2018年6月12日火曜日

ガザの美容室



監督:タルザン&アラブ・ナサール
出演:ヒアム・アッバス マイサ・アブドゥ・エルハディ マナル・アワド
配給 :アップリンク
公開:6月23日(土)新宿シネマカリテ、渋谷アップリンクほか全国順次公開

ストーリー

パレスチナ自治区。ガザ。クリスティンが経営する美容室は、女性客で賑わっている 。離婚調停中の主婦、ヒジャブを被った信心深い女性、結婚を控えた若い娘、出産間近の妊婦。彼女たちは世間話に花を咲かせ午後の時間を過ごしていた。しかし、通りの向こうで銃が発砲され、美容室は戦火の中に取り残されることに…。

■レビュー

不躾な言い方かもしれないが、女性の体臭でむせてしまいそうな映画だった。
日差しの強い午後であれば、特に夏という季節でなくても、女性客が集まる美容室の室内温度は上がるはずだ。パーマのアイロン、ドライヤーなど使えばさらに上がりそうだ。東京ならエアコンがあるので問題ないが、舞台はパレスチナ・ガザである。そんな時に停電が起きる。ガザ地区では送電が制限され停電は日常的なことのようだが、扇風機は止まり、ただでさえ仕事がのろい(?)美容師2人の仕事は滞ってしまう。暑さとイライラは頂点へ…。女性たちの本性が露になっていく会話劇であり室内劇だ。
日が傾いてくると外では銃声が。そして砲撃による大きな振動が。彼女たちは外に逃げだすことも出来ず閉じ込められてしまう。映画館という密室にいる観客も同じような臨場感を味わうはずだ。

冒頭から首輪と鎖をつけられたメスのライオンが登場する。何かのメタファーなのかと思っていたら、実際にあった事件を基にしているそうだ。2007年、ガザの大物マフィアが動物園のライオンを盗んだ。そのライオンを奪還するためにハマス自治政府が実行したのが「ライオンに自由を作戦」だ。そう、映画の美容室にいた彼女たちはその奪還作戦に巻き込まれてしまうという設定である。資料にあったジャーナリストの川上泰徳さんの文章によれば、このマフィアというのはハマス自治政府成立前のファタハ政府時代に結びついていた連中なのだそうで、要はパレスチナの中でも派閥争いが未だにあるということを意味している。メスのライオンはそういった男たちによる闘争に揺れ動く女たちを象徴してるのだろうか。

ガザ侵攻、対イスラエルへの政治的な私怨は無くなることはないだろうが、監督は死より生を、ガザに住む人々の日常を描きたかったという。お洒落をしたい奇麗になりたいという女性たちの想いは万国共通。普通の日常を送ることこそがガザにおける抵抗なのだ。彼女たちは一筋縄でいかない多様性を持っているが(それゆえ喧嘩も激しい)、男性社会の下で虐げられる彼女たちの哀しみは、彼女たちを一つにさせる。男女平等ランキング114位というわが国の女性たちにも共感することも多いのではないだろうか。
女性の機微をうまく描いてるので監督はてっきり女性だろうと思っていたら、なんとヒゲをはやした双子の兄弟であった。パレスチナへの偏見を色々と覆してくれる作品だ。
(カネコマサアキ★★★☆)

ザ・ビッグハウス


2017年
監督:相田和弘 マーク・ノーテス、テリー・サリスほか
配給:東風+gnome
公開:シアター・イメージフォーラムにて公開中

■レビュー

日大アメフト部傷害事件が大学運営の問題はもとより、日本社会の潜在的病理として波紋を広げている。ではアメフトの本場ではどうなっているのか?タイムリーなドキュメンタリー映画が公開されている。

ミシガン州にある全米最大のフットボール・スタジアム、通称”ビッグハウス”と呼ばれる施設。名門ミシガン大学が誇るフットボールチーム・ウルヴァリンズの本拠地だ。カメラはその巨大施設の全貌、背景を余すとこなくとらえる。収容人数は10万以上。グラウンドは地階に掘り下げられ、高いビルの上から覗き込むような客席。映画館の大画面で観るとその規模に圧倒されるはず。セキュリティ、食堂、医務室など、大量の観客を捌くスタッフたち。2年後の東京オリンピック関係者は参考になることもあるかもしれない。

開会式イベントでは大学の大所帯のブラスバンドが行進、上空には米軍機が飛行し、特殊降下部隊がスタジアムにパラシュートで降り立ち場内を盛り上げる。そして星条旗が掲揚され10万人が起立して国歌を歌う姿に、尋常じゃないナショナリズムを感じる。こうしてフットボールによる大学ー州ー国という揺るぎないネットワークが出来上がってるのか、と直感的に感じられるシーンである。

日大の事件でも露になったが、アメフトが及ぼすビジネスの面も気になるところ。これがミシガン大の場合、驚くべき収入がある。資料によると2018年のアメフトのチケット収入は44億円を見込んでいる。(次に人気があるバスケットボールが4億というのでその人気の差は歴然としている)加えて、ミシガン大の体育学部全体の予算(収入見込み)は200億円で、放映権料、企業スポンサー、VIP観覧席、グッズなどからの収入がある。日本のプロ野球球団の平均収入125億円を軽く超えているようだ。また大学の広告効果も絶大のようで、内外の卒業生から寄付金も潤沢に集まるという利点がある。日大もこの辺をモデルにしていたのだろうか?それにしても規模が違いすぎる。

ワールドカップ・ロシア大会が間もなく始まり、そして2年後に東京オリンピックも控えているが、日本もスポーツ行政のあり方など、検証すべき時なのかもしれない。日大の問題にかつての軍隊の亡霊を見たように、スポーツから見えてくるものがある。アメフトを通して、アメリカという国の本質に迫った作品である。
(カネコマサアキ★★★)

■関連情報

以前『精神』というドキュメンタリー映画をここで紹介したことがあるが、その想田和弘監督を中心とした混成チームによる作品だ。NY在住ながら外からの視点で日本を”観察”する作品群は広く知られているが、敬愛するワイズマン的手法で、ついにアメリカを観察する。
前作『港町』(★★★☆)は集大成的な作品で、おなじみ牛窓が舞台。モノクロのせいか漁師の顔にきざまれる皺や絡まった網、瓦屋根などマチエールが心地よい。人々の語りと所作から港町が育んで来た歴史が浮かび上がってくる。こちらもおすすめだ。

