2018年9月15日土曜日

ヒトラーと戦った22日間

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2018年/ロシア、ドイツ、リトアニア、ポーランド
 
監督:コンスタンチン・ハベンスキー
出演:コンスタンチン・ハベンスキー、クリストファー・ランバート
配給:ファインフィルムズ
公開:9月8日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館にて公開中
公式ページ http://www.finefilms.co.jp/sobibor/


■レビュー

 最近、ナチス政権下のユダヤ人もの、「ヒトラー」を入れ込んだ邦題が多いのが気になるが、本作にもヒトラーは出てこない。そして本作は収容所ものには珍しい、ロシア映画。監督・脚本・主演をこなすのは、ロジア人のコンスタンチン・ハベンスキーだ。というのも、実話に基づいた本作だが、反乱のリーダーとなるサーシャが、ユダヤ系ソ連兵だったからだ。

 1943年9月、ポーランドにあるソビボル絶滅収容所に、ソ連兵のサーシャが送られてくる。ほとんどのユダヤ人はすぐにガス室に送られて殺されてしまうが、作業に必要なユダヤ人だけは生かされていた。彼らは脱出計画を練っていたが、強力なリーダーがいない。そこにウクライナで脱走経験のあるサーシャが来たので、一部のものたちが彼をリーダーにして反乱計画を練る。それはSS将校たちを殺し、全員が脱走するというものだった。そして22日後の10月14日、反乱が決行される。

 有名なアウシュヴィッツ=ビルケナウ以外にも、多くのユダヤ人強制収容所があった。勉強不足だったが、強制労働を目的とした強制収容所のほかに、最初から殺戮だけを目的とした絶滅収容所があった。そのうち、本作の舞台となるソビボルでは16万7000人が殺されているという。殺害が目的だから、列車で着いたユダヤ人のうち、生かされるのは死者の遺品の整理やそれを直して再利用できる職人などごくわずか。仕事ができない子供は問答無用で殺された。そしてソビボルなど、多くの絶滅収容所はソ連軍が迫ると、証拠隠滅のために残っていたユダヤ人もろとも、なかった状態にされた。

 本作の題材となった事件は、珍しく、収容されていたユダヤ人たちがやられっぱなしではなく、反乱を起こしたことだ。機を見て、11人のナチス将校を殺して武器を奪い、600名中、360名が脱走に成功。そんな歴史があったことは、あまり知られていないのでは。映画は、決してうまい出来ではなく、前半はナチスの囚人いじめがネチネチ描かれ、まったり感がある。ただし、脱走当日になると展開はスピーディに。結末を知らなかったので、ハラハラしながら見る。将校をひとりひとり呼び出して、ナイフで殺害するくだりは、「殺っちゃってください」と心の中で拍手喝采(映画なので、ナチス軍人は良心の欠片もない極悪人として描かれている)。


 脱走後の顛末は、字幕で書かれるが、脱走した360人のうち200人は、すぐに追っ手の親衛隊によって殺され、逃げられなかった240人も全員殺され、残った160人のうちの100人余りは、民間のポーランド人に殺されたり密告によって命を落としたという。当時のポーランドでは、反ユダヤ主義も根強く、自分たちがナチスに占領されながらも、そこから逃げてきたユダヤ人を殺したりしていたというのも陰惨な話だ。また、映画では触れられていないが、看守などにはドイツ人ではなく、反共産のウクライナ人が多く使われており、彼らもまた残虐だったという。弱いものがより弱いものをいじめるという構図はやりきれない。


 本作の主人公であるサーシャも、脱出後にはパルチザンに加わり戦ったが、戦後はドイツの収容所にいたとして「外患罪(外国の捕虜になった者は半共産思想に感染しているという言い分)」により、ソ連の強制収容所に入れられたこともあるという数奇な運命を辿っている。
 ということで、人間ドラマとしては薄い出来だが、こうしたことがあったという事実を知るにはいいテキストかもしれない。(前原利行 ★★★