2020年9月19日土曜日

バナナパラダイス

台湾の歴史のうねりの中、必死に生きる人々の姿をユーモアを交えて描く 
ワン・トン監督作品 劇場初公開(デジタルリマスター版)




香蕉天堂/Banana Paradise

1989年/台湾
監督:ワン・トン(王童)
脚本:ワン・シャオディー、ソン・ホン
出演:ニウ・チェンザー、チャン・シー、ゾン・チンユー、リー・ニン、ウィン・イン
配給・提供:オリフィルムズ
上映時間:148分
公開:2020年9月18日(金)ー11月13(金) 台湾巨匠傑作選2020 にて上映 新宿K’s cinema
HP:https://taiwan-kyosho2020.com

●ストーリー 
 1949 年、幼馴染みで兄貴分のダーション(チャン・シー)を頼って国共内戦中の国民党軍に潜り込んだ青年メンシュアン(ニウ・チェンザー)は、荒涼たる山東省から、バナナが実る緑豊かな南国台湾へとたどり着く。
 ある日、その新天地で二人にスパイ容疑がかけられ、命からがらその場を逃げ出す。ダーションと離れてしまったメンシュアンは途中、ある男の臨終に出くわし、まだ赤ん坊の息子を抱えていたその妻ユエシャン(ゾン・チンユー)に彼女の夫になりすまして仕事に就くことを持ち掛けられる。メンシュアンはその夫の外国語大学の卒業証書の写真を自分の写真を貼り替え、新しい職場に潜り込むのだが・・。


●レヴュー 
 台湾ニューシネマの巨匠の一人、ワン・トン監督の作品『バナナパラダイス』。戦後台湾に続いた混沌とした時代、その中で翻弄され、紆余曲折ありながらも必死に生き抜こうとする人物の姿を涙あり笑いあり、ユーモアと時には風刺を交えながら描いている。 
 冷涼とした山東省から、南の「バナナ天国」に憧れて台湾へやってきた兄弟分の二人。何でも器用にこなして上手く立ち回るダーションに対し、ちょっと間が抜けている弟分のメンシュアンだが、二人は助け合い何とか台湾に身を落ち着けていた。ところが適当につけた偽名から共産スパイと間違えられ逃げ回ることになってしまう。物語の中で、数々のエピソードが展開されるのだが、そこには、二人が逃げ回る先の地方都市、バナナ園が広がる南国の田舎、台北の様子などが描かれ、当時の社会情勢、市井の人々の生活の様子や当時の流行、また故郷への思慕の念なども盛り込まれている。捕まって拷問を受けるなど辛い目にも合うのだが、兄弟分として最後まで続く二人の情合い、バナナ農家に身を寄せるシーンは人情味に溢れ、台湾の人々の暖かさ、大らかさも感じられる。メンシュアンを演じたのは、のちに『軍中楽園』『モンガに散る』でメガフォンをとった若き日のニウ・チェンザー。ちょっと頼りない男をひょうひょうと演じていて印象深い。

 当時は、国民党と一緒に台湾へ渡ってきたいわゆる外省人がいて、国民党時代には、共産スパイの嫌疑をかけられたのも外省人が最も多かった。監督自身も家族で台湾へ渡ってきていて、自分たちの親世代の物語を映画に収めたかったという。そうして作られた「台湾近代史3部作」の2作目がこの『バナナパラダイス』で、1作目は『村と爆弾』(87年)、3作目が『無言の丘』である。市井の人の人生に起きた出来事を描いた本作品だが、出処を隠し、名前を変え、身分を偽って台湾で生き延びていった人々が、小さなエピソードを積み重ねて、台湾の戦後の歴史を支えてきたことを改めて知ることができる。

 ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、ツァイ・ミリャン監督といった台湾ニューシネマの巨匠らの作品とは、別な視線から台湾の姿を描いている本作。ホウ・シャオシェン監督の『非情城市』と同じ年に発表された作品だが、今回が日本初公開。デジタルリマスター版として観ることができるのは本当に嬉しい。今回で第5弾になる台湾巨匠傑作選2020では、台湾ニューシネマから最近作までを公開している。(★★★★加賀美まき)