2018年4月25日水曜日

ダンガル きっと、つよくなる

2016年

監督 ニテーシュ・シュワーリー
出演 アーミル・カーン
公開 2018年4月6日より、全国公開中

■ストーリー
 レスリングで、国のチャンピオンにまで上り詰めたマハヴィル。
引退した彼の夢は、自分の息子に金メダルを取らすことだった。
しかし生まれてきたのは女の子たちばかり。
夢を諦めかけたマハヴィルだが、ある日、娘のギータとバビータが
近所の男の子たちを喧嘩で負かしたことから、新たな希望が生まれる。
二人への特訓が始まった。
厳しい訓練に反抗する二人だが、やがて父親の深い愛情を知り、
また勝利の喜びも知り、前へ向かって進み出す。
数年後、国内の名だたる大会に出場している2人の姿があった。
やがてギータは国の代表選手に選ばれるが、
父とは次第に疎遠になっていく。。。

■レビュー

すでに観た方もいらっしゃるでしょう。
地元の映画館では今週いっぱいなので、急いで行ってきた。
ストーリーは単純。
もと国の代表レスラーだった父が、自分が取れなかった
金メダルの夢を子供に託そうとするが、生まれてきたのは女の子たちばかり。
そこで、父はスパルタ教育で娘たちを強くし、
一流選手に育て上げるという話で、しかも実話を元にしている。

最初は馬鹿にしていた村人たちも、
娘たちが勝ち進みだすと賞賛のまなざしに変わり、
反抗していた娘たちも勝利の喜びと父の深い愛情を知り、
前に向かって進み出す。

インド映画でおなじみのミュージカルシーンはないが、
時折挟み込まれる歌が、ストーリーを補完(覚えやすい曲ばかり)。
成長した長女が都会に出て、親離れしていくところは、
こっちは完全にオヤジの気持ちで、時に涙腺決壊。
「頑張れば夢は叶う」という超ポジティブストーリーも、
2時間半の夢を観客に見せてくれる、
映画館の暗闇のマジックを最大限に生かしている。
後ろを振り返ったら、スクリーンを見つめている
観客の顔がみな、幸せそうだったもの。

人権問題に関心を示しているアーミル・カーンだが、
本作はインドの女性が置かれている社会環境にも問題提起をしている。
成長しても、そのまま結婚して家庭に入り、
家事労働するしかない一生を強いられているインドの女性たち。
本作は、自分で自分の道を切り開くことが、
インドの女性たちにとっても夢ではないという、
メッセージも込められているのだ。

映画館を出た時は、頭の中では主題歌の
「ダンガル!ダンガル!」がぐるぐると回っていた。
★★★☆

PS.
映画とは関係ないところで気づいたのは、
2010年のデリーで行われたコモンウェルス大会がハイライトになるのだが、インドにおいてはオリンピックよりも重要な大会ということ。
確かにあの時、インド人、大騒ぎしていたし。
あと、インド国歌を初めてちゃんと聞いたこと。
それとインドでは、官僚は怠け者で仕事をしないとみんなが思っていることだなあ。

2018年4月13日金曜日

女は二度決断する


あなたならどうする? 家族を失った時、彼女は何を決断したか


2017年/ドイツ

監督:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー
配給:ビターズ・エンド
公開:4月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館にて


■ストーリー

ドイツのハンブルク。トルコ系移民のヌーリと結婚したカティヤは、
息子ロッコも生まれ、3人で幸せな日々を送っていた。
かつては服役もしていたヌーリだが、今は更生して真面目に働いている。
しかしある日、爆弾が爆発し、ヌーリとロッコが犠牲になる。
犯人はネオナチのドイツ人カップルで、目的は人種差別テロだった。
裁判が行われるが、その過程でカティヤは身も心も傷ついていく。
そして裁判の結果を受け、カティヤが下した決断とは…。

■レビュー

もし、これが自分の家族だったら?という問いを、
見ている間、ずっと問い続けられている。そんな辛い映画だ。
移民問題やテロ、悲惨なニュースを毎日見ていても、
どこか他人事のような気がしてしまう。
しかし、もしそれが家族だったら、その苦しみは身近に感じるだろう。

200万人ともいうトルコ系移民を受け入れ、比較的移民に寛容と言われていたドイツだが、近年はシリア系などの移民の増加により、ネオナチや極右による外国人迫害による事件も多発している。
映画のモデルとなったのも、実際にドイツで極右グループが起こした事件だという。
その時はまだ、警察は事件を外国人排斥のテロだと思わず、
何年も犯人を特定することができなかったという。

人はどうしても、相手を国籍や肌、習慣や宗教、その外見で判断する。
それは否定しない。それでしか判断できないからだ。
しかし、自分の置かれている境遇への不満を人のせいにしだりたりすると、それが自分が属していないグループ全体に向けられるようになる。
映画の中でヒトラーを崇拝する若い男女も、
別に外国人の小さな子供に個人的な恨みがあったわけではない。
ただ、外国人だろうが同国人だろうが、結局は個々の人間であることが、もはやわからなくなっているのだ。
いろいろ理由はつけるが、結局は通り魔殺人が言う「誰でもよかった」と大して変わりはない。
で、こうした人は、日本だろうが海外だろうが、その場になったら自分の命は惜しくなる。
そもそも、「人の命は自分の命より軽い」と普段から考えているから起こすのだ。

映画の中で印象深いのは、犯人が捕まるきっかけになったのが、
犯人の父親が「ヒトラー崇拝の息子が何か犯罪をしでかす前に」と警察に通報したことだろう。
しかしその時、すでに犯罪は行われていた。
この父親に主人公は裁判で会うが、主人公はこの父親も大きな苦しみを抱えていることをわかり、許しもしないが責めもしない。二人は多くを語らないが、逆に重さがこちらにも伝わる。二人とも被害者なのだ。

反トルコということで、ギリシアの極右組織とドイツのネオナチが
結びついていることもあるのだなあということも本作で知った。

最後の彼女の決断については、映画を見た各自が重く受け止めるしかないだろう。
それでよかったのか監督自身の迷いも見られるし、正解はないのだから。
★★★

■関連情報
監督のファティ・アキン自身も、トルコ系移民の元に生まれた。
代表作は『そして、私たちは愛に帰る』『愛よりも強く』『消えた声が、その名を呼ぶ』など。
・本作は第75回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、
カンヌ国際映画祭でダイアン・クルーガーが主演女優賞

