保たれている団地の平穏だが、真夏の暑さの中、ギャングにもコントロール不可の少年たちにより、物事はより悪い方向へと連鎖反応的に向かっていく。
貧しさの中、行き場のない彼らの主張は「怒り」しかない。見た目は白人ではない彼らだが、生まれたのはフランス。フランス語しか話せないものもいるし、フランス以外は知らない。しかし二級市民扱いされていることは確かだ。
社会から見捨てられたような彼らだが、それではどうすればいいのか。取り締まる側の警官の中にも、この団地で生まれ育った者がいる。暴力が日常の社会では、ギャングも警官も紙一重だ。

少年たちの怒りが爆発する、ラスト30分の緊迫感には圧倒されるだろう。スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』、フェルナンド・メイレレス監督の『シティ・オブ・ゴッド』に匹敵するパワーだ。
本作はラジ・リ監督初の長編劇映画だが、ドキュメンタリー畑出身の生々しい演出は、観客がまるでその地区を歩いているような緊張感を与えてくれる。

行き場のない現状だが、本作の唯一の希望は冒頭のW杯応援シーンに現れている。その時、そこに集まった人たちは皆、フランス国民として連帯感が生まれていた。
一時的なものだが、そこにヒントはないかと示しているのだ。(★★★★前原利行


2020年3月5日木曜日

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像


オークションにかけられた幻の名画。老いた画商が人生最後の勝負に挑む


2018
監督:クラウス・ハロ
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
公開:228日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか
公式HP: lastdeal-movie.com/
●ストーリー
長年仕事を優先し、家族をおろそかにしてきた老画商のオラヴィ。ヘルシンキで小さなギャラリーを営む彼の元に、音信不通だった娘から連絡が入る。問題を起こし、職業体験の引受先がない孫息子のオットーを預かってくれというのだ。その一方、オラヴィはオークションに出品されていたある男の肖像画に心を奪われていた。署名がないために安い価格がついていたその絵だが、オラヴィは妙にひっかかるものを感じたのだ。オットーと共に作者を探し始めたオラヴィは、その絵がロシア写実主義の巨匠イリヤ・レーピンの作ではないかと推測する。

●レビュー
イリヤ・レーピンを知っているだろうか。
世界史や美術史の本にはたいてい「ヴォルガの舟曳き」が掲載されるが、個人的には「イワン雷帝と息子イワン」が印象的だ。伝説を取り入れたこの絵では、抗議しに来た息子をイワンが癇癪を起こして杖で殴り殺してしまった直後を描いている。自分がしでかしたことに恐れおののく老人の恐怖の表情が、夜に見たらトラウマになりそうなぐらい怖い(ゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」に匹敵する)。

イリヤ・レーピンはロシアの巨匠だが、その作品の多くがロシア国内にあるため、世界的にはあまり知られていなかった。晩年はサンクトペテルブルク郊外に住んでいたが、その地がフィンランドの独立とともに編入されると、高齢であることを口実に帰国することなく1930年に没した。やがてソ連=フィンランド戦争が起き、レーピンの住んだ地はソ連に編入される。

そのような経緯があるので、本作のような「幻の名画」の話も俄然現実味を帯びてくる。レーピンの晩年に描かれた絵がフィンランド内に残っていても不思議はない。それではなぜ署名がないのか。その謎を探る部分はミステリー仕立て、そしてそれを周囲に知られることなく落札する下りはサスペンスになっている。ただしそれはストーリーを進行させるためのもので、強く印象に残るのは、他人に対して愛情が薄かった仕事人間が年老いてようやく家族の大事さに気づくドラマ部分だ。

主人公のオラヴィは日本人でもいそうなキャラクターだ。仕事熱心といえば聞こえはいいが、自分のことにしか関心がないとも言える。不実ではないが、相手のことに関心がない。それは家族に対しても同様だ。
面倒なことを考えるより、仕事をしている方が楽と人生を過ごしてきた感がある。
そんな男が、この肖像画の購入を通して、今まで気がつかなかったものに気づくが、人生は残り少なかった。観ていてなんとなく、自分の父親とオーバーラップしてしまった。派手さ皆無の小品だが、こうした地味なドラマもなかなか良い。★★★前原利行

