2020年11月16日月曜日

セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選

 

 

そのほとんどの作品が主要国際映画祭に出品されているという、ドキュメンタリー作家セルゲイ・ロズニツァ。

今回《群衆》をテーマにした3作品の連続上映が行われるが、日本では今回の特集上映が初上映になるという。スターリンの国葬の記録映像を再編集した『国葬』、政府の自作自演だった裁判を描く『粛清裁判』、ダークツーリズムを考えさる『アウステルリッツ』の3本だ。

 

監督:セルゲイ・ロズニツァ

配給:サニー・フィルム

公開日:202011141211日シアター・イメージフォーラム

公式HPwww.sunny-film.com/sergeiloznitsa

 

 


 

 

国葬 State Funeral

 

2019年/オランダ、リトアニア

 

195335日、ソ連の指導者スターリンの死がソビエト全土に報じられた。世界最大級の国葬のため、彼の死を嘆く人々や世界各地から要人たちが集まってくる。首脳陣たちのスピーチが壇上で始まるが、その後まもなく粛清されてしまう顔も見える。

 

スターリンの国葬の模様を収めたフィルムがリトアニアで発見され、そのアーカイブ映像を編集した作品。驚くのが、デジタル修復されたその映像のクリアさ。スターリンの遺体を一目見ようと多くの群衆がモスクワに集まってくる。盛大な葬儀を世界に発信しようとする政府。人々はスターリンを畏れる一方で敬い、彼が死んだ後はどうして生きていけばいいかわからないと口にするものも少なくなかった。

最後にレーニン廟に埋葬されるスターリンだが、のちにそれが撤去される。権力は時代の前に風化し、群衆の関心はすぐに移り変わるのだ。★★★☆前原利行)

 

 

粛清裁判 The Trial

 

2019年/オランダ、ロシア

 

1930年のモスクワで、8人の有識者の裁判が行われていた。彼らは「産業党」というグループで、共産主義政権への破壊活動を行っていたという容疑だ。その裁判と並行して、街頭で「裏切り者に死を」というスローガンを抱えた群衆が練り歩く。しかしこの裁判はそもそも、“やらせ”だった。

 

本作が進むにつれ、観客は次第に違和感を抱いていく。8人は有罪になれば死刑になるのに、みな積極的に過ちを認め、深い反省の念を述べ、計画が失敗に終わったことを声高に言う。最後になり、ようやく私たちはこの裁判自体がやらせだったことをテロップで知る。今でもたいていの国で、政府は失敗すると国民の不満を逸らすために茶番をでっち上げる。権力を持っているものは、失敗を認めない。そして群衆はそれを信じる。人は自分が思っているよりも、騙されやすい。★★★前原利行)

 

 

 

アウステルリッツ Austerlitz

 

2019年/ドイツ

 

ベルリン郊外のザクセンハウゼン強制収容所跡。夏の晴れた日に多くの観光客がやってくる。かつてここには政治犯のほかユダヤ人やロマの人々が収容されていた。しかし今では単なる観光地と化している。

 

一つのシーンが固定で5分近くあるが、その間私たちは画面をずっと見つめるしかない。一体これは何なのだろうかと観客は自問していく。実はただベタで撮っているようでも、編集によりシーンは巧みに選ばれている。そしてロズニツァ作品共通のサウンド編集がある。意図的に音はクローズアップされている。

 

映画のタイトル「アウステルリッツ」は、本作はドイツの文学者WG・ゼーバルトの代表作「アウステルリッツ」にインスパイアされ、製作されたため。語り手である“私”が、ドイツ帝国時代の建物を巡るアウステルリッツから暴力や権力の歴史を聞く。

建物やその場所には、暴力や権力を刻んだものもある。それを再確認しに行くのがダークツーリズムだが、本作は、すっかり形骸化して単なる観光地になっている事実を映し出す。★★★前原利行)