2021年6月30日水曜日

食の安全を守る人々

農薬の大幅規制緩和、ゲノム編集食品の流通 

メディアが伝えない、食の裏側に迫るドキュメンタリー





2021年/日本
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー・出演:山田正彦
語り:杉本彩
配給:きろくびと 
上映時間:103分
公開:2021年7月2日(金)より ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺にてロードショー 他全国順次公開
HP:https://kiroku-bito.com/shoku-anzen/


ストーリー 
 種子法廃止、種苗法の改定、ラウンドアップ規制緩和、そして表記無しのゲノム編集食品流通への動きと、TPP に端を発する急速なグローバル化により日本の農と食にこれまで以上の危機が押し寄せている。
 しかし、マスコミはこの現状を正面から報道することはほとんどない。長年、この問題に取り組む元農林水産大臣で弁護士の山田正彦は、日本国内のみならず、アメリカのモンサント裁判の原告や、子どものために国や企業と闘う女性、韓国の小学校で普及するオーガニック給食の現状など幅広く取材していく。国内外で農と食の持続可能な未来図を模索する人々の姿から見えてくるものとは。

レヴュー 
 日本の食卓には、米を主食としてパンや麺類、肉や魚、野菜類など副菜が並ぶ。これほど、多様で豊富な食材を日々の食事に取り込み、世界各国の味を楽しんでいる国民は珍しい。また、日本人は新鮮なもの求め、毎日の買い物も欠かせない。ところが、こうした食事や料理への強い関心とは裏腹に、自分はどういうものを食べているのかに意識を向けている人は少ないのではないだろうか。今、日本の農や食は数々の問題を抱えている。それに対する危機感がいかに希薄であるかを、このドキュメンタリーは伝えてくれる。

 まず、最初は除草剤の規制緩和の問題が明らかになる。ほとんどの小麦を輸入に頼る日本。日本における輸入小麦の残留農薬量の基準値は、ヨーロッパ諸国などの10倍も緩い値だという事実に衝撃を受ける。如実に出る農薬の健康被害もさることながら、残留農薬は代を重ねて体内に残り、子どもたちの脳に影響を及ぼしているという研究報告にも驚かされる。
 そして、日本の食は、種子法廃止、種苗法改定、TPPに端を発する急速なグローバル化によりこれまで以上の危機にさらされていることを本作は教えてくれる。遺伝子組換えから、さらに踏み込んがゲノム編集による食の変革。生産性を高め、食を豊かにするという取り組みなのだろうが、その結果として、今後何が起きるのかは未知数だ。そして最大の問題は、そのことを消費者である国民は何も知らされていないということだと思う。私たちは、何の危機感も持たないまま、毎日それらの食材を体内に取り込んでいる。

 このドキュメンタリーが優れているのは、そうした政府もメディアも伝えない食の裏側に迫りながら、ただ危機感を訴えるだけでなく、子どもたちの未来へ焦点を当てているところだと思う。これからの社会を担う子どもたちに安全で安心な食をどうしたら提供できるのか、アメリカや韓国の現状を取材し、農業と食の持続可能な未来図を模索する人たちに話を聞きながら、実践を進める自治体の姿に希望が見えてくる。山田氏の取材をロードムービーのように追った監督は、この作品が「食の安全を応援しよう」だけでなく、「自分も食の安全を守る人々のひとりになろう」と思ってもらえたら喜びだと語っている。本作は、そうしたメッセージをしっかりと伝えてくれる。
 本作は2020年のキネマ旬報文化映画第7位に選出された『タネは誰のもの』の元となった作品。クラウドファンディングで1600人以上から多くの支援が集まり話題を呼んだ。(★★★☆加賀美まき)