2020年2月20日木曜日

名もなき生涯



自らの信念を貫き通しナチスに立ち向かった男。
名匠テレンス・マリックが知られざる実話を映画化。


A Hidden Life
2019年/アメリカ・ドイツ

監督・脚本:テレンス・マリック
出演:アウグスト・ディール、ヴァレリー・パフナー、ブルーノ・ガンツ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公開:2月21日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー

■ストーリー

1938年、オーストリアはナチス・ドイツに併合され、その影響は山間の片田舎にまで及ぼうとしていた。農夫のフランツはファニと結婚し、幸せな家庭を築いていたが、たびたび軍事演習に駆り出され、時おり家族と離ればなれになっていた。フランスが降伏したことで戦争は終わるかに見えたが、戦火は広がる一方で、村人たちはナチス党の煽動に飲み込まれて行く。しかし、フランツはヒトラーの思想に疑問を持ち、村長や司教の説得にもかかわらず戦争協力を拒否する。家族が「裏切り者」として村八分にあう中、フランツに召集令状が届くのだった。

■レビュー

まず、こんな人物がいたのか、と驚かされる。
主人公フランツ・イェーガーシュテッターはオーストリアのザンクト・ラーデグント村出身の実在の農夫。映画はフランツとその妻の書簡集『監獄からの手紙』を元にしている。オーストリアがナチス・ドイツに併合されてから、ファシズムは長閑な農村にまで及ぶ。当時の農村というのは互いに助け合い、種まきから収穫まで協同作業をしないと成立しない。周りとうまくやっていかないと生きていけない場所だ。

だが、フランツは村で集める戦争義援金を出す事も、兵役も拒否するようになる。彼の強固な意志は、ヒトラーへの反発というより、純粋に人を殺めることへの罪の意識から来るものだろうと推測する。映画には描かれていないが、意外にもフランツはファニと出会い結婚するまでは暴力的で粗野な男だったらしい。もともとカトリックの信仰に厚い土地柄ではあったようだが、彼女からの愛、彼女を通じた神の愛の発見によって彼が変わったのは想像に難くない。一方で、彼の内なる暴力性は反ナチスへと向かったのかもしれない。現代でいう”パンキッシュ”な形で。

テレンス・マリックの作風は『シン・レッド・ライン』『ツリー・オブ・ライフ』を観ても一貫してるように思う。人間を自然の中の一部として捉える。キリスト教的な神との対話を描きながら、万物に宿る八百万の神をも描いているように見える。人間社会が相対化され、とるに足らない世界に見えてくる。縦横無尽でダイナミックなカメラワークも健在だ。『ベルリン天使の詩』で堕天使役、『ヒトラー〜最後の12日間』でヒトラー役を演じたブルーノ・ガンツのキャスティングも興味深い。

フランツは兵役を拒否したためにベルリンへ送られ収監される。この時期、妻へ手紙を許されたのは月に一度だけだった。独り身ならいいが、三人の子供も妻もいる家長である。本来、守るべきは家族ではないのか?と疑問に思うが、この過酷な状況で信念を貫き通そうとする。名もなき人物のこの行動は、当時、特にニュースとなったわけでもなく、キリストのように十字架にかけられ聖人化されたわけでもなく、何の意味もなさなかったはずだ。だが発掘された事実は、後世に生きる我々に大きなものを投げかけてくる。目の前に見えるものだけを観ていればいいのだろうか?ということを。

(カネコマサアキ ★★★☆)

2020年2月16日日曜日

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ


リアルなシリアルキラーの姿を見せてくれる。おぞましいが画面から目を離せない実録犯罪ドラマ

       屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカのイメージ画像1



2019
監督:ファティ・アキン(『ソウル・キッチン』『女は二度決断する』)
出演:ヨナス・タスラー、マルカレーテ・ティーゼル
配給ビターズエンド
公開:214日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館

●ストーリー
1970年代のハンブルグ。
屋根裏部屋にひとりで住むフリッツ・ホンカは、しがない労働者だ。
彼は行き場をなくした人々が集まるバー「ゴールデングローブ」で酒を飲み、店にやってくる売春婦に声をかける。
しかしホンカの相手をしてくれるのは、老人とも言える年老いたアル中の女性だけだった。
歯並びは悪く斜視という見かけの上、人と会話もできず、暴力的な行動を取ってしまうンカ。
彼は誰からも気に止められない男だったが、大きな秘密があった。
彼の部屋には殺してバラバラにされた女性たちの遺体が隠されていたのだ。

