2020年10月28日水曜日

THE CAVE(ザ・ケイブ) サッカー少年救出までの18日間


2018年にタイ北部で起きたタムルアン洞窟遭難事件の実話を基にタイで映画化

 

 
The Cave
2019年/タイ、アイルランド
監督:トム・ウォーラー
出演:ジム・ウォーニー、エクワット・ニラトウォラパンヤー、ジュンパ・サエンロム
配給:コムストック・グループ+WOWOW
上映時間:104分
公開:2020年11月13日より新宿ピカデリーほか

●ストーリー
2018年6月23日、タイ北部のチェンライ県メーサイの町はずれにあるタムルアン洞窟に、練習を終えたサッカーチームの少年たち12人がチームメイトの誕生日を祝うためコーチと共に入る。しかしその間に豪雨になり、洞窟は入り口から冠水。少年たちは水から逃れるために洞窟の奥へと逃れる。
少年たちが帰らないことで捜索が始まるが、洞窟内の水位が上昇し中に入ることができない。タイ軍の他にもアメリカ軍や世界各地から国際的なダイバーたちが集まり捜索にあたる。遭難から9日後、ようやく英国人タイバーが入り口から4km地点で取り残されている彼らを見つけた。しかし救出には困難が伴っていた。

●レヴュー
日本からも取材班が飛び、世界が注目したタイ北部の洞窟に閉じ込められたサッカー少年たちの救出。遭難から9日後、全員無事が確認されたが、問題は彼らをどうやって救出するかだった。死者が出てしまっては、非難は免れない。さらに雨季が続けば状況はさらに悪化しかねないし、少年たちの体調も心配だ。そしていつかは酸素もなくなる。

本作はその救出劇を映画化したものだが、何人かは当事者が自分自身を演じるなど、ドラマとドキュメンタリーの中間、いわば“再現ドラマ”に近い内容になっている。実際の救出作戦は、地上からの重機の掘削やポンプによる排出などいくつかの方法が同時並行で進められていたが、時間的にダイバーたちによる救出に絞られた。実際の救出に移る前に、途中の経路の確保中にタイ軍人が死亡してしまう事故も起きてしまう。

日本でこうした事故が起きた時、果たして海外の専門家に依頼するだろうか。阪神や東北の震災の時も、申し出を断っていたというニュースを耳にした。もちろん現地入りのインフラが整っていないということもあるが、こうした事故の場合、情報をオープンにすることにより、日本にはない別の意見や方法が生まれる可能性もあるのではないかと本作を見ていて思った。

本作はドラマなので、観客が感情移入しやすいように何人かのキャラクターを立てているが、主人公的な位置にいるのが、洞窟潜水の第一人者であるジム・ウォーニーで本人が演じている。ジムはこの救出劇に参加し、多くのダイバーたちと同様、救出の一部を受け持つ。映画の中心は全体を見たわけではないジムの視点で救出が描かれるので、その手探り感や緊張が伝わるようになっている。

タイ映画ということもあり、タイ側の重要なキャラクターとして登場するのが、ターボ排水ポンプを持ってくるポンプ会社の社長だ。彼が有効な手立てを訴えているのに、お役所仕事で受け付けてももらえないところは、日本でもありそうな話だ。また、排水により田が冠水してしまう地元の稲作農家の女性も登場させ、地元の協力なしには、作戦が成功しなかったことも語ることを忘れてはいない。あとわれわれ外国人からすると、まず偉いお坊さんが登場して祈りを捧げるところがタイらしい。

本作の問題は、いくつかキャラを立てているが、誰もが感情移入して物語に没入するほどではないこと。俯瞰と没入があるとしたら、本作はそれが中途半端になのだ。また救出される側の描写も、入れ込んだほうが良かったのではないか。遭難した側の心理にほとんどふれないので、心細さやハラハラ感がないのだ。たとえば最初のダイバーが発見するくだりはもっと感動的に描けたはずだし、睡眠薬の注射を見て少年たちが躊躇するとかのシーンもなかった。

なので全体的に再現ドラマの域を超えられず、映画的興奮に乏しくなってしまった。とはいえ救出作戦の様子を当事者本人が演じる試みは、リアリティがあり、悪くない面もある。★★★前原利行)