2018年3月22日木曜日

大英博物館 プレゼンツ 北斎

モネ、ピカソを魅了した江戸時代の天才絵師の魅力を紐解くドキュメンタリー


British Museum presents: Hokusai

2016年/イギリス
監督:パトリシア・ウィートレイ
協力:大英博物館
ナレーション:アンディー・サーキス
出演:デイヴィット・ホックニー、ティム・クラーク他
配給:東北新社
配給協力:DBI INC
上映時間:87分
公開:2018年3月24日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開

●ストーリー 
 2017年の5月から8月にかけて、大英博物館で”Hokusai : Beyond the Great Wave”と題する展覧会が開催された。本作は、葛飾北斎をイギリスで初めて本格的に取り上げたその展覧会をフィーチャーし、展覧会の裏舞台と通して、葛飾北斎の生涯や作品に迫るドキュメンタリーである。

●レビュー 
 大英博物館で開催された北斎展のタイトルは”Hokusai : Beyond the Great Wave「The Great Wave」は大きな浪が砕ける先に富士山が描かれた代表作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のことである。その斬新な構図、圧倒的な迫力、繊細で緻密は木版の色と摺りから、ひときわ人目を惹く作品だ。かつて、印象派をはじめ多くの芸術家に多大な影響を与え、手本ともなった北斎の作品は、その後も多くの作家や研究者を魅了し続けている。

 本作品は「北斎」を多角的に取り上げていて興味深い。北斎は波乱の人生の中で、江戸の町に生きる人々の姿を題材とし、富士山を通して自然の雄大さを描き、最晩年にも圧巻の筆で美しい肉筆画を残している。最新の映像技術よって版画制作の工程や作品の隅々まで鮮明に見ることができるのも感動的で、今まで目にする機会の少なかった肉筆画の作品に触れられることも嬉しい。還暦以降の30年に焦点を当て、90歳を超えても意欲的に絵筆を持ち続けた絵師北斎の生涯を辿りながら、北斎の作品が紐解かれていく点も見所になっている。本作品を通して、北斎が生み出した構成力やデザイン力が、過去芸術作品から現代の漫画に至るまで影響を与え続けているということを実感できるだろう。

 そしてもう一つ感じたのは、驚きを持って北斎作品を見てきた世界の目に対して、私たち日本人が北斎作品から得る感覚は少し違うのではないかということだった。私たちの感動は、ごく自然と湧き上がり、そして印象深く心に刻まれていくようなような気がする。世界に誇る和紙、圧をかけずに「摺る」木版画、美しく雄大な富士山、折々に表情を変える日本の四季の風景、江戸の人々暮らし・・、私たちが日本という国の伝統や文化を背景に持っているからなのだろう。イギリスの研究者のインタビュー聞き、本作の映像を見ながら、日本人として見る「北斎」にも気づかされたように思う。★★★★)加賀美まき

2018年3月18日日曜日

馬を放つ


原題:Centaur
2017年/キルギス、フランス、ドイツ、オランダ、日本

監督:アクタン・アリム・クバト
脚本:アクタン・アリム・クバト、エルネスト・アブドジャパロフ
出演:アクタン・アリム・クバト、ヌラリー・トゥルサンコジョフ、ザレマ・アサナリヴァ
配給:ビターズ・エンド
上映時間:89分
公開:2018年3月17日(土)、岩波ホールほか全国順次公開

●ストーリー 

 中央アジアの美しい国、ギルギルで、妻と幼い息子と3人で慎ましく暮らす男は、村人から「ケンタウルス」と呼ばれていた。遊牧民を祖先に持つキルギルの民は、人と馬を結びつけその土地の伝説に根付いて暮らしてきたが、暮らしぶりは時代とともに変化していく。そのことを憂い、馬にまつわるある伝統は信じるケンタウルスは、夜な夜な馬の厩舎に忍び込み、馬を野に放っていた。
 やがて馬泥棒の存在が問題になり、犯人を捕まえる罠が仕掛けれるが・・・。

●レビュー 
 標高5000メートルを超える天山山脈の麓に広がるキルギス。作品の中で映し出される自然豊かな風景は、どこか懐かしく郷愁をそそるられる。主人公は、ケンタウルスと呼ばれる朴訥な男で、耳の不自由な妻と言葉を話さない5歳の息子との暮らしは、質素で素朴だけれど暖かい。だが、彼にはどうしてもそうせずにはいられない秘密があった。それは、夜、競走馬の厩舎に忍び込んで馬を野に解き放つこと。裸馬にまたがり天を仰ぐように両手を広げ、草原を駆け抜ける主人公の姿に観客はまず惹きつけられるだろう。

 物語の主軸は、遊牧民を祖先に持つキルギスの民の精神文化。グローバリゼーションとともに人々の暮らしぶりは大きく変化し、かつての遊牧民の心は忘れさられ、神話も失われていく。その中で、馬の守護聖者の神話を信じ、遊牧民の強さを受け継ごうとするケンタウルスの思いは、ごく自然に湧きあがってきたものなのだろう。そして、村のコミュニティー内の摩擦、宗教と価値観の問題、貧富の差、そして家族の愛と絆といったさまざまは事柄を織り込みながら、一つの物語が紡ぎ出されていく。作品の場面場面からも、そして全体を見終わった時にも、静かな感動が心に沁みわたる秀作だ。

 監督のアクタン・アリム・クバトは、自身の村で起きた事件の実話をヒントにこの物語を作り出したという。自ら主演も務めることによって、より繊細にこの物語を意図を伝えようとしている。民族の中に流れるものに対する思いが、作品の中にしっかりとした文脈となって感じることができるのはそのためだろう。冒頭のシーンも監督自ら裸馬に乗っている。子どもの時から馬に乗るのが当たり前にキルギスでは何も問題はなかったそうだ。『馬を放つ』という邦題がとてもいいと思う。★★★★)加賀美まき

ベルリン国際映画祭 パノラマ部門 国際アートシネマ連盟賞(CICAE)受賞
第90回 アカデミー賞 外国映画賞 キルギス代表

2018年3月12日月曜日

ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ


恋人が昏睡状態に!? 主人公を本人が演じた実話がもとのコメディ


2017年/アメリカ

監督:マイケル・ショウォルター
出演:クメイル・ナンジアニ、ゾーイ・カザン、レイ・ロマノ、ホリー・ハンター
配給:ギャガ
公開:223
劇場情報:TOHOシネマズ日本橋ほか