●レヴュー
昨年は『ハウス・ジャック・ビルト』というシリアルキラーを描いたトラウマ級のおぞましい傑作があったが、あれはフィクション。
殺される人もある意味映画的だったが、こちらは実際に1970年代にドイツのハンブルグで起きた、連続売春婦殺人事件を元にした実話の映画化だ。
そしてこちらもトラウマ級のいやーな映画だ。
なのでインパクト大だが、見る人を選ぶだろう。

映画はシリアルキラーであるンカの行動をひたすら追うが、彼の内面はわざと描かない
なのでなぜ彼がこういう人格になったのかは、見るものの想像に任せている。
その代わり彼に殺される運命になる老娼婦たちの側の痛みは、嫌という程伝わってくる。
老いて、彼女たちを買う男もおらず、家族からも相手にされなくなり、一杯の酒を求めて酒場にやってくる。
そして殺人鬼の手にかかり殺されて、バラバラにされるが、誰も彼女たちがいなくなったことも気にかけない。

映画が始まってまもなく最初の殺人の様子をカメラがとらえる。
死体を布に包み、階段をゴトゴトと無造作に引き摺り下ろすが、目立って人に見られてしまう。
そこで死体をのこぎりで切ってバラバラにして運びやすくするのだが、計画性のないンカはそれを近くの公園に捨ててしまう。
まもなく死体は発見されニュースになり、ンカはそれ以来、死体を屋根裏の自分の部屋に隠すようになる。
防腐処理を施すわけではないので、夏には悪臭が漂う部屋になる。
彼の部屋に来た者は皆一様にその悪臭に顔をしかめるが、ンカはその部屋で寝起きし、飯を食い、女を犯し、そして殺す。

映画はンカを通して事件を描くが、ンカの内面は見せないので、私たちは常にンカを外側から見ることになる。
ンカは見た目も中身も下品で最低な男だ
飲み屋で隣に座っていても、友達にはなりたくないし、女からすれば彼氏になんて夢にも思わない男だ。
そしてコミュニケーション下手で、言葉で女を気持ちよくさせることはできず、少しでも女が寄ってきたら暴力的に犯すことしか考えない。
そんな社会の底辺にいる男が殺すのは、同じ、いや、さらに底辺にいる女性たちだ。
まさに地獄。
予告やチラシに使われているような、若くて美しい女性ではなく、年老いて醜い体型をさらしているような女性たちが殺されていく
なんとかここまで生きてきた人生の最後が、こんなのでは地獄すぎる。

そんな陰惨な話だが、語り口は重々しいアート系ではなく、時にはコミカルであったり、時にはサスペンス映画のようであったりと、なかなかうまい。
そして「あー、このままだと殺されちゃうな」というこちらの予想(期待)を裏切る展開はうまい。
つまりンカは殺しでさえ、自分の望む女を手に入れることができないのだ。
また、本筋と関係ないバーに集まる人々や脇役のキャラの描き方もなかなかよく、みなそれぞれの人生が垣間見えるようになっている。
それぞれが懸命になんとかここまで生きてきた。その結果がこれなのか?

あとはアルコール依存の恐ろしさ
劇中、一回だけンカが事故をきっかけにアルコール断ちし、仕事にも復帰して社会的には真面目に生きて行くのだが、それが崩れてまた元の世界に戻ってしまうあたり。
あれ、怖い。“ほどほどに呑む”ができない人もいるのだ。

社会の底辺ということで、昨年大ヒットした映画『ジョーカー』とも共通点があるが、あちらはやはりハリウッド映画なので、「ジョーカー=アーサー」を魅力的に描いているが、こちらは誰も共感を感じないだろう。
そこに、より冷静な視点があると思う。
問題を提起して煽るのではなく、「これは何なんだ」と観客が考える。
『ジョーカー』よりも大人の映画だが、その分、毒も強い。
監督は『愛より強く』『女は二度決断する』など国際的にも評価が高いドイツ人監督のファティ・アキン
★★★★前原利行)

