2020年2月13日木曜日

巡礼の約束


ラサへの巡礼を通し家族それぞれの想いが浮き彫りになり、それが受け継がれていく


2018
監督:ソンタルジャ(『草原の河』
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンパ
配給:ムヴィオラ
公開:28日より岩波ホールにて


●ストーリー
四川省北部の山間の村に、夫のロルジェとその父と暮らすウォマ。
ある朝、不思議な夢を見て目覚めた彼女は、夫に付き添ってもらった病院からの帰り、夫にラサに五体投地で巡礼に行く決心を告げる。
15kmぐらいしか進まない五体投地では、ラサまでは半年以上もかかる。
反対するロルジェだが、ウォマの固い決心は揺らがない。
ウォマには実家に預けたままの前夫との間の息子のノルウもいた。

ウォマの巡礼の旅が始まる。
しばらくしてウォマの病を知って追いかけてきたロルジェ、ノルウも巡礼に合流する。
しかし病をおして旅に出たウォマの体は衰弱していった。

●レビュー

ポンポンパッ。
映画を観た後、しばらくその音が耳から離れない。

ご存知の方も多いと思うが、チベット人が一生に一度は望むのが聖地ラサへの巡礼だ。
ラサには活仏ダライ・ラマが住んでいたポタラ宮、巡礼者が訪れるジョカン(大昭寺)がある。
道のりは遠いが、鉄道やバスも通じているので、乗り物に乗れば難なく行けるのは我々も中国の人も変わりない。
しかしチベットの人々が望むのは、自分の家かららラサまで五体投地で行くことだ。
近ければまだいいが、ラサから遠いところに住んでいる人にとっては気の遠くなるような時間がかかる。そして肉体的にも辛い。
夫婦が住むギャロンからラサへは2000km近くもある。
なぜ妻は、突然巡礼を決意したのか。

ある朝、夢で起きた妻が突然供養を始める。
そして医師の診断を受けた後に、ラサへの巡礼の旅を夫に告げる。
妻には死に別れた夫がいた。
その後、再婚したが、前夫との間の息子は実家に置いたまま。
後悔や後ろめたさが、彼女を日々苦しめていたのだ。

この作品をその妻の気持ちで見るのか、夫の気持ちで見るのかによっても感じ方は違うだろう。
隠されていた妻の想いを知り、激しく動揺する夫の心は切ない。
嫉妬にかられるシーンはとても人間臭く、いけないことだがその気持ちはよくわかるだろう。
後半では、今まで夫が向き合うことがなかった血の繋がらない息子との関係が軸になって進行していく。

登場人物すべてが秘めた思いを口にしないが、その分、行き場のない感情がこちらにより伝わってくる。ふだんペラペラと喋らない分だけ、話した時にその中身が心に迫るのだ。
背景に映るチべットの自然が、彼らの気持ちを時には代弁し、時には包み込む。
地味だが丁寧な描写で描かれた良作。
監督は前作『草原の河』が評判を呼んだソンタルジャ。
★★★☆前原利行)