2021年4月24日土曜日

海辺の彼女たち

北国の漁港で、不法就労で働く3人の若いベトナム人女性たち。過酷な現実をドキュメンタリータッチで描く




海辺の彼女たち Along the Sea

2020年/日本、ベトナム

監督:藤元明緒

出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー

配給:E.x.N

公開:202051日より

上映時間:113

公式HPhttps://umikano.com/

 

●ストーリー

ある夜、過酷な労働をさせられていた職場から、技能実習生として来日していたベトナム人女性のアン、ニュー、フォンの3人が脱走する。3人はブローカーを頼ってフェリーに乗り、遠く離れた雪深い港町へとやってきた。漁港に住み込みで働き出す3人。仕事は魚の仕分けや、漁の道具のメンテナンスだ。3人は、滞在証が取り上げられていて、不法滞在の身。見つかれば強制送還だ。しかし働き出した矢先に、フォンが体調を崩す。アンとニューはフォンの身を案じて、病院に連れて行くが、身分証がない彼女は診療を受けることができない。やがてフォンは、自分が身ごもっていることをアンとニューに告げる。

 

●レビュー

日ごろニュースで見かける、外国人技能実習生の脱走。

つい、私たちは彼らを犯罪者だと最初から見がちだが、そもそもそれには理由があるのではないか。今は80年代のバブル期の豊かな日本ではない。正直、日本人からしても豊かな暮らしはできない現在だ。本作は、数は減ったがそれでもやってくる外国人労働者の、一つの姿を描く。

 

本作は藤元明緒監督による長編2作目で、前作は日本に住むミャンマー人家族を描いた『僕の帰る場所』。この作品は東京国際映画祭「アジアの未来部門」でグランプリを受賞するなど、各国で高い評価を受けた。今回の『海辺の彼女たち』も各国の映画祭に出品されている。藤元監督は今回、技能実習生から受けたメールをきっかけに脚本を執筆。監督だけでなく、編集も自身が行なっている。

 

本作の主人公は、日本に働きにやってきた若いベトナム人女性たち。

日本人は少し登場するものの、あくまで視点は彼女たちから離れることはない。カメラは彼女たちにピッタリと寄り添ったままだ。20代の同世代の3人は、ベトナムでオーディションで選ばれたという。

 

映画は、言葉ではなく、おもに彼女たちのリアクションを通して、彼女たちが何を感じているのかを私たちに伝える。セリフによる説明は少ないが、間を生かした演出なので、彼女たちが何を考えているのかを考える時間を、私たちに与えてくれる。その時間があるから、私たちは彼女たちに共感したり、寄り添う気持ちを持てるのだ。

 

雪が積もった北国の情景は、彼女たちの心象風景でもある。彼女たちが声を発しない分、荒れた風景がその心を代弁している。アメリカ映画だが、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』にも通じる演出だ。

 

これは外国人労働者たちだけの問題ではない。

彼らの労働に頼らざるを得ない、日本の労働についての問題でもある。過疎化が進む地方。なり手がない肉体労働。少子化。そうしたツケを、すべて外国人に押し付けた結果、不幸が連鎖する。


旅は何も日本人が海外へ行くだけではない。また外国人も、観光目的で来る者ばかりではない。日本にこうしてやってくるのもまた旅なのだ。それが辛いものだとしても。

★★★★前原利行)