■ストーリー
 主人公はシカゴに住むパキスタンからの移民一家の息子。
アメリカに来て成功した親は、息子に医者か弁護士を望んでいるが、
息子はコメディアンを目指して、昼間はUBERの運転手をしている。
その息子が、白人女性と恋に落ちるが、一家は「白人女性なんて!」と大反対。
結婚相手は、パキスタン女性じゃないとと、息子を勘当。
一方で、彼女も主人公の煮え切らない態度に愛想を尽かし、仲は破局に。
しかし、そのすぐ後、彼女は病気から昏睡状態になって病院に入院してしまう。
眠り続ける彼女を看病しながら、主人公は彼女こそ自分の大事な人だと気づく。

■レビュー
ニューヨークを舞台にした映画では、タクシー運転手は
インド人かパキスタン人と決まっているが(笑)、ここではUBERというのが今日的。
しかも貧しい移民ではなく、成功した移民一家の息子というのも、定型の役柄とは違う。
主人公は週末になると実家に帰って、家族で食事をするのだが、
そこでは描かれるのは、移民した第一世代と
アメリカで育った第二世代との文化ギャップだ。
また、コメディでパキスタン系というと、扱うには難しい宗教ネタだが、
本作ではそこを避けずに(みんなが知りたいところでもある)、
主人公にあえて彼の宗教観を語らせているのは、勇気がいったろう。

中盤、彼女が昏睡してからは、主人公と駆けつけた彼女の両親とのやりとりが中心になるのだが、この両親がそれぞれ欠点もあるが良い人たちで、人間味を感じさせる演技が実に良い。
夫婦の感情のすれ違いとか、うまい。
ちなみに母親役はホリー・ハンターだ。
実は、本作は実話の映画化で、主人公はコメディアンである
本人自身が演じている。結末は、ハッピーエンドの
『ラ・ラ・ランド』と言っておこう。
★★

2018年2月22日木曜日

ザ・キング


2017年/韓国

監督:ハン・ジェリム
脚本:ハン・ジェリム
出演:チョ・インソン、チョン・ウソン、ぺ・ソンウ、リュ・ジュンヨル
配給:ツイン
上映時間:134分
公開:2018年3月10日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

●ストーリー 

 木浦に暮らす喧嘩好きの貧しい青年パク・テス(チョ・インソン)は、暴力ではなく権力で悪を制する検事に憧れ、猛勉強の末に検事となる。新人検事として地方都市で多忙な日々を送っていたが、ある事件をきっかけに部長検事ハン・ガンシク(チョン・ウソン)と出会い、人生が激変していく。他人を踏み台にし政治を利用してのし上がり「1%の成功者」となったガンシク。正義の仮面の下に隠された正体を知ったテスもまた、次第に悪の魅力に染まっていく。
 だが、制裁の刃はすぐそこに迫っていた・・。

●レビュー 

 冒頭、車の中で3人の検事が訝しげな会話をしている。その車が激しい衝突事故に見舞われる中で、検事のうち一人、パク・テス(チョ・インソン)が自らを回想する独白から物語が始まる。独白で語られる理由はのちにわかるが、前半は、木浦で暮らす貧しく素行も不良だったテスの成功物語。検事の持つ「力」を目の当たりしたのをきっかけに猛勉強の末、名門大に合格。運も味方してあれよあれよという間に新人検事になり、地方都市で仕事に邁進する姿が、韓国の80年代の激動を背景に現代史とともにコメディタッチで語られる。

 中盤、ある事件の揉み消しをきっかけに、政治や金、暴力団を利用して成り上がった部長検事ガンシクと出会い、テス自身も悪の道に染まっていく。権力に擦り寄り、裏社会とも繋がって出世してきたガンシクと戸惑いながらもプライドを捨てて追随するテスを、二人のイケメン俳優が、それぞれに持ち味を出し演じていて面白い。そして、監察部が彼らの悪徳行為を嗅ぎつけ、権力争いと私情にまみれた抗争が、二転三転しながらテンポよく進んでいく。

 注目したいのは、検察が出世と保身のために動き出す大統領選だ。劇中、実写を盛り込んだ歴代の大統領の姿が写し出され、実際の事件と物語を上手く絡めてリアル感を増している。歴代の大統領の汚職が次々と明らかになる韓国。パク・クネ元大統領の事件も耳に新しい。悪徳検事をめぐるクライムノワール映画という以上の、韓国に政治や社会に対する監督の痛烈な批判。それを語る脚本が秀逸で見事だと思う。社会の不条理は弱者の目線で描かれることが多いが、権力者の浮沈を全面に押し出すことで、世の中の生活者こそが真の「王」であって、本当の正義とは何かを教えられる。

 青年時代から、人生の起伏をに絶妙に演じたチョ・インソンは、嬉しい8年ぶりの映画出演。若手のリュ・ジュンヨルが、テスとの友情を紡ぎ本作の鍵となる暴力団のドゥイル役をキラリと光らせる好演。そして、男たちの抗争に楔を打つ、監察部の女性検事役のアン・ヒヨン役のキム・ソジン。彼女の静かな情熱を持った好演が際立っていて、この物語の勘所となっている。隣国の近代史と社会のあり様を知る作品として観たいと思う。★★★☆)加賀美まき



2018年2月8日木曜日

ゴーギャン タヒチ、楽園への旅


傑作群を生んだ、画家ゴーギャンのタヒチ時代を描く


2017年/フランス

監督:エドゥアルド・デルック
出演:ヴァンサン・カッセル、ツイー・アダムズ、マリック・ジディ
配給:プレシディオ
公開:127日よりBunkamura ル・シネマ他にて公開中

1891年のパリ、都会暮らしにゴーギャンは絶望し、まだ見ぬタヒチ行きを仲間たちに説く。
しかし同意するものは誰もおらず、また妻子もついていかず、
ゴーギャンはひとりタヒチへと旅立った。
タヒチでもパペーテの町は彼が望むような場所ではなく、
ゴーギャンはさらに奥地へと向かう。
そこで彼は村の娘テハアマナを見初め、妻に。
テハアマナはゴーギャンのミューズとなり、ゴーギャンの創作意欲を湧き立たせ、
後に知られる多くの傑作を生み出すが、幸せは長くは続かず、
テハアマナも文明に毒されていった。 