2020年2月13日木曜日

巡礼の約束


ラサへの巡礼を通し家族それぞれの想いが浮き彫りになり、それが受け継がれていく


2018
監督:ソンタルジャ(『草原の河』
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンパ
配給:ムヴィオラ
公開:28日より岩波ホールにて


●ストーリー
四川省北部の山間の村に、夫のロルジェとその父と暮らすウォマ。
ある朝、不思議な夢を見て目覚めた彼女は、夫に付き添ってもらった病院からの帰り、夫にラサに五体投地で巡礼に行く決心を告げる。
15kmぐらいしか進まない五体投地では、ラサまでは半年以上もかかる。
反対するロルジェだが、ウォマの固い決心は揺らがない。
ウォマには実家に預けたままの前夫との間の息子のノルウもいた。

ウォマの巡礼の旅が始まる。
しばらくしてウォマの病を知って追いかけてきたロルジェ、ノルウも巡礼に合流する。
しかし病をおして旅に出たウォマの体は衰弱していった。

●レビュー

ポンポンパッ。
映画を観た後、しばらくその音が耳から離れない。

ご存知の方も多いと思うが、チベット人が一生に一度は望むのが聖地ラサへの巡礼だ。
ラサには活仏ダライ・ラマが住んでいたポタラ宮、巡礼者が訪れるジョカン(大昭寺)がある。
道のりは遠いが、鉄道やバスも通じているので、乗り物に乗れば難なく行けるのは我々も中国の人も変わりない。
しかしチベットの人々が望むのは、自分の家かららラサまで五体投地で行くことだ。
近ければまだいいが、ラサから遠いところに住んでいる人にとっては気の遠くなるような時間がかかる。そして肉体的にも辛い。
夫婦が住むギャロンからラサへは2000km近くもある。
なぜ妻は、突然巡礼を決意したのか。

ある朝、夢で起きた妻が突然供養を始める。
そして医師の診断を受けた後に、ラサへの巡礼の旅を夫に告げる。
妻には死に別れた夫がいた。
その後、再婚したが、前夫との間の息子は実家に置いたまま。
後悔や後ろめたさが、彼女を日々苦しめていたのだ。

この作品をその妻の気持ちで見るのか、夫の気持ちで見るのかによっても感じ方は違うだろう。
隠されていた妻の想いを知り、激しく動揺する夫の心は切ない。
嫉妬にかられるシーンはとても人間臭く、いけないことだがその気持ちはよくわかるだろう。
後半では、今まで夫が向き合うことがなかった血の繋がらない息子との関係が軸になって進行していく。

登場人物すべてが秘めた思いを口にしないが、その分、行き場のない感情がこちらにより伝わってくる。ふだんペラペラと喋らない分だけ、話した時にその中身が心に迫るのだ。
背景に映るチべットの自然が、彼らの気持ちを時には代弁し、時には包み込む。
地味だが丁寧な描写で描かれた良作。
監督は前作『草原の河』が評判を呼んだソンタルジャ。
★★★☆前原利行)

2020年1月14日火曜日

旅シネ執筆者が選ぶ 2019年度映画ベスト10 (前原利行、カネコマサアキ)




前原利行(旅行・映画ライター)

2018年に観た映画は、スクリーン、DVD、新作・旧作含めて193本。前年の160本、前々年の129本に比べずいぶん増え、かなり精力的に映画を見た年だった。その代わり音楽活動はしてなかったけど。去年のトピックとしてはNetflixなどの配信系の映画の充実、「アベンジャーズ」「スターウォーズ」という2大シリーズの終わり。Tsutayaはあと数年でなくなるのだろうなあ。詳しいレビューは、リンク先にあるので、映画タイトルをポチッと押してね。

1.    ROMA/ローマ(アルフォンソ・キュアロン監督/メキシコ、アメリカ)
そのNetflix映画の代表。内容、風格、革新性、どれを取ってもトップクラスの作品。1970年ごろのメキシコシティのある家族をモノクロ画面で描いたもの。画面の奥まで行き届いた画面構成、臨場感あふれる自然音など、大スクリーンで見るべきことは確かなのだが、Netflixでしか公開できなかったところに今の映画界の現状を感じる(どの映画会社も配給に名乗りを上げなかった)。もし見るなら、できるだけ大きな画面のテレビで、しかもヘッドフォンで完全集中してみること。その価値あり。

