2016年1月11日月曜日

最愛の子

3歳の息子が3年後によその子となって見つかった・・。
中国で実際に起こった誘拐事件を基に、親たちの至上の愛情を描くヒューマンドラマ。


親愛的/DEAREST
 
2014年/中国・香港
監督:ピーター・チャン
脚本:チャン・ジー
出演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー
配給:ハピネット、ビターズ・エンド
上映時間:130分
公開:2016年1月16日(土)、シネスイッチ・銀座ほか全国順次ロードショー


●ストーリー

 中国・圳の下町。ある日、ティエン(ホアン・ボー)の3歳の息子ポンポンが突然姿を消してしまう。別れた妻ジュアン(ハオ・レイ)と一緒に必死で愛する息子を探すが、警察に届け出て、インターネットを使って情報を求めてもその消息は掴めなかった。罪の意識と後悔に苛まれながらも、かすかな希望を胸に探し続けた3年後、二人は中国北部の村に暮らす息子をようやく見つけ出す。 だが、6歳になった彼は実の親のことを何一つ覚えておらず、育ての親である母ホンチン(ヴィッキー・チャオ)や幼い妹との別れを嘆き悲しむのだった…。

●レビュー

 年間20万人の子どもが行方不明になると言われている中国。本作は、2008年に誘拐された男の子が3年後、両親の元に戻ったという実際に起こった事件が基となっている。

 ある日、人が行き交う都会で、3歳の男の子を何者かが抱きかかえて連れ去ってしまう。前半は、離婚していた夫婦が、愛する息子を一緒に探す姿を追っている。24時間経たないと事件として扱わない警察、組織的な児童誘拐の実態や金目当てにニセ情報を寄せてくる輩など、彼らを取り巻く不条理を盛り込みながら、手がかりすら見つけられない両親の苛立ちや苦悩が描かれる。元妻は次第に心が疲弊していき、子どもが行方不明となった親たちの会で心の内を吐露する。元夫婦が、一連の出来事を通じて関係を変化させていく過程の描きかたが秀逸で、元妻を支えながら、気丈に息子を探し続ける父親をホアン・ボーが見事に演じている。

 そして3年後、遠く離れた農村で育てられていた息子が見つかる。しかし、実の両親のことを息子は何も覚えていなかった。後半は、元夫婦の新たな苦悩と、亡き夫が深の女に産ませた子どもを連れてきたと信じていた育ての母親の難儀を軸に新たな物語が展開していく。都会と農村の格差や一人っ子政策の実情、子どもの連れ去りや置き去りが引き起こす現代中国の闇をあぶり出しながら、失った子どもを必死に取り戻そうとする女性の姿とその悲哀が見事に描かれる。母親役をほぼノーメークで演じたヴィッキー・チャオ。彼女の凜とした姿が後半の物語を実のあるものにしていると思う。

 「ラブソング」「ウォーロード」のピーター・チャン監督は、子どもの誘拐をテーマにしながら、現代の中国社会にある多くの問題と、そこに巻き込まれる人間模様を見事に織り込んでいて心憎い。子に対する親の愛情は、深く至上なものだと感じさせる作品として見応えがある。(★★★★