 映画で触れられていないが、物語が始まるのは
かつてゴーギャンが共同生活をしたこともある、ゴッホが亡くなった翌年。
ゴーギャンは、生涯に二度タヒチに滞在しているが、
本作はその第一回目となる1891-1893年の旅を描いたものだ。 

今でこそ、私たちは後にゴーギャンが評価されたことを知っているが、
当時はほぼ無名で、たまに絵が売れるくらい。
パトロンもいないから、日雇い労働でもしなければ、
とてもではないが生活を維持することはできなかった。
タヒチに渡ってもそれは同じで、絵の具を買うお金にも困っている様子が描かれている。

芸術を追い求めるゴーギャンにとって、タヒチは楽園でもあり、
また生活を考えると、貧乏という点ではパリと変わらなかった。
いくら文明を拒否しても、文明がなければゴーギャンが生きていけないという矛盾。
木彫りを村の青年に教えるゴーギャンだが、そうすると青年は観光客が買いそうな同じものばかり作るようになる。
それを怒るゴーギャンだが、日銭を稼ぐために木彫りを道端で売る彼自身とどう違うのだろう。
もちろん彼の絵画は一級の芸術品だが、それとて誰にも売れなければ、
誰にも評価されていないということにもなる。

タヒチの海が楽園というより、ゴーギャンの逃避の場としてしか見えないのは、
映画を見ながら、アートと生活という、芸術家には大昔からついて回った問題が、
妙に生々しく見えてしまったからかもしれない。
サマセット・モームの『月と六ペンス』をまた読みたくなった。

映画自体が面白いかというと、それほどでもなく、
ヴァンサン・カッセルの熱演はわかるのだが、
映画のゴーギャン自体に魅力を感じられなかったのが残念。
★★☆
 

 


2018年1月28日日曜日

旅シネ執筆者が選ぶ 2017年度ベスト10(前原利行、カネコマサアキ、加賀美まき)

■前原利行(旅行・映画ライター)
 2017年に観た映画は、スクリーン、DVD、新作、旧作含めて129本。前年の146本より少なくなってしまった。2016年は邦画を見るチャンスが少なく、1本も入っていないのが残念。いい作品はあるはずなのだが。

1. ドリーム(セオドア・メルフィ監督/アメリカ)
 日本でもっと大ヒットして欲しかった。宇宙実話ものは、もともと大好きなジャンルだが、本作は文句のつけようがない出来。とにかく脚本が素晴らしく、無駄なシーンがない。そして脇役に至るキャラまで、手抜きなくきっちり作り込まれている。ファレルの音楽も最高! そして見終わった後、、最高に気持ち良い気分になれる。

2. ラ・ラ・ランド(デミアン・チャゼル監督/アメリカ)
 隙だらけの脚本、主役二人以外のキャラが全て書き割りと、『ドリーム』に比べると映画的完成度は低いかもしないが、それをすべて帳消しにする音楽のマジック。そしてラスト40秒で、心を持っていかれる。1回目はノイズになっていた部分も、2回目鑑賞以降は愛おしいシーンに。リピート鑑賞するたびに、没入度は倍増。

3. ローガン(ジェームズ・マンゴールド監督/アメリカ)
 Xメン、ウルヴァリン両シリーズを通じての最高傑作。マンゴールド監督の前作『ウルヴァリンSAMURAI』はひどい出来だったが、今回は『17才のカルテ』のようにキャラに深みを出す演出。このシリーズで号泣するとは。

4. ダンケルク(クリストファー・ノーラン監督/イギリス、アメリカ、フランス、オランダ)
 なぜか日本では評価が低いが、もしかしたらノーラン最高傑作かも。とにかく「映像で見せる」ことにこだわった作品で、大画面で見ることに意義がある。説明を省いたソリッドな演出は好き。

5. ありがとう、トニ・エルドマン(マーレン・アデ監督/ドイツ、オーストリア)
 162分もあると知って見るのを躊躇したが、見て大正解。長さも感じさせないくらい、いや、この長さが必要だったからこそ、最後にくるカタルシスが素晴らしい。主人公が訪問した家族の前で歌う「グレイテスト・ラブ・オブ・オール」はベストシーン。

6. ノクターナル・アニマルズ(トム・フォード監督/アメリカ)
 何がいいかと説明するのは難しいが、2016年の『キャロル』同様、濃密な映画時間を堪能できる。つまり演出が的確だということ。

7. 婚約者の友人(フランソワ・オゾン監督/フランス、ドイツ)
 これも1シーン1シーン、的確な演出がされている。そして観客が薄々気づいている謎は中盤で明かされ、そのあとに真の物語が始まる。

8. ブレードランナー2049(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/アメリカ)
 リドリー・スコットが監督しないでよかった! 

9. ムーンライト(バリー・ジェンキンス監督/アメリカ)
 非常に繊細な作品。セリフのない中でも、確実に感情は伝わる。

10. ガーディアンズ・ギャラクシー・リミックス(ジェームズ・ガン監督/アメリカ)
 単純に楽しめるが、父と子の関係もきっちり描いていて、最後は男泣き。

上記テンと同等によかった作品としては、『キングコング: 髑髏島の巨神』『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』、『ベイビードライバー』、『IT/イットそれが見えたら、終わり。』、KUBO二本の弦の秘密』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

カネコマサアキ(イラストレーター、マンガ家)


.『大仏+』(ホアン・シンヤオ黄信堯監督/台湾)
廃品回収業の肚財は、大仏を作る制作会社の夜間警備員・菜埔と夜な夜な社長のベンツに付いてる車載カメラの映像を観ながら妄想を膨らませている。ある日、2人は映像の中に重大な発見をする。富裕層と最下層の人間の悲哀を台湾閩南語のとぼけた掛け合いで語る。オフビートな笑いとモノクロ映像(部分的にカラー)が素晴らしい。東京国際映画祭にて。

.『ブラインド・マッサージ』(ロウ・イエ婁燁監督/中国)
南京で働く盲人マッサージ士たちの性愛を赤裸々に描く。いつものロウ・イエ節が炸裂なのだが、見えない盲者の世界と映画を観る側・健常者の世界がスクリーン上でぶつかり合うような驚くべき化学反応があり、作品を別のステージへ。

.『パターソン』(ジム・ジャームッシュ監督/アメリカ)
ニュー・ジャージー州・パターソン市でバスの運転手として働くパターソンは、パターン(図柄)好きな妻と愛犬マーヴィンに囲まれて、ワン・パターンな日常生活の中から詩を紡ぎだす。慎ましくも手作り感溢れる生活の隅々が美しい。

