2020年10月28日水曜日

私たちの青春、台湾

台湾の社会運動に突き進んだふたりの若者、彼らをカメラに収めたドキュメンタリー映画監督 それぞれの未来への記録


我們的青春、在台湾
Our Youth In Taiwan

2017年/台湾
監督:傳楡(フー・ユー)
出演:陳為廷(チェン・ウェイティン)、蔡博芸(ツァイ・ボーイー)
提供・配給・宣伝:太秦
上映時間:116分
公開:2020年10月31日(土) ポレポロ東中野他全国順次公開
HP:http://ouryouthintw.com

●ストーリー 
 2011年、傳楡(フー・ユー)監督は、魅力的な大学生に出会う。台湾学生運動のリーダーである陳為廷(チェン・ウェイティン)と台湾の社会運動に参加する中国人留学生の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)。二人に興味を持った監督はカメラを回し、彼らの活動を記録する。
 2014年、為廷は林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、「ひまわり運動」のリーダーになった。一方、中国からの留学生で人気ブロガーの蔡博芸(ツァイ・ボーイー)は、台湾における“民主”のあり方をブログで発信し、書籍化されて大反響を呼ぶ。傳楡監督は、彼らが最前線に突き進む姿を見ながら、「社会運動が世界を変えるかもしれない」という期待感を高めていった。しかし彼らの運命はひまわり運動後、思わぬ方向へと向かっていく。

●レヴュー 
 2014年に台湾で起きた「ひまわり運動」は、親中派の国民党政権がサービス貿易協定を強行採決したことに抗議する学生と社会運動家たちが立法院(国会)に突入し、3週間余りにわたって占拠するというものだった。その先頭に立ち、「ひまわり運動」の学生リーダーとなったのが陳為廷(チェン・ウェイティン)。もう一人、中国人留学生の蔡博芸(ツァイ・ボーイー)は、台湾の「民主」について果敢に発信して人気ブロガーとなり、ブログは書籍化され注目を浴びていた。この二人の大学生を追ったドキュメンタリーは、「ひまわり運動」が、台湾民主化へ向かう若者たちの奔流であったことをしっかりと記録している。「ひまわり運動」は一定の成果を残し、同年11月の統一地方選挙での国民党大敗を導き、台湾政治がよりリベラルな方向へと変革していく転換点となった。

 カメラは、学生たちのありのままの姿を捉え、当時の盛り上がりを映し出す。陳為廷、蔡博芸ふたりの姿は英気に満ちていて、恐れなど少しも感じさせず、台湾の洋々とした未来への期待感があった。ところが後半、事態は思いもよらない方向へと展開する。為廷は、地方の選挙戦に出馬するも性癖のスキャンダルが露見。博芸は学生会長選挙に臨むが、中国人留学生という立場が、反中リベラル層の非難の的となってしまう。映像は、のちに香港で雨傘運動を率いる黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)との交流も映し出すが、台湾・香港・中国が抱える問題の大きさを私たちに突きつける。あらわになる、若さゆえのもろさや危うさ。ふたりの活動は次第に失速していく。

 傳楡(フー・ユー)監督の目線は、ふたりを通じて「台湾」の未来を期待していた。だからこそ、その後の展開に監督自身が失意の底に突き落とされて涙を流すシーンが印象に残る。この作品が、監督自身の成長の記録であったことに大きな意味があるのだろう。本作は2018年・第55回金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。傳楡監督が、「いつか台湾が“真の独立した存在”として認められることが、台湾人として最大の願いだ」とスピーチしたことは大きな話題となった。
 
 私たち日本人には、「ひまわり運動」が突然起こった出来事のように思え、報道された一部分しか知り得なかった。たが、民主化運動はそれまでも台湾の底流に存在していたし、この作品を通して、台湾の歩みを知ることができたと思う。近年、日本では台湾ブームが起こり、コロナ禍においては台湾の政策が注目を集めている。「台湾」の心地よさにともすれば見過ごしてしまいそうになるのだが、彼らのアイデンティティ、歴史や社会についてしっかりと知っておきたいと思う。(★★★★加賀美まき)