2016年1月9日土曜日

世紀の光


Syndromes and A Century

『ブンミおじさんの森』アピチャッポン監督の幻の傑作が劇場初公開



2006年/タイ+フランス+オーストリア
制作・監督・脚本:アピッチャポン・ウィーラセタクン
出演:サクダー・ケーオブアディ、ジェーンジラー・ポンパット
配給:ムヴィオラ
上映時間:105
公開:1月9日()よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



レビュー

『ブンミおじさんの森』で一斉を風靡したアピチャッポン監督2006年製作の作品『世紀の光』が劇場公開される。日本ではフィルメックスや一部の映画祭等で上映されたのみで、公開が熱望されていた作品だ。同時に「アピチャポン・イン・ザ・ウッズ」と題したレトロスペクティブも開催される。

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緑に囲まれた地方の病院でのエピソードが、後半部、近代的な大病院で変奏・反復されるという2部構成の映画だ。監督の実家はかつて小さな病院を営んでいて、その頃の記憶から生み出された作品だという。10年ぶりに観て思ったのは、その形式的な部分よりも、ユーモアに長けた美しい映画だな、という印象だ。

 この映画、タイのセンサーシップにひっかかり、タイ国内では公開されていない。その政治的な意味合いが一人歩きしてしまった感もあるが、特に政治批判を強調しているわけでもなく(もちろん意味深な国王夫婦の銅像等もちらりと出て来るが)、人間と病気についての1世紀を、地方と都市、過去と現代(未来?)という軸で、変わるものと普遍的なものを描いてるように見える。根底に流れているのは「諸行無常」かもしれない。

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昨年末、ロンドンの「TIME OUT」紙がLGBTをテーマにした映画のベスト50を発表した。そこでアピチャッポン監督が挙げているベスト10が興味深い。1位は大島渚監督『戦場のメリークリスマス』、3位にツァイ・ミンリャン監督『河』、9位にポール・シュレイダー監督『MISHIMA』とあった。
 やはり、アピチャッポン監督は『ブンミおじさんの森』を作るにあたって、輪廻転生を描いた三島由紀夫の『豊饒の海』を参照している気配がある。そして大島渚監督作品も一通り目を通してるのかもしれない。4作目『トロピカル・マラディ』(04)を含め本作『世紀の光』の2部構成は、彼の専売特許というわけではなく、大島渚が『帰ってきたヨッパライ』(68)40年以上も前にやっていたことでもある。ただ、この作品はモーツアルト生誕250周年を記念して製作された作品で『魔笛』にインスパイアされた作品でもあり、同じ主題が変奏されるアイデアはこちらから来てるのかもしれない。ともかく、その実験精神と冒険心に溢れたスタイルは映画史から観ても興味がつきない。
                
現代美術界でも一目を置かれるアピチャポン監督だが、その類い稀な才能と作家性をいま一度、特集上映で再確認してみたい。3月には最新作『光りの墓』の公開が控え、今年は日本各地で大規模な個展の開催も予定されている。

★★★★


「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ」

20161月9日(土)〜2月5日(金)

『真昼の不思議な物体』『ブリスフリー・ユアーズ』『トロピカル・マラディ』『ブンミおじさんの森』の長編4作と中・短編を集めた「アートプログラム」が上映される。