.『ハートストーン』(グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン監督/アイスランド)
 『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督/アメリカ)
毎年のLGBT映画枠というわけではないけれど、今年はどうしても1本に絞れないので2つ挙げることに。どちらも至高の純愛映画だと思う。

5.『立ち去った女』(ラヴ・ディアス監督/フィリピン)
冤罪によって30年投獄されていた女ホラシアは、彼女を陥れた元恋人に復讐するために故郷へ戻るが。美しいモノクロ映像の中、パロット売りのせむし男とトランスジェンダーの大女との夜の徘徊が彼女を癒してゆく。

6.『見えるもの、見えざるもの』(カミラ・アンディニ監督/インドネシア)
 『殺人者マルリナ』(モーリー・スリヤ監督/インドネシア)
フィルメックスでインドネシア勢が(しかも2人とも女性監督)2作同時グランプリを受賞したことは、大きな事件だ。それぞれバリ島、スンバ島の民間伝承からヒントを得た詩的な物語が展開する。

7.『夜空はいつでも最高密度の青空だ』(石井裕也監督/日本)
最果タヒの原作は読んだことはないのですが、昨年は『パターソン』や『ネルーダ』、上映されていないが『ソロ、ソリチュード』(インドネシア)なんていう映画もあるなど”詩人”映画が多かった印象。オザケンじゃないけど、意思は言葉を変え言葉は世界を変えていく、そんな映画だと思う。

8.『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(ケネス・ロナーガン監督/アメリカ)
音楽の使い方や設定などベタなところはあるけど、どこか粗野で無骨な感じが逆に心揺さぶられた。家族の崩壊を描いてるが、わずかに残る甥との絆を糧に男は生きてゆく。嗚咽を禁じえなかった。

9.『ブレードランナー2049(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/アメリカ)
前作を踏襲した世界観、映像美に酔いしれる。デッカードは人間であってほしい派だが、人間とは何か?根源的な問いがAI時代に突入した現在にも響く。SF感溢れる初体験のIMAX 3Dで。

10.『バンコクナイツ』(富田克也監督/日本)
元自衛隊員の小沢はバンコク・タニヤ通りで懇意のホステス・ラックと再会し、彼女の故郷イサーン地方へ。タイ駐在日本人の生態と彼女たちを生み出す背景に迫った力作。他者を描くことの無防備さを感じるところもあるが、その熱量に圧倒されるばかり。劇中の音楽モーラムの歌詞が胸を打つ。

次点(入れ替え可能作品)
Art through our eyes』(アピチャッポンほか5人の監督によるオムニバス/シンガポール)
『哭声/コクソン』(ナ・ホンジン監督/韓国)
『スヴェタ』(ジャンナ・イサバエヴァ監督/カザフスタン)
『グレイン』(セミフ・カプランオール監督/トルコ)
『石頭』(チャオ・シアン監督/中国)
『サムイの歌』(ペンエーグ・ラッタナルアン監督/タイ)
『インターチェンジ』(デイン・サイード監督/マレーシア)
『エヴォルーション』( ルシール・アザリロヴィック監督/フランス)
『変魚路』(高嶺剛監督/沖縄・日本)
『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』(パブロ・ラライン監督/チリ)
『ありがとう、トニ・エルドマン』(マーレン・アデ監督/ドイツ・オーストリア)

 自分にとって昨年一番のトピックと言えば『牯嶺街少年殺人事件』(1991年作・4Kレストア・デジタルリマスター版)25年ぶりの上映だった。幾度となくビデオで観ていたのだが、初見のような新鮮な味わいで完全にノックアウトされてしまった。少年の視点から主人公の父親の視点で観ている自分に時の流れを感じつつ、監督の意図したものがようやく理解できた感じがする。この天下の大傑作を観たせいか、他の映画が色褪せて見えてしまい、しばらく映画への興味を失うという日々が続いた。(それゆえ試写の重要作も4本ほど見逃してしまう。)本来ならこの作品がダントツで1位になるのですが、やはり今の映画を尊重すべきと思うので選択肢から外した。『タレンタイム』も過去2009年度にランキングしているのでこちらも除外した。PFFで観た日本映画『私たちの家』『赤色彗星倶楽部』も良かったが今年公開が決まってるので見送ることに。イベントとしては「カラフル!インドネシア」、「大阪アジアン映画祭」、「サンシャワー:東南アジアの現代美術」での特集上映、PFF、「東京国際映画祭」、「フィルメックス」などに通った。


加賀美まき(造形エデュケーター)

 2017年の韓国映画は、久しぶりに力のある作品が劇場公開されました。一方で、劇場公開されずDVDスルーとなる作品が増えたこと、また良質なコメディー作品が少なく残念でした。見逃してしまった作品があるので、今年もベスト5を選び、以下3作品は順不同です。

●韓国映画

1.「哭声 コクソン」 (ナ・ホジン監督/韓国)
 ある村で起こった連続殺戮事件。閉鎖的な村社会で、病、噂、祈祷、霊能など人々を取り巻く見えないものが絡み合い、2時間半、観客を戦慄と不条理の渦へ巻き込んでいく。脇役で知られるクァク・ドウォンが主演し、派出所の警官を好演。よそ者の男を演じた國村隼が韓国で助演男優賞を受賞して話題に。

2.「新感染 ファイナル・エクスプレス」(ヨン・サンホ監督/韓国)
 新幹線(KTX)内で繰り広げられる、対ゾンビのサバイバルアクション映画。原題は「釜山行き」で本国大ヒット作品。新鋭のヨン・サンホ監督実写長編第1作。人間ドラマとしても楽しめる。前日談となる長編アニメ「ソウル・ステーション・パンデミック」も見逃せない。主演は「トガニ」のコン・ユ。

3.「トンネル 闇に鎖された男」(キム・ソンフン監督/韓国)
 トンネンが崩壊し、車ごと閉じ込められた男。あるのはわずかな食料と水、携帯電話‥。ありがちな救出劇で終わらないのが「最後まで行く」のキム・ソンフン監督の力量。社会風刺を盛り込みドラマが展開する。閉じ込められた男を演じるハ・ジョンウの硬軟織り交ぜた絶妙な演技が際立つ。

