2019年11月4日月曜日

残された者 —北の極地—


2018年/アイスランド
監督:ジョー・ペナ
出演:マッツ・ミケルセン、マリア・テルマ・サルマドッティ
配給:キノ・フィルムズ/木下グループ
公開:11月8日より新宿バルト9ほか
公式HP:www.arctic-movie.jp

■ストーリー
北極圏にひとり取り残された男がいた。彼の名はオボァガード。地上に大きなSOSの字を書き、魚を釣って生で食べ、毎日同じ時間に救援信号を送り、無駄な体力の消耗を避けていた。何日が過ぎたかわからない頃、信号機が反応し、ヘリコプターがやってくる。助けを求めるオボァガードだが、強風に煽られたヘリは墜落してしまう。パイロットは亡くなるが、オボァガードは機内から重傷を負った女性を救い出す。やがてオボァガードは彼女の命を救うために、氷原を歩き始める決断を迫られる。

■レヴュー
 全編、ほぼマッツ・ミケルセンのひとり芝居。特に中盤に怪我を負った女性が登場するまでは会話もなく、サバイバルする男の日常が淡々と描かれる。男はサバイバル能力に長け、毎日をルーティーンで淡々と過ごしている。映画では語られないが、物語が始まる前は周辺を探査したり、発見される工夫を凝らしたりといろいろ試した結果、今は体力を消耗しない日々を過ごしていることがだんだんとわかってくる。
 
 難しいひとり芝居を、ほぼ無表情のミケルセンがこなしているが、退屈はしない。押し殺していた感情が発露されるのは、ヘリの救援が来た時だ。しかしその希望も、彼の眼の前で崩れ去る。重傷を負った女性は言葉をほとんど話せないし、何人かもわからない。しかし、彼の孤独は少し柔わらいでいく。自分が生き延びる以外の目的ができたからだ。
 
 後半は、彼女の命を救うため、氷原を横断して一番近い観測基地まで行く、サバイバル行だ。歩く。ひたすら歩く場面が続くが、緊張感は崩れない。氷原にいるのは、彼とソリで引かれる女性だけ。彼女の命が尽きるまでに、基地にたどり着かねばならない。もしかしたら、自分ひとりなら助かるのではないか。そんな誘惑が彼を襲う。そんな葛藤も、セリフではなく絵で見せなければならないので、映画としてはなかなかチャレンジだ。
 
 ロケはアイスランドで行われたようだ。ほぼ氷の世界の中の物語だが、最後まで緊張感を持って見せ切るのは、名優マッツ・ミケルセンの力があってこその事。地味な映画かもしれないが、サバイバルもの好きにはなかなかの佳作だと思う。
★★★☆