2.    マリッジ・ストーリー(ノア・バームバック監督/イギリス、アメリカ)
新しい世代のウディ・アレンとも言えるノア・バームバック監督。名作『イカとクジラ』以降はなかなかホームランを出せずにいたが、とうとう素晴らしい作品が来た。自身の離婚の実体験をもとに男女のすれ違いを描いたほろ苦いコメディだ。旬の俳優アダム・ドライヴァー、実は演技派スカヨハ、そして実はコメディ演技がうまいローラ・ダーンと俳優陣のアンサンブルも気持ち良い。

3. アイリッシュマン(マーティン・スコセッシ監督/アメリカ)
3時間を超える作品なのに、映画好きには見ている間は至福の時間が続く。なんならテレビシリーズで毎週やってくれてもいい。多少違和感のあるCG若返りデニーロとかあるけれど、久しぶり登場のペシの凄み、そして今までのスコセッシギャング映画になかった「老い」による人生後悔という視点も新鮮。パチーノが死んでから長いという人もいるけれど、大事なものを失った男の末路をきっちり描いたからこそ、主人公の虚しさが迫る。おお、上位3作はすべてNetflix作品になってしまった。

4. アベンジャーズ/エンドゲーム(アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ監督/アメリカ)
劇場用映画のトップとして本作を入れたい。もう10年も見てきたシリーズ最終作、そして本作を観る前に『アイアンマン』からすべて見直しをして臨んだ。ということで本作単体ではなく、シリーズ全体(『ファー・フロム・ホーム』『キャプテン・マーベル』含む)としてこの位置に。ロバート・ダウニー・JRには功労賞をあげたいぐらい。単体映画としてはいろいろ言いたいことはあるにせよ、見事な大団円に「マーベルありがとう」と言いたい。

5. ロケットマン(デクスター・フレッチャー監督/イギリス、アメリカ)
エルトン・ジョンの前半生を彼の楽曲に語らせる形で再構成したミュージカルで、そのため時系列や事実とは多少異なるが、それが伝記映画よりもよりエルトンと作詞家トーピンの音楽を際立たせている。なのでエルトンの音楽が好きとかで評価が分かれるだろう。日本では死んで伝説になったフレディを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』の人気が高いが、こちらはサバイヴした男で、こちらの方が好み。

6. ハウス・ジャック・ビルト(ラース・フォン・トリアー監督/デンマーク、フランス、ドイツ、スウェーデン)
「もう二度と見たくない映画」というのが、本作の最高の褒め言葉。通常の人間なら、ひたすら不快で目を背けたくなる話を、逃げ場のない映画館の座席で2時間半も見せられるのだから。しかも殺人をコミカルに描くのだから相当悪趣味だ。シリアルキラーの頭の中は見たくもないが興味はある。殺されるのは、たいていが抵抗できない女と子供。おぞましいが、映画は面白い。インパクトで言えば、昨年一番の映画。でも人にはすすめない。

7. ジョーカー(トッド・フィリップス監督/アメリカ)
『ハング・オーバー』シリーズの監督がこんな映画を撮るとは意外だったが、シリアスなドラマもうまい。本作はちょうど自分が映画を見て成長した7080年代のニューヨークを再現しているだけでもうれしい。冷静になってみると話の豊かさはないが、主人公のアーサー=ホアキン・フェニックスに話を絞ることで、観客の共感度は高くなる。予想外の大ヒットだが、世界中で皆、格差社会を肌で感じているからだろうか。

8. スパイダーマン : スパイダーバースボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン監督/アメリカ)
昨年観たアニメの中ではこれがベスト。新しい表現、よくできた脚本、そして感動。日本であまり話題にならなかったのが残念なほど、クオリティは高い。正直、単体クオリティとしては「エンドゲーム」より上かも。マルチバースという設定を生かしての、スパイダーマン世界の再構築もよくできている。「マーベル好きだけどアニメはね」という人は必見。