4.「お嬢さん」(パク・チャヌク監督/韓国) 
「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督作品。日本統治時代の設定で、日本人伯爵邸で繰り広げられる騙し合いのサスペンスドラマ。パク監督ならではのエロチックで耽美な演出が斬新。日本語のセリフが多く、多少耳に障るが、女優陣キム・ミニとキム・テリの熱演は必見。

5.「隠された時間」(オム・テファ監督/韓国)
 立ち入り禁止地区の洞窟に出かけた少女と同級生の少年3人。そこで少年たちが姿を消してしまう。程なく少年の一人が大人の姿で現れ、少女と再会。理不尽な大人たちが取り巻く中、ともに親を亡くした孤独な二人が、時空を超えて心を通わす物語が心を揺さぶる。ピュアな青年役のカン・ドンウォンが秀逸。

●その他 順不同
・「アシュラ」(キム・ソンス監督/韓国)
 ある都市を舞台にした、私欲にまみれた男たちの修羅場を描くクライムサスペンス。エグさ満載。
「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」(原題:ユン・ジェホ監督/韓国・フランス)
 出稼ぎで中国に渡った北朝鮮女性が辿る人生を追ったドキュメンタリー。現実を知る一作。
・「密偵」(キム・ジウン監督/韓国)
 日本統治下、独立運動の義烈団リーダー(コン・ユ)と日本の警察官(ソン・ガンホ)たちの攻防を描く。日韓の歴史を知る作品。

●韓国映画以外で印象に残った作品
ローサは密告された(プリランテ・メンドーサ監督/フィリピン)
・マンチェスター・バイ・ザ・シー(ケネス・ロナーガン監督/アメリカ)
・ノクターナル・アニマルズ(トム・フォード監督/アメリカ)

ジャコメッティ 最後の肖像


Final Portrait
2017年/イギリス


監督:スタンリー・トゥッチ
出演:ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、トニー・シャループ、シルヴィー・テスチュー
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公開:201818日よりTOHOシネマズ シャンテ他にて公開中

日本でも展覧会が好評だった、細長い人の彫刻で知られるジャコメッティ。
舞台は1964年、すでに有名になって個展も開かれている晩年のジャコメッティ。
その彼に肖像画のモデルを依頼された
主人公ロード(アメリカ人作家)が、「2日ですむから」
と言われてアトリエに行くが、なかなか作品が完成せず18日間も
かかってしまう(映画はロードの回想録を基にした実話)。
そのため物語の大半はアトリエが舞台で、
そこに妻のアネット、ジャコメッティの弟のディエゴ、
そしてジャコメッティのミューズ的存在の娼婦カロリーヌ
が現れては消え、ジャコメッティはなかなか創作に集中できない。
モデルは椅子に座ってじっとしているだけだから、そうした人間模様を観察する。

意外だったは、成功者なのに、ジャコメッティの家もアトリエもみすぼらしいこと。
お金には無頓着なのかケチなのか、必要ないものは欲しくないのか。
生活も質素といえば質素。
かといって高尚な職人気質ってわけでもない。まあ、偏屈といえば偏屈だ。
観客は凡人側である主人公の気分だから、最初は天才であるジャコメッティに気を使い、

早く完成してくれるように注意を払うが、
そのうち「コイツ、本当に完成させる気があるんだろうか」と不安になってくる。

モノづくりが難しいのは始めと終わりで、特に仕事の依頼でもなく始めたものは、
“完成しない作品”になりがちだ。
自分で締め切りが切れないからだ。人の創作風景を見るのはなかなか面白い。
映画は低予算の小作品で舞台にもできそうだ。
地味といえば地味な作品だが、きちんと作ってあるので創作好きな人には、

興味を持って見れるはず。
「最後の肖像」というのは、彼が描いた最後の肖像画だから。
ジャコメッティにジェフリー・ラッシュ。
海賊バルボッサの人ね。主人公のモデルにアーミー・ハマー。
監督は、俳優のスタンリー・トゥッチ。

2018年1月26日金曜日

謎の天才画家ヒエロニムス・ボス


ボスの代表作『快楽の園』をあらゆる角度から徹底検証する、 90分のドキュメンタリー

2016年/スペイン、フランス



監督:ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
出演:ラインダー・ファルケンブルグ、オルハン・バムク、サルマン・ラシュディ、ルドヴィコ・エイナウディ
配給:アルバトロス・フィルム
公開:12月よりシアターイメージフォーラムほかにて公開中


12月16日より公開中『謎の天才画家ヒエロニムス・ボス』。
ちょっと時間が経ってしまったが、まだまだ上映中なので。

不思議な絵を描くボスは、昔から気になっていた。
小学生ぐらいの時からマグリットやダリが好きだった僕だが、
ボスのことを知ったのはもっと後。
海外に行くようになってからだと思う。
最初はシュールレアリズムの画家と思ったが、
時代はもっと古いルネサンス期で、生年、没年とも、
レオナルド・ダ・ビンチとほぼ同じくらい(1450頃-1516)。
その時代の中の誰とも違う個性を発揮していたことがわかる。

彼が描く絵は、日本の「百鬼夜行」のようだ。
空想上の生き物だけでなく、人と動物の合体、
生物と無生物の合体、巨大化した生き物が描きこまれて、
細部までじっくりと見たくなる。
本作は彼の代表作で、スペインのプラド美術館にある
「快楽の園」の謎に迫るドキュメンタリーだ。
ボスという人物を探る面もあるが、どちらかといえばこの絵画のテーマや、製作の過程の秘密や歴史を探る作品だ。

彼が生きた時代は、レコンキスタが終わり、
スペインが新大陸を発見。
ヨーロッパの覇者になった頃。
ボスが暮らしていたフランドル地方は商業が発展し、
裕福な商人や王侯貴族が生まれていた。
そんな中でボスは人気の画家で、
彼の作品を王侯が競ってコレクションしていたという。
中でもスペインのフェリペ2世は彼の作品を集めていたので(ボスの死後だが)、この「愉楽の園」がプラド美術館にある。

映画では、エックス線を使ったりして下絵を探ったり、
絵に描かれている楽譜を演奏したりする。
そして聖書の逸話と絵の関係性などが
様々なジャンルの人たちによって語られる。
それはそれで面白いが、それでも
なぜ彼はこんな絵を描いたかの動機や発想はわからない。
だから、魅力的なのだろう。
この「愉楽の園」をプラド美術館で見た
ダリやミロ(共にスペイン出身)に影響を及ぼしたと思うと、
ボスはやはりシュールレアリズムの元祖かもしれない。

