2018年10月4日木曜日

僕の帰る場所

日本とミャンマー、二つの国に揺れる家族の物語


Passage of Life

2017年/日本=ミャンマー

監督・脚本:藤元明緒
出演:カウン・ミヤッ・トゥ、ケイン・ミヤッ・トゥ、アイセ、テッ・ミヤッ・ナイン、
         來河侑希、黒宮ミイナ、津田寛治
配給:株式会社 E.x.N
上映時間:98分
公開:2018年10月6日(土)、ポレポレ東中野ほか全国順次公開

●ストーリー 

 東京郊外の小さなアパートに住む、ミャンマー人の母ケインと幼い二人の兄弟。入国管理局に捕まった夫アイセの代わりに、ケインは一人で家庭を支えていた。日本で育ち、母国語を話せない子どもたちに、ケインは慣れない日本語で一生懸命愛情を注ぐが、父に会えないストレスで兄弟はいつも喧嘩ばかりで、ケインは不眠症になってしまう。移民申請は繰返し却下され、これからの生活に不安を抱うケインは、ミャンマーに帰りたいという想いを募らせていく・・。

●レビュー 

 これは、ある在日ミャンマー人家族の実話を基にした物語。ミャンマーでは、1988年に軍部が実権を握る社会主義政権に対し、民主化運動が活発化するが、その後、武力弾圧により軍事政権が成立。結果、多くの人々が身の安全を求めて国を離れ難民となった。日本に来た家族も少なくない。

 昨今、海外における難民、移民問題はしばしは報道されてるが、日本における難民の実情はほとんど知られていないように思う。この作品の中で、藤元明推監督は、異国の地で肩を寄せ合いながら生きる家族の姿をドキュメンタリーをような映像でリアルに捉えている。それを「難民問題」という視点でを切り取るならば、難民に厳しい態度をとる日本や難民が経験する周囲との軋轢など、難民をを取り巻く社会問題を提示する作品だと言えるだろう。けれども、監督の目線は、そうしたシビアな眼差しを含みながらも、難民の家族の毎日を優しく見守りながら物語を紡ぎ出している。

 フィクションでありながら、一家の姿をリアルに切り取っているように見えるのは、主だった役を演技経験のないミャンマーの人々が演じているからだろう。この作品の中心に描かれている6歳と3歳の兄弟もしかりで、二人を演じたカウンとテッは実際の兄弟(母親役も兄弟の実母)で、かれらの自然な姿がこの物語を心揺さぶるものにしている。祖国を離れた両親は、さまざまな問題を抱えているのだが、日本で成長した子どもたち、特に兄のカウンは日本語を話し、日本に馴染み、生き生きと学校生活を送っている。しかし、物語の中盤、生活に疲れ「普通の生活がしたい」と望む母から帰国を言い渡され、父とも離れてミャンマーに帰ることになる。まだ幼く屈託ない弟とは対照的に、言葉のわからない兄カウンは自分の居場所をみつけられず、思い悩み苛立つ。こうした、国情や大人の都合に巻き込まれ、社会の渦中に投げ込まれて翻弄するのは、いつも子どもたちだ。カウンが彷徨い歩くミャンマー、ヤンゴンの夜の街が印象的に映る。葛藤する子どもたちの姿に心が痛くなるのだが、彼らは大人以上に強く、自分の未来を切り開いていこうする力も持っているのだと知らされる。

 ミャンマーで劇映画を撮った日本人は過去にほとんどなく、企画から5年をかけてこの作品は完成したという。昨年の東京国際映画祭では「アジアの未来」部門で作品賞を受賞。アジアの知る一作となっている。オランダの映画祭では、兄役のカウン・ミヤッ・トゥくんが最優秀俳優賞を受賞している。彼のかわいらしさ、そして成長していく姿を体現した演技も必見。★★★★)加賀美まき