2021年9月9日木曜日

アイダよ、何処へ?

ボスニア紛争末期に起こった集団虐殺事件の真実に迫った、ヤスミラ・ジュバニッチ監督の渾身作


Quo Vadis,Aida?



2020年/ボスニア・ヘルツエゴヴィナ・オーストリア・ルーマニア・オランダ・ドイツ・ポーランド・フランス・ノルウェー・トルコ
監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ボリス・レアー、ディノ・バイロヴィッチ
配給:アルバトロス・フィルム
上映時間:101分
公開:2021年9月17日(金)より Bunkamuraル・シネマ、ヒューマンとラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次ロードショー
HP:https://aida-movie.com


●ストーリー 

 ボスニア紛争末期の1995年7月11日、ボスニア東部の町スレブレニツァがセルビア人勢力の侵攻によって陥落。避難場所を求める2万人の市民が、町の外れにある国連施設に殺到した。国連保護軍の通訳として働くアイダは、同胞たちの命を守るため施設の内外を立ち回る。一方で、夫と二人の息子を強引に施設内に招き入れ、あらゆる手を尽くして家族を守ろうと奔走する。
 しかし、町を支配したムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力は、国連軍との合意を一方的に破り、避難民を“移送”し、おぞましい処刑を始める・・


●レヴュー 

 1992年に勃発したボスニア紛争は、1995年の終結までに約20万人の死者、200万人以上の難民を出す紛争となった。『サラエボの花』、『サラエボ、希望の街角』のヤスミラ・ジュバニッチ監督が描く本作は、その末期に起きた「スレブレニッツァの虐殺」を真正面から描いた作品である。主人公は、元教師で国連軍の通訳者、妻であり二人の息子を持つ母でもあるボシュニャク人のアイダ。彼女の目を通して、スレブレニッツァの街に攻め込むセルビア人、街を追われれ被害者ボシュニャク人、国連施設を統括していたオランダ軍、3者の動向が語られる。彼女の鋭い眼差しが最後までこの物語を引っ張り、印象深いものにしている。

 セルビアの武装勢力に追われたボシュニャク人は、オランダ軍が統括する国連施設に助けを求めて殺到する。その数2万人以上。施設に入りきれず、ゲートは閉じられる。アイダは、必死の行動で夫と息子を施設に入れ、ある意味なりふり構わず家族を守ろうと画策する。しかし、国連軍はなすすべもない。セルビア人勢力に押し切られ、避難民たちを移送するバスが到着する。アイダも家族と引き裂かれ、夫と息子たち男性らは「選別」されてバスに乗せられる。その非常な光景、そして村の建物に押し込まれ、彼らに銃口が向けられるシーンに胸が締め付けられる。
 
 数年後のスレブレニッツァ。アイダはかつて暮らした家を再び取り戻すため訪れる。見つかっていない家族を探しに、掘り起こされた遺骨を確認しに出向く。そして教師という自分の仕事に戻り、さまざまな背景を持つ子どもたちと向き合う日々が始まる。緊迫感のある展開と変わって、その後の物語は淡々と語られていくのだが、このことがとても意味深い。
 
 劇中、国連施設のゲート前で、一人のセルビア兵の若者がアイダを「先生」と呼ぶシーンがある。彼はかつての教え子で、息子の友人でもあった。ボスニア紛争では、同じ地に暮らす隣人同士が、銃口を向け合い、そして紛争後、人々は再び折り合って生きていくことになる。
 本作で、ボシュニャク人のアイダを演じたヤスナ・ジュリチッチはセルビア出身。その逆の配役もある。そのことに意義があるかと問われ、ジュバニッチ監督は、同じ言語を話し、共通の歴史を持っている自分たちにとって、そして映画にとっても、国は重要でないはずとはコメントしている。

 筆者は、3年ほど前にボスニア・ヘルツェゴヴィナを車で旅した。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの周辺東部と北部に広がる、セルビア人主体のスルプスカ共和国に入ると、道路脇に立つ「スルプスカ共和国へようこそ」というキリル文字が書かれた巨大な看板が目を引いた。一方、スルプスカ共和国を出ると、二か国語表記の地名標識でキリル文字部分だけが黒いスプレーで消されたものがあった。民族が混在するヨーロッパでは、地域によって複数の言語表記の標識が設置されている。その一つが消されているというのは、時々見かける光景なのだが、手の届かないところにある標識まで消されてるものを見たのは、この地域が初めてだった。紛争は終わり四半世紀が経ち、かつて多民族が共存してきた地域は、様々な思いを残しながら、均衡を保っているように見えた。
 国境が見えず、民族という意識の薄い日本人には、本作はこの地域の情勢を知る機会になると思う。
 虐殺されたボシュニャク人は8000人以上。遺体はそのことを隠蔽するために埋め変えられて場所がわからなくなっていたという。今でも年に何体かの遺骨が発見され身元が特定されると、虐殺のあった7月11日に埋葬が行われている。(★★★★加賀美まき)