9. COLD WAR あの歌、2つの心(パヴェウ・パヴリコフスキ監督/ポーランド、イギリス、フランス)
モノクロ画面の中、冷戦の世界で結ばれない男女を描く。ただし二人が結ばれないのは、社会的な冷戦のせいではない。いくら好き同士でも一緒にはいられない、かといって離れれば相手への思いが募る関係。もうこの映画を見た後はしばらくずっと心の中で「オヨヨー」とテーマ曲を口ずさむ。やるせない大人の映画。こういうの、もっと見たいなあ。

すみません、同点ということで3本無理やり入れさせてください。詳しいレビューは、各リンク参照。『2人のローマ教皇』は映画を見たって満足感(Netflixだけど)に浸れ、『シュヴァルの理想宮』は長生きは辛いと考えさせられ、『ホテル・ムンバイ』はテロにあったら生き残るのは運だけって思った。

ベストテンにはもれたけど、見るべきおすすめ作品というか、自分にとって忘れがたい他の作品は以下のとおり。レビューはリンク先に書いてあるので、詳しくはそちらを読んでね。ミスター・ガラス』、『ブラック・クランズマン』、『サンセット』、『アリータ:バトルエンジェル』、『レゴ・ムービー2』、『アートのお値段』、『ワンス・アポン・ア・タイム・ハリウッド』、『スプリングスティーン・オブ・ブロードウェイ』、『アド・アストラ』、『少女は夜明けに夢をみる』。


カネコマサアキ(イラストレーター、マンガ家)


1.アラビアン・ナイト(ミゲル・ゴメス監督/ポルトガル)
『熱波』('12)のミゲル・ゴメス監督による3部作6時間半に及ぶ渾身の大作。千夜一夜物語の「枠物語」の形式を使い、近年のポルトガルの社会事象をオムニバスでケレン味たっぷりに風刺する。ドキュメンタリーとフィクションの虚実皮膜性、時代を超越した語り口が非常に面白い。「パーフィディア」がテーマ曲に使われ、選曲も抜群だった。イメージフォーラム・フェスティバルにて。

2.春江水暖(グー・シャオガン顧曉剛監督/中国)
杭州市・富陽。認知症の母親とレストランを経営する長男を筆頭に四兄弟の大家族の悲喜交々。台湾新電影の影響を隠そうとしないが、素晴らしいと思ったのは、庶民の生活を描いた『清明上河図』のような絵巻世界を映画で構築した点。横移動のワンシーンが特徴的だ。長編デビュー作とは思えない風格と壮大さをもった作品。キャスティングも親戚や知り合いを起用してるというのも驚き。これが第一部というのだから今後が楽しみの若手監督だ。フィルメックスにて。

3.ひとつの太陽(チョン・モンホン鐘孟宏/台湾)
ある事件を起こし少年院に入った弟と自殺した優等生の兄。崩壊した家族の再生の物語。チョン・モンホン監督はかなり癖のあるクライムサスペンスを得意とするが、今回は『エデンの東』+『夜の人々』といった感じの物語で親しみ易い。労苦を重ねた者にしか表現できないような滋味あるシーンに何度か涙腺ゆるむ。主人公の面構えといい、キャスティングも素晴らしかった。金馬奨作品賞・監督賞も納得だ。東京国際映画祭にて。

4.幸福なラザロ(アリーチェ・ロルヴァケル監督/イタリア)
90年代、領主の侯爵夫人の所有するタバコ農場で働く純朴な青年ラザロと村人たちは社会から隔絶され、現代では禁止されている小作人として働かされていた。ある事件を発端に崖から落下したラザロだったが、目覚めると数十年という月日が経っていた。パゾリーニとかマルコ・フェレーリの過去作を思い出すようなどこか懐かしさもあるシュールレアルな作品だが、現代人が失ったものを考えさせられる脚本が秀逸だ。


5.ROMA/ローマ(アルフォンソ・キュアロン/メキシコ)
あるスペイン系中流家庭の家族とそこで働くインディオ系家政婦クレオに起きた出来事。監督の少年時代を節度ある距離感と美しいモノクロ映像で捉えた秀作。ゆったりとしたカメラワークと風景の奥行、そこに流れる時間。そして血の木曜日事件の緊迫感。監督には今後ともメキシコで映画を撮り続けてほしいと思う。

