2021年5月24日月曜日

ベルリン・アレクサンダープラッツ

ドイツ文学の名作を現代に置き換え、大胆に脚色した3時間の大作。

スタイリッシュな画面に引き込まれる。

 


 


 

Berlin Alexanderplatz

2020年/ドイツ・オランダ

 

監督:ブルハン・クルバニ

出演:ウェルケット・ブンゲ、イェラ・ハーゼ、アルブレヒト・シュッヘ、アナベル・マンデン

配給:STAR CHANNEL MOVIES

公開日:2021520日よりMIRAIL(ミレール)Amazon Prime VideoU-NEXTにて有料(1500円)配信開始

上映時間:183

公式HPhttps://www.star-ch.jp/starchannel-movies/detail_048.php

 

 

ストーリー

アフリカから欧州の海岸に漂着したフランシス。生き残ったのは彼ひとりで、フランシスはこれを機会に正しい人間として生きることを神に誓う。しかし流れ着いたベルリンで、フランシスは知り合った麻薬の売人のドイツ人、ラインホルトの手伝いをするようになる。情緒不安定なラインホルトは、フランシスを支配することで心のバランスを保っていたが、フランシスはそれを友情だと信じる。やがてフランシスは、ラインホルトに手痛い目に遭う。


レビュー

2020年のドイツ映画賞で作品賞を含む5部門を受賞した話題作だ。

 

ドイツ文学の名作を現代に蘇らせたのは、アフガニスタン系ドイツ人のブルハン・クルバニ監督だ。1920年代の話を現代に、主人公をドイツ人からアフリカからの難民に置き換え、物語を再構築した。監督によれば、現在では社会の底辺にいる主人公を描くのには、難民の方がリアリティがあるからだ。

 

社会の底辺にいたり、犯罪を犯したりした者には、再び悪の誘惑が寄ってきやすい。

更生はなかなか難しいという話でもあるのだが、それを抜きにして僕は、主人公フランシスとこの物語では悪者になるラインホルトの関係がとてもスリリングで、最後までどうなるかハラハラして見てしまった。フランシスを愛する女たちが出てくるし、フランシスも女を愛するが、彼が依存しているのは女たちではなく、ラインホルトなのだ。

 

とにかくこのラインホルトという男が、観客の嫌悪感を一手に引き受けるようなゲスな男だ。

最初は麻薬組織でも下から数えた方が早いランクで、品がなくボスにも見下されている男として登場するラインホルト。

女を肉体的にしか愛せなく、人の嫌がることをしたがるかと思えば急に親切になる。相手が心を許せば支配したがる。そのくせ急にメソメソしだす。とにかく見ていて最低なやつだ。

 

フランシスも私たちと同じように、最初はラインホルトを嫌悪する。しかし、やがて自分にいいように解釈し、友情を感じるようになる。もっともその友情は一方通行で、周囲から見れば虐待を受けているようにしか見えない。男女のDV事件でこうした相互依存があるようだが、この二人の関係もそうした愛情関係に近いのだろう。フランシスは、支配は愛と勘違いしているのだ。

 

しかしラインホルトがフランシスを優遇するのは、自分にない“気品”や“誠実さ”を彼に感じ、フランシスが人に好かれる何かを持っているからだ。そんな存在を支配することで、自分が気持ちよくなれる。これは嫉妬でもあるが、歪んだ愛情でもある。だからフランシスが女性と付き合いだすと、嫉妬を覚える。だが、ラインホルトは、支配と虐待でしか、相手に愛情を示せない。そこには、2人は無意識なのだろうが、ホモセクシャル的な関係が見える。

 

スタイリッシュな撮影スタイルと寒色系の画面の色彩設計、音楽といったルックだけでなく、存在感のある俳優たちのアンサンブルも素晴らしい。残酷な話だが、ずっと画面を見ていたくなる美しさがある。

 

劇場公開がなく有料配信のみなのが残念。

ただし画像はきれいなので、3時間という長尺だが機会があったらぜひ家で見て欲しい。

 

(★★★★前原利行)

 

有料配信(1500円)MIRAIL(ミレール)Amazon Prime VideoU-NEXTにて

 

 

●映画の背景

原作は1920年代にアルフレート・デーブリーンにより書かれた『ベルリン・アレクサンダー広場』。

社会の底辺にいる元犯罪者フランツ・ビーバーコップが更生を誓いつつも、再び犯罪に手を染めて落ちていくという話で、20世紀ドイツ文学の名作といわれている。

1980年代にヴェルナー・ファスビンダー監督により、15時間に及ぶ長編TV映画化されてもいる(日本では特集上映やDVD販売)。