2020年9月15日火曜日

ヴィタリナ

リスボンの移民街、カーボ・ヴェルデから来た一人の女性が人生を語り始める



Vitalina Varela


2019年/ポルトガル

監督:ペドロ・コスタ

出演:ヴィタリナ・ヴァレラ、ヴェントゥーラ、マヌエル・タヴァレス・アメルダ

配給:シネマトリックス

上映時間:130分

公開:2020年9月18日(金) ユーロスペースにてロードショー、全国順次公開

HP:https://cinematrix.jp/vitalina/



●ストーリー


 ひとり、カーボ・ヴェルデからに夫の住むリスボンにやってきたヴィタリナ(ヴィタリナ・ヴァレラ。ポルトガルに出稼ぎに行った夫が、いつか自分を呼び寄せてくれると信じて待ち続けていた。しかし、夫ジョアキンは数日前に亡くなり、既に埋葬されていた。

 ヴィタリナは亡き夫の痕跡を探すかのように、移民たちが暮らすフォンタイーニャス地区にある、夫が住んでいた部屋に留まる決意をする。そして、その部屋の暗がりで自らの波乱に満ちた人生を語り始める・・。



●レヴュー 


 アフリカのカーボ・ヴェルデで暮らしていたヴィタリナ。出稼ぎに出ていた夫の危篤を聞き、ひとりポルトガルのリスボンの空港に降り立つ。暗闇の中から浮き上がるヴィタリナの姿、不安げなその表情に強烈に惹きつけられる。夫との再会を待ち望んでいた彼女だったが、夫はすでに亡くなっていて、葬儀は3日前に終わっていた。


 亡き夫の面影を辿るように、彼女はポルトガルに残り、夫が住んでいた貧しい移民街フォンタイーニャスの家に住み始める。物語は、ほとんどがこの石造りの住まいの中で進んでいく。昼なのか夜なのかもわからない漆黒の画面とその一部に差し込む強い光とのコントラスト、画面ごとに見事に計算された構図になっている。闇の中では、どこに誰がいるのか、何をしているのかなかなか見えてこないが、不意に人物が現れ、光に照らし出される表情や仕草からそれぞれの心気を読み取っていく。微かな光の中に浮き上がる写真や十字架、花、蝋燭やヴィタリナの衣装なども物語を消化する手がかりとなる。登場人物は静寂の中で呟くように自身を語るので、その言葉を繋いで少しずつ物語を理解していく。全ての場面で五感を研ぎ澄まして映像を向かい合うことになり、何とも言えない深遠な時間が続いていく。


 ヴィタリナ本人、夫を埋葬したという神父、近隣の男たち、夫の最期を看取ったという若い夫婦など、出演者によって考えられたという台詞は、意味深長。訥々とした語られる言葉から、主人公の過酷な生き様や心の機微が少しずつ明からになっていく。人の生死感が浮き彫りにされる中で、ヴィタリナが夫の死を受け入れ、次第に闇が解かれて光が見えてくるという演出は見事だと思う。光が溢れるラストシーンが印象に残る。

 ポルトガルの鬼才『ヴァンダの部屋』ペドロ・コスタ監督の強烈な個性、ヴィタリナを演じたカーヴィタリナ・ヴァレラ(彼女自身もカーボ・ヴェルデからの移民)の鋭敏な演技によって稀有な作品が生み出された。商業的な作品とは対極、また芸術系の映画とも異なり、見る人によって捉え方も評価も変わってくると思う。ロカルノ国際映画祭2019で、金豹賞(グランプリ)と女優賞をダブル受賞した。(★★★☆加賀美まき)