6.読まれなかった小説(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督/トルコ)
作家志望のシナンは大学を卒業後、自らが書いた小説を出版しようとしている。シナンの父は教師で人当たりは良いが、ギャンブル狂いで借金があり、シナンは軽蔑を隠さない。父子の確執と和解がアフォリズムや文学的引用とともに語られる。トロイ遺跡周辺の美しい風景と技巧に富んだカメラワークも特徴的。3時間の長尺ゆえ、一冊の長編小説を読んだような余韻。邦題が上手い。

7.COLD WAR あの歌、2つの心(パヴェウ・パヴリコフスキ監督/ポーランド)
マズレク舞踏団で知り合った音楽家の男と女が、パリへの亡命で別れとすれ違いを繰り返しながらも互いを思い続ける10年の歳月。民俗音楽にブルー・ノートが重なって行く。研ぎすまされたモノクロの映像が素晴らしく、ラストが切ない。

8.WEEKENDウィークエンド(アンドリュー・ヘイ監督/イギリス)
クラブで意気投合した2人のゲイが過ごす週末二日間をミニマルな会話劇で描く。2人は今後再会を果たすのか、それともまた別の男と同じような週末を過ごすのか?同じく今年公開された『荒野にて』はアメリカが舞台で、馬の厩舎でアルバイトする少年が父親を亡くし居場所を探し彷徨する作品。こちらも素晴らしかった。こんな監督いたんだ、と瞠目するが、『さざなみ』('15)を撮った監督だった。

9.サタンタンゴ(1994年、タル・ベーラ監督/ハンガリー)
ハンガリー社会主義時代末期。とある村の共同農場は解散することになり、労働者たちは将来に対し不安を抱えている。そこへ謎の2人組がやってくる。村を覆う不穏な空気。彼らは悪魔なのか、それとも救世主なのか?旧約聖書や神話的要素、旧共産圏の密告・監視社会が織りを成す現代の寓話。反復され出口の見えない物語と輝度の低いモノクロ映像がディストピア感を増す。7時間半に及ぶ伝説的な映画を堪能。忘れがたい映像体験になった。国立映画アーカイヴの「ハンガリー特集」で同時期に観たハンガリー動乱を描いた『もうひとりの人』(’88年、フィレンツ・コーシャ監督)は『サタンタンゴ』以前の重要作で見応えあった。こちらも3時間半の長尺だった。

10.線路の行き先(1970年、ムー・トンフェイ牟敦芾監督/台湾)
高校生の小彤(シャオトン)は親友の永勝をある事で亡くしてしまう。喪失感の中、小彤は屋台で拉麺を売る永勝の両親の手伝いをするようになる。内省人と外省人家族の対比がマズかったのか、同性愛的表現がひっかかったのか定かではないが、当時の台湾の政治状況がで映禁止になった作品が48年の時を経て発掘。牟敦芾監督は台湾の状況に失望し、欧州・南米に渡り、75年に香港へ。ショウ・ブラザーズでB級片を撮るようになる。日帝731部隊を扱った『黒い太陽731(‘88)がつとに有名だ。この『線路の行き先』が公開され、正当な評価を受けていれば、恐らく台湾映画史は変わっていたに違いない。いま台湾の評論家たちは「台湾ニュー・ウェイブ以前のベスト作」と評価してるという。イメージフォーラム・フェスティバル「アヴァンギャルドを想像する:1960年代台湾における映画の実験」より。


次点(入れ替え可能作品)
バーニング 劇場版(イ・チャンドン監督/韓国)
慶州 ヒョンとユナ(チャン・リュル監督/韓国)
芳華(フォン・シャオガン馮小剛監督/中国)
ナタ~魔童降臨(ジャオズ餃子監督/中国)
三人の夫(フルーツ・チャン監督/香港)
第三夫人と髪飾り(アッシュ・メイフェア監督/ベトナム)
ホームステイ ボクと僕の100日間(パークプム・ウォンプム監督/タイ)
永遠の散歩(マティー・ドー監督/ラオス)
サタンジャワ/メモリーズ・オブ・マイ・ボディ(ガリン・ヌグロホ監督/インドネシア)
フィーバー・ルーム(アピチャッポン・ウィラーセタークン監督/タイ)
水の影(サナル・クマール・シャシダラン監督/インド)
ジャスト6.5(サイード・ルスタイ監督/イラン)
死神の来ない村(レザ・ジャマリ監督/イラン)
ペインテッド・バード(ヴァーツラフ・マルホウル監督/チェコ)
私はモスクワを歩く(1963年/ゲオルギー・ダネリア監督/ロシア)
もうひとりの人(1988年/フィレンツ・コーシャ/ハンガリー)
アマンダと僕(ミカエル・アース監督/フランス)
ハイ・ライフ(クレール・ドゥニ監督/フランス)
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(タランティーノ監督/アメリカ)
アイリッシュマン(マーティン・スコセッシ監督/アメリカ)
魂のゆくえ(ポール・シュレイダー監督/アメリカ)


