2021年3月30日火曜日

春江水暖~しゅんこうすいだん

大河沿いの都市に住む4人兄弟。それぞれの家族の生活を、四季の風景を織り交ぜながら描く。

©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

春江水暖 Dwelling in the Fuchun Moutains

 

2019
監督:グー・シャオガン

出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ

配給:ムヴィオラ

公開:2020211日より公開中

上映時間:150

公式HPwww.moviola.jp/shunkosuidan/

 

●ストーリー

杭州近く、富春江が流れる都市・富陽。夏、年老いた母親の誕生日を祝うため、顧(ぐー)家4人の息子たちの家族や親戚がレストランに集う。長男はレストラン経営、次男は漁師、三男は定職に就かず、四男は独身で解体作業をしていた。その祝宴中に母親が脳卒中を起こし、倒れてしまった。長男が介護のために母親を家に引き取るが、生活はギリギリだった。

 

 

 
©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved.

 

●レビュー

ストーリーは、レストランを経営する長男一家のエピソードを中心に進む。長男は四兄弟の中では一番余裕はあるものの、富裕層とも言えない。だから一人娘に富裕層の息子との結婚を願うが、娘が好きなのはお金がない学校教師だ。娘の将来のためと言いつつ、長男夫婦は親の望みを押し付けようとする。

 

漁師をしている次男一家は、集合住宅が取り壊しになり今は船上で暮らしている。立ち退き料を元手に新しい住宅に住み、息子を結婚させてあげたいと願う。自身は貧しくとも、子供には不自由させたくないと願う両親は、現代の日本でも珍しくはない。

 

兄弟のトラブルメーカーである三男は、賭博やヤクザな仕事に手を出しており、兄弟から借りたお金を返したためしはない。それも男手一つでダウン症の息子を育てているからで、そのためにもお金が必要なのだ。

 

いまだ独身の四男は、ビルの解体工事をしている。ただし出番は少なく、四人の中では影が薄い。

 

この四人兄弟を結びつけていた母親が倒れ、認知症になってしまう場面から話は始まる。少しずつ状況が変わっていくが、格別大きな事件が起こるわけではない。せいぜい長男の娘の結婚問題とヤクザな三男がトラブルを起こすぐらいだ。

 

本作はアジア映画を見慣れた人なら、侯孝賢などの台湾映画や中国のジャ・ジヤンクー作品を連想するだろう。僕は何となく『悲情城市』を思い出した。あれも家族をめぐる物語だった。本作もそれらの作品同様、ゆったりとした長回しが特徴だ。特に途中、何度か出てくる河面の横移動が印象的だ。これは、横に長く描かれた山水画の巻物を表すためだという。ただ、時としてその技法が先行しすぎて、鼻につくシーンもある。

 

そうした技術的な演出より感心したのは、素人たちの良さをうまく引き出したキャスティングだ。三男とダウン症の息子の顔がよく似ていて、よく見つけてきたなとプレスシートを見たら、本当の親子だった。そして他の人もチェックしてみたら、他の夫婦も素人で、本当の夫婦が演じていた。なるほど、本当に中国の街にいそうな顔つきという強烈なリアル感は、そこからきていたのかと納得がいった。

 

素人と言っても、長々とした台詞や芝居もあり、下手ではない。多分、本人をイメージした脚本の当て書きをしたのだろう。それに比べると、本物の役者が演じるキャラは少し演技臭ささえを感じる。これは物語を動かしていく役目なので、演技ができる俳優を配さないと仕方がないのだろう。

 

本作は、グー・シャオガン監督のデビュー作で、2019年のカンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれたほか、東京フィルメックスで審査員特別賞を受賞している。

 

★★★☆前原利行)