2022年4月27日水曜日

メイド・イン・バングラデシュ

 ダッカの縫製工場で働く女性たちの現状を描く。



    Made in Bangladesh

   2019年/フランス・バングラデシュ・デンマーク・ポルトガル

監督:ルバイヤット・ホセイン

出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン

配給:パンドラ

上映時間:95分

公開:2022416日より岩波ホールほか

 

●ストーリー

主人公はダッカの縫製工場で働く23歳のシム。その工場で火事が起きる。
夫が無職で生活が苦しいシムだが、給与の支払いが遅れて、家賃を払うのもままならない。
そんなシムに一人の女性が声をかける。
彼女は労働権利団体のナシマで、工場の実態を聞いたあと、
シムに労働組合を作るようにうながす。
と言っても、シムはそれがなんであるか、法律が守ってくれるのかも知らない。
集会に出たり、本を読んだりして、理解を深め、職場の仲間たちを誘って、組合に必要な署名を集めるのだが、工場側は妨害してくる。

●レビュー

産業革命以前、ベンガルの地は布や衣料品の製造で栄えていた。
しかしイギリスから安価な工場で生産された衣料品が入ってくると
産業は壊滅。ダッカの人口は数分の1になったという。
資料によれば、その後、ダッカの衣料産業は途絶えていたが、1980年代に入り復活を始める。
この物語の主人公が勤める町工場のように、縫製は手作業でいまだに多くの人手がかかる。
つまり人件費がかかるので、物価の安い国へ国へと流れていく。

2005年の中国の工場を舞台にしたドキュメンタリー『女工哀歌』では、低賃金で働く四川省の女性とそれを搾取する先進国というアパレル産業の構図を見せてくれたが、その中国も今は物価が上がってきてしまい、縫製工場はより物価の安い国々へと流れていっている。

地球の歩き方「バングラデシュ」の初版製作で初めてダッカに行った時、
確かユニクロがバングラデシュに進出するのが話題になっていた記憶がある。
ユニクロのTシャツが1500円で売られているのには、
低賃金労働者の犠牲がある。原価は人件費込みで1/10ぐらいなのだろう。

さて、映画は主人公シムを中心に、そんなバングラデシュに生きる女性の日常を見せてくれる。
映画はドキュメンタリーではないが、かなりそれに近いぶっきらぼうな流れになっている。セット撮影もおそらくない。
だから、道が汚い、建物の壁が汚い、雨季なのか道のあちこちに水溜りができているのがリアル。
シムが申請に行く労務局の女性職員の部屋。後ろの朽ちて崩れかかっている書類の山など、考古学遺跡のようだが、役所はあんな感じ。よくわからないが、常に廊下で待たされる人たちもね。

彼女たちを苦しめるのは、劣悪な環境と劣悪な賃金だけではない。
この映画の中で、役を与えられている男性は、すべて最低だ。
自分は大したことがなくても、プライドだけは高くて、
それを行使しやすい女性たちを支配しようとする。
シムの夫は無職な上、最初は働く意欲もなさそうな感じだ。
だからシムが必死で働いているのだが、それを応援するどころかむしろ水を差す。
さらにシムの財布を漁ってお金を抜くような男だ。
しかし自分が働き出すと、さっそくシムを支配しようとする。
そんな心の狭い男でも、女にとってこの社会ではいたほうがマシなのだ。
まあ、日本でもいるよね。そういう男。

同僚のダリヤが上司のレザとの不倫がバレて解雇される。
この社会では、不倫しても裁かれるのは女性だけ。
男は解雇されず、シムの夫もダリヤを「アバズレ」と罵る。
「いつか結婚を」と男に期待する幻想は虚しい(なにしろクズな男しかない)が、
女一人で暮らすのは難しい社会なのだ。

クライアントの西欧人が工場に視察に来る。
そして、製造費がまだ高いという。
彼らは自分たちの取り分は下げないから、皺寄せが来るのはいつも末端だ。
衣料品がいまだに安価なのは、そうした犠牲の上に成り立っている。

映画はまたぶっきらぼうに終わるが、
そのぶっきらぼうさもこの主人公たちの現状を表しているのだろう。
女性たち、口が悪いが(笑)、まあ、男たちがゲスいので、言いたくもなるよね。