昨年は7時間半に及ぶ『サタンタンゴ』が劇場公開されたり、一昨年のベストテンに挙げた3時間半の傑作『象は静かに座っている』の存在感、『読まれなかった小説』、そして全編6時間半の3部作『アラビアン・ナイト』を観たことことから、「長尺映画」の年という印象。この流行は今年公開される9時間に及ぶドキュメンタリー『死霊魂』(王兵監督)まで続きそうだが、自分の身体や好奇心がいつまで持つか心配だ。自宅のソファーで温々と観る有料チャンネルやネフリ配信の気楽さが身に沁みる。
一方、東京国際映画祭が民間伝承としての側面もある幽霊・お化け映画特集だったので、普段あまりみないホラー・ファンタジー映画をたくさん観た印象もある。HBOが制作したエリック・クー監督をはじめとするアジアの映画監督による『フォークロア』シリーズ、ブードゥーをリアルに描いた『ヘレディタリー/継承』も印象的だった。
6-7月に開催された国際交流基金アジアセンター主催の「響きあうアジア2019」のプログラムも特筆すべき企画で、中でも拡張映画の最新形『サタンジャワ』『フィーバー・ルーム』も忘れがたい傑作だった。
国別で言うと、昨年は中国SF小説が話題となり『三体』がヒットしたが、中国の潤沢な資金による映画制作も目を見張るものがあった。アニメ映画『ナタ~魔童降臨』などを観ると、中国もついにここまで来たか、と完成度に驚かされた。香港のデモに呼応して大陸でも民主化運動が起きるのではないかと期待したが、当局の統制が効いているのか、経済的に豊かになり無関心なのか。映画を観ると後者の理由も大きいのかもしれないと想像する。また、イランの映画の多様性・豊穣ぶりにも目がいった。今年公開される予定の作品を眺めていると、様々な意味で、映画産業も新しいフェーズに入りそうな予感がする。
特集上映としては「ラララ東南アジアクラシック」「爆音映画祭・イサーン特集」「第11回恵比寿映像祭」「キッドラット・タヒミック監督特集」「中国映画祭・電影2019」「第2回イラン映画祭」「赤道上のメイド・イン・タイワン~蔡明亮・現代台湾馬華映像及び芸術」「響きあうアジア~東南アジアの巨匠たち」「ソヴィエト・フィルム・クラシック」「第32回イメージフォーラム・フェスティバル」「日本とミャンマー(当時ビルマ)初の合作映画『日本の娘』デジタル修復版・特別上映会」「PFF」「オーストリア・ハンガリー映画特集」「2019中国映画週間」「第32回東京国際映画祭」「20th フィルメックス」「金綺泳監督特集」「中国映画祭・連結コネクト」「第3回ロシア映画祭」などに通った。


【日本映画】
若手監督の台頭著しい日本映画ですが、興味深い作品も多かったので別枠で選んでみた。『典座』『ある船頭の話』「渡辺紘文監督特集」を見逃してしまったのが悔やまれる。

1.王国(あるいはその家について)(草野なつか監督)
2.月夜釜合戦(佐藤零郎監督)
3.メランコリック( 田中征爾監督)
4.つつんで、ひらいて(広瀬奈々子監督)
5.WE ARE LITTLE ZOMBIES(長久允監督)
6.愛がなんだ(今泉力哉監督)
7.洗骨(照屋年之監督)
8.岬の兄弟(片山慎三監督)
9.ナイトクルージング(佐々木誠監督)
10.沈没家族(加納土監督)

次点. 主戦場(ミキ・デザキ監督)、新聞記者(藤井道人監督)