2018年/フランス
Les Confins du Monde
監督:ギョーム・ニクルー
出演:ギャスパー・ウリエル、ギョーム・グイ、ジェラール・ドバルデュー
配給:キノフィルムズ
公開日:2020年8月15日よりシアター・イメージフォーラムほかにて
上映時間:103分
公式HP:konoyonohate.jp
●ストーリー
1945年3月、第二次世界大戦末期の仏領インドシナで日本軍がフランス軍駐屯地を襲い、兵士たちは皆殺しにされた。しかし兵士ロベールは命を取り留め、怪我を癒して密林から連隊に復帰する。彼の願いは帰国ではなく、兄夫婦の虐殺を黙認したベトナム人民ゲリラの将校ヴォー・ビンへの復讐だった。7月、ロベールは部隊と共にジャングルの中で敵を追い求めていた。その一方でベトナム人娼婦のマイと体を重ねるうちに、愛情を抱くようになる。9月、ロベールは戦いの中で行き場のない苛立ちを感じるようになっていた。
●レビュー
第二次世界大戦中の仏領インドシナの状況は、世界史の教科書の中でさらりと触れられるぐらいなので、あまり知らない人も多いだろう。本国フランスが占領されナチスによる傀儡政権ができると、石油などの資源を求めた日本は仏領インドシナに進駐する。現地のフランス植民地政府も本国政府に従い、日本に協力することになる。とはいえ日本の進駐はナチスドイツに断りなく行ったので、ヒトラーも内心は怒っていたらしい。こうして、ベトナム人はフランス人と日本人の両方に搾取されることになり、1944年には凶作もあり200万人のベトナム人が餓死。その間も、日本とフランスは備蓄した、米を放出することはなかった。
この映画は、そんな日本とフランスの協力関係が崩れ、日本軍がフランス部隊を襲った「明号作戦」を発端として始まっている。当時、フランス本国ではナチスの傀儡政権は倒れ、連合国によって解放されていた。すでにナチスの敗北は決定していたが、日本はそれによりベトナムのフランス軍が反旗をひるがえすのではないかと武装解除を求めた。フランス軍はそれを拒否するが、まさか協力関係だった日本軍が襲うと思わなかったようだ。日本軍の奇襲は成功し、将校を含め捕らえた数百人のフランス人捕虜を皆殺しにした。それにより、ベトナムには日本の傀儡政府である「ベトナム帝国」が半年の短い命で成立することになる。
一人生き残ったロベールは、虐殺を行った日本軍ではなく、なぜかそれを黙認したというベトナム共産ゲリラに復讐心を燃やす。ホーチミン率いるベトミンは、日本占領下のベトナムではまだ機会をうかがっている段階だったが、まずは支配者であるフランスを排除するために日本に手を貸したのだろうか。しかし、その経緯が映画では語られていない(主人公の短いセリフのみ)のでハッキリしない。逆恨みのようにも取れるのだ。
私たちには主人公ロベールの内面はわからない。ただ、荒廃した彼の心に映る心象風景のように、ジャングルの中の戦いや雨の中の行軍が語られる。盛り上がりどころとしての戦いではなく、『地獄の黙示録』の中盤以降のようなインナートリップとして、戦場が描かれるのだ。彼を癒すのはベトナム人娼婦のマイだけだが、激しいセックスもロベールを引き止めることはできない。また、ロベールを諭す父親的な存在として、ジェラール・ドバルデュー演じる作家サントンジュも登場するが、結局はそれを振り切ってロベールは再びジャングルに入っていく。12月、すでに日本は降伏していた。
ロベールが追うペトミンの将校ヴォー・ビンは本当に憎むべき敵なのだろうか。そう思うと、ロベールは本当は死んでいて、煉獄をさまよっているだけなのかもしれない。フランスらしく観念的で不思議な味わいの戦争映画だが、すっきりしないので好みが分かれるところだろう。(★★★前原利行)