2021年9月6日月曜日

インディアンムービーウィーク2021 パート2

 インド映画の話題作を紹介する「インディアンムービーウィーク2021」の第2弾が、6月のパート1に続き、この秋開催される。

昨年急逝したイルファン・カーン最後の出演作『イングリッシュ・ミディアム』、少年院の更生に立ち上がる教師を描く大ヒットアクション『マスター 先生が来る!』など4作品が日本初上映。パート1で話題になった『グレート・インディアン・キッチン』など再上映作品を含め、全9作品がラインナップされている。




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場所:キネカ大森 

(924日からは名古屋・大阪・兵庫など全国11カ所で開催)

配給:SPACE BOX

料金:1800円均一

https://imwjapan.com/



【上映作品】



『イングリッシュ・ミディアム』(原題:Angrezi Medium










©Maddock Films, ©Skywalk Films



2020/ ヒンディー語/ 145

監督:ホーミー・アダジャーニア

出演:イルファーン・カーン、ラーディカー・マーダーン、ディーパク・ドーブリヤール


娘の留学を叶えようと奮闘する父を描く、ファミリーコメディー

ラージャスターン州ウダイプルで老舗菓子店を営むチャンパクは、早くに妻を亡くし、娘ターリカーを一人で育ててきた。ターリカーは、ロンドンの大学への留学奨学生に選ばれたが、父の迂闊な一言でチャンスを失ってしまう。志望校の留学生枠は埋まり、残るは英国市民向けの入学枠のみ。チャンパクはロンドンに住む旧友バブルーを頼り、ターリカー、いとこのゴーピーと共にロンドンに向かうが…。実力派俳優が勢揃いしたファミリーコメディ。昨年急逝したイルファン・カーン(めぐり逢わせのお弁当、ヒンディー・ミディアム)最後の出演作。



●『マスター 先生が来る!』 (原題:Master














© B4U Motion Pictures, © Seven Screen Studio, © X.B. Film Creators

2021/タミル語/179

監督:ローケーシュ・カナガラージ

出演:ヴィジャイ(ビギル 勝利のホイッスル)、ヴィジャイ・セードゥパティ(キケンな誘拐)、マラヴィカー・モーハナン、アルジュン・ダース


公開初週の世界興収第1位! 荒廃した少年院の更生に立ち上がる正義の教師

アル中気味の大学教授のJDは、自身が主張した学生会長選挙で起きた暴動の責任をとり休職、地方都市の少年院に赴く。一方、バワーニは、少年時代にギャングの手で両親を殺され、その後少年院での生活で辛酸をなめ、冷酷非道な非合法ビジネスの大元締めに成長していた。バワーニが支配する荒廃した少年院で、JDは少年たちの更生のために立ち上がる。大人気俳優ヴィジャイと注目俳優ヴィジャイ・セードゥパティを主役に据えた、勧善懲悪のアクションドラマ。



●『ラジニムルガン』 (原題:Rajinimurugan













© Thirupathi Brothers



2016/タミル語/155

監督:ポンラーム

出演:シヴァカールティケーヤン、キールティ・スレーシュ、ラージキラン、スーリ、サムドラカニ


極楽トンボのハッピー・マドゥライ生活

南インド、マドゥライに暮らすのんきな無職青年ラジニムルガンは、大きな屋敷に一人住む祖父に可愛がられていた。彼には幼少時からの婚約者カールティカがいたが、彼女の父親の心変わりで遠い町に送り出されていた。美しく成長し帰郷した彼女に、ラジニムルガンはあの手この手で彼女にアタックを試みる。祖父はそんな孫のために屋敷を売却しようとするが、そこに法定相続人を名乗る男が現れて…。人気俳優シヴァカールティケーヤンとキールティ・スレーシュ(伝説の女優 サーヴィトリ)によるカラフルなロマンチック・コメディ。



●『俺だって極道さ』 (原題:Naanum Rowdy Dhaan













© Wunderbar Films



2015/ タミル語/ 139

監督:ヴィグネーシュ・シヴァン

出演:ヴィジャイ・セードゥパティ(キケンな誘拐)、ナヤンターラ(ビギル 勝利のホイッスル)、パールティバン、ラーディカー・サラトクマール、


お洒落な街並みで巻き起こるスラップスティック復讐コメディ

ポンディシェリに住む青年パーンディは、警官の母親を持ちながら極道に憧れており、友達のドーシと一緒に「極道ごっこ」で小遣いを稼いでいた。ある夜、彼は聾唖の女性カーダンバリに出会い、一目惚れする。何とか彼女の心を開こうとするパンディだったが、彼女が求めたのは、幼少時のトラウマとなっている事件の首謀者である大物極道への仇討ちだった…。人気のヴィジャイ・セードゥパティとナヤンターラを配し、旧フランス領ポンディシェリのお洒落な街並みを舞台にした、異色の新感覚リベンジ・コメディ。ダヌシュ(無職の大卒)プロデュース作品。



その他の「パート1」再上映作品はこちら

https://ryokojintabicine.blogspot.com/2021/06/2021-1.html