イスラエルの兵士とその両親をめぐる運命のダンス。
ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞作品
Foxtrot
2017年
監督:サミュエル・マオズ
出演:リオール・アシュケナージー、サラ・アドラー、ヨナタン・シライ
配給:ビターズ・エンド
公開:9月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中
予告編
●ストーリー
ミハエルとダフナ夫妻の元に、息子ヨナタンの戦死を告げる軍の役人がやってくる。やがて、息子の死は誤報だったと告げられるが、安堵するダフナと対照的にミハエルは怒りをぶちまけ、息子を呼び戻すように要求する。一方、ヨナタンはたまにしか車が通らない検問所で、その日も間延びした時間を過ごしていた。しかし、彼の運命を狂わす事件が起きる。
●レビュー
映画は三幕構成になっている。一幕目は、息子の死を知らされた夫婦の悲劇。妻はショックのあまり倒れ、夫はお役所的な軍人の態度にイライラする。やがて息子の死が誤報であったことがわかった時、夫の感情は爆発し、息子をすぐに戦場から呼び戻すようにと言う。
場面が変わり、二幕目は国境付近の検問所で働く息子、ヨナタンの日常が描かれる。時おり、車やラクダが通るだけの、のんびりとした検問所。しかしいつ、何が起こるかわからない緊張が時おり走る。実際に戦闘が行われているわけではないが、かといって安全なわけではない。そんな場所は世界中のいたるところにあるのだろう。緊張の中の退屈、あるいは退屈の中の緊張。そんな警備の兵士たちの日常が、リアルに描かれる。兵士といっても、専門職ではなく徴兵された二十代の若者たちだから、そこらにいる若者たちと大して変わらない。だらだらとした日常だが、突発的に起こった“ある事件に”、観客はハッとさせられる。兵士は人を殺すこともできるし、殺される危険性もあるのだと。
三幕目は、ふたたび夫婦の姿が描かれる。そこで出てくるのが、映画の原題でもある「フォックストロット」だ。これは前右左後とステップを踏み、元の位置に戻るダンスのステップだが、「人は結局は運命には逆らえない」という宿命を象徴しているかのようだ。この三部構成の“悲劇”は、日頃私たちが忘れようとしている“運命”というものを考えさせてくれる。
非常に理知的に、きっちりと作られた作品だが、逆にそのあたりが鼻につくという人もいるかもしれない。監督・脚本のサミュエル・マオズは、実際にイスラエル軍に従軍し、1982年のレバノン侵攻にも参加している。この侵攻時に、パレスチナ人難民の大量虐殺事件が起きた。先日公開された『判決、ふたつの希望』でも語られ、その時の従軍経験を映画にしたアリ・フォルマン監督の傑作『戦場でワルツを』でも描かれている。さて、そうした作品群に比べると、「優等生が作った作品」ぽい感じがするが、まあそれは監督のスタイルなのだろう。僕は、あまり知ることがないイスラエル人兵士の日常、そして宗教離れしているイスラエル知識人の日常をしることが出来たのも、興味深かった。
★★★
●関連情報
2017年第74回ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞した、イスラエルのサミュエル・マオズ監督の長編2作目。マオズ監督は長編1作目の『レバノン』も同映画祭でグランプリ(金獅子賞)を受賞しており、いまや国際的な作家といえよう。