★ ★ ★

2018年1月22日月曜日

否定と肯定

Denial
ホロコーストはなかったか? 実話の裁判の映画化。


監督 ミック・ジャクソン


出演 レイチェル・ワイズ、ティモシー・スポール、トム・ウィルキンソン
12/8から公開中
●ストーリー
アメリカの歴史学者デボラ・E・リップシュタットの講演中、
ホロコースト否定論者のデイヴィッド・アービングが現れ、
「嘘を言っている」と絡んでくる。
リップシュタットがその著作物で、「ホロコーストはなかった」と
主張するアービングを批判していたからだ。
相手にしないリップシュタットに対しアービングは、
今度はイギリスで彼女と本の版元であるペンギンブックスを名誉毀損で訴える。
イギリスに渡り弁護士団と打ち合わせをするリップシュタットだが、
名誉毀損に関しては、逆に訴えられた側が相手の間違いを証明しなければならないという、英米の裁判の違いに驚く。
そして世間が注目する裁判が始まった。。

●レビュー
これは1996年に実際に起きた 
「アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件」
訴訟と裁判の映画化だ。
興味ある人は、この事件はwikiにも載っているので、読んでみるといい。
当時、こんな裁判があったか記憶にないが、欧米では話題になったらしい。
何せ現代のイギリスの王立裁判所で、ホロコーストはあったかないかの証明をし、裁判で決着をつけるのだから。
まあ、「〜はなかった」という否定論者は、昔から世界中にいる。
これは、まだ歴史的な検証が済んでいないものは別として、
もう定説となっているものを、歴史資料から自分に
都合がいいところだけ抜粋して、自分の主義主張に合わせているだけだ

本作の主人公である歴史学者リップシュタットは、
そういう輩をそもそも“学者”として認めておらず、
アービングが仕掛けてくる“討論”にも乗らない。
アービングにすれば、結果ではなく、きちんとした学者と討論できたことで、
すでに彼の“勝ち”になってしまうからだ。
裁判も勝ち負けより、世間に注目されれば
「もしかして彼の言うことは本当かも」という人が必ず出てくる。
今まで無名の「トンデモ学者」だったのが、「テレビに出た有名人」になった時点で、
その試みは成功しているのだ。

「ホロコーストはなかった」何て信じる人はいるのか?
と思うだろうが、いる。
ヒトラーをするネオナチだけでなく、
日本でも1995年に「マルコポーロ事件」があった
(「ガス室はなかった」とする記事を掲載し、廃刊に追い込まれた)。
問題は、トンデモ歴史論を展開する人たちが、「表現の自由」を盾に使うことだ。
それを盾に取られてしまうと、識者たちの反論の筆が鈍くなることを知っているからだ。
映画を見ていて思うのは、「表現の自由」は大事だが、

それを野放しにすると、デマカセ情報や無責任の中傷情報も広がり
鵜呑みにした人たちが偏見や憎悪を持ってしまう危険性があるということ。
現に今のネット社会がそうだろう。

(ヤフコメでも、ヘイト発言は表現の自由と勘違いしている輩が多い)

あとこの映画で勉強になったのは、英米の裁判のシステムの違い。
「法廷もの」は映画では一つのジャンルにもなっているが、

今まで作られてきたのはアメリカ映画がほとんど。
本作では、アメリカ人がイギリスの法廷に出るということで、

日本人にもわかりやすくイギリスの裁判のシステムを解説してくれる。
で、難しいのは、もしアービングが本当に

「ホロコーストはなかった」と信じきっていた場合、
彼は嘘をついていないので「中傷にはならない」のではないかという
問題も出てくること。
なので、「知ってて、都合のいいところだけ抜き出した」と、
訴えられた側が証明しなきゃならないのだ。
うーん、面倒。

監督は懐かしや『ボディガード』のミック・ジャクソン。
最近見ないと思っていたら、テレビに戻り、
ドキュメンタリーの演出をしていたらしい。
なので法廷劇だが、きちんと最後はエンタメ映画としても
盛り上がれるような演出もされている。
★★★☆

はじめてのおもてなし




2016年/ドイツ

監督:サイモン・バーホーベン
出演:センタ・バーガー、ハイナー・ラウターバッハ、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
配給:セテラ・インターナショナル
公開:1月13日よりシネスイッチ銀座ほかにて公開中
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/welcome/

●ストーリー
ミュンヘンに住むハートマン一家は裕福だが、家族がバラバラになりかけていた。教師だった妻のアンゲリカは定年後に生きがいを見出せず、医者の夫のリヒャルトは自分の歳を認めず仕事と若さにしがみついている。弁護士の長男はワーカホリックで妻に逃げられ、長女は31歳になるのに大学をまだ転々として将来を決められない。そんな中、アンゲリカは、アフリカ難民の青年ディアロを家族に迎え入れることにする。

●レビュー
難民問題で揺れる欧州だが、そのなかでも比較的、難民を受け入れてきたドイツ。
しかしそれにまつわるトラブルも増え、
きれいごとだけでなく、どう向き合うかの覚悟も必要になってくる。
当然ながら、ドイツの世論も二分される。
そんな中、2016年にドイツで公開され、大ヒットしたコメディだ。

本作がヒットしたのは、シリアスな題材にもなる話をアンサンブルコメディにして、堅苦しくないドラマにしたことだろう。
ズシンとくる話は見た後は確かにいいが、見に行くまで腰が重くなるからだ。
ただし本作はコメディだが、描かれていることはすべてまともに描いたらシリアスである。

ハートマン家の4人は、ドイツ人の縮図で老人問題、生きがい、働きすぎ、自分探しと、裕福だが、どこか人間的な幸せを見失って活力を失っている。
難民の青年から見ると、それが不思議で仕方がない。
また、難民に対する態度も、リベラル派でも分かれるし、さらにご近所に至っては、犯罪者扱いする者もいる。
そして何が何でも難民受け入れ派もおかしい。
そのすべてを均等に茶化し、最後は「人と人との関係が大事」というシンプルなところに落ち着くのだ。
難民問題という時事ネタがストーリーの軸だが、根っこでは「家族の再生」が大きなテーマになっている。
英米映画ばかり見ていると、俳優の演技がベタに感じるかもしれないが(ちょっと邦画っぽい)、きちんと伏線が張られた脚本は緻密。気楽に楽しもうという方にもオススメだ。

前原利行(★★★☆)