2021年1月14日木曜日

聖なる犯罪者

実話を基に描かれた、過去を偽り聖職者となった青年の顛末。 

Corpus Christi

2019年/ポーランド、フランス
監督:ヤン・コマサ
脚本:マテウシュ・パツェヴィチ
出演:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ
配給:ハーク
上映時間:115分
公開:2021年1月15日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイント他 全国順次公開
HP:http://hark3.com/seinaru-hanzaisha/

●ストーリー 
 殺人を犯し少年院に入った20歳のダニエル(バルトシュ・ビィエレニア)。そこで出会った神父の影響で熱心な信者となり、前科者は聖職者になれないと知りながらも、神父になることを夢見ていた。仮釈放が決まり、ダニエルは田舎の製材所で働くことになるになるだが、そこに向かう途中、丘から見えた教会に立ち寄る。居合わせた少女マルタに自分は司祭だと嘘をついたことから新任の司祭と勘違いされ、そのまま司祭の代わりを任されることになる。
 司祭らしからぬ言動や行動をするダニエルに村人は戸惑うが、交流を通じて村人との信頼を深めていく。一年前、この村で7人が命を落す事故があったことを知ったダニエルは、この事故が村人たちに与えた深い傷を知り家族を癒したいと模索しはじめる。そんな折、同じ少年院にいた男がダニエルの前に現れる…。

●レヴュー 
 殺人を犯し、少年院に入れられた青年ダニエル。信仰を深め、院内でミサを行う神父に信頼される存在になっていった彼は、自分も聖職者になりたいという夢を抱くようになる。しかし、犯罪歴のあるものは神学校への入学は許されておらず、神父にも「善行をしたいならば他にもたくさん道はある」と諭される。仮出所したダニエルはとある村で身分を偽って司祭になりすます。ポーランドで実際にあった事件をベースに、ほぼ事実に基づいて脚本が書かれているという。

 主人公のダニエルは果たしてどんな人物なのだろうか。殺人を犯しながら、純粋に聖職者になりたいと願うほどの信仰心を持つ2面性。どのような経緯で殺人を犯したのかはわからないし、どう信仰を深めていったのかも想像するしかない。健気に罪を悔いているのかと思えば、仮出所するとすぐに歯目を外し、どこで手に入れたのか司祭服を着て神父を気取ってみせたりする。意図的に司祭になろうとしたわけではなかったが、結果的には身分を隠し、自分なりのやり方でミサを執り行い、次第に村人の信頼を得ていく。さらに彼は、そっと身を潜めているだけでなく、村人を親交を深め、村で起きた凄惨な事故による家族の心の傷を癒そうとまでする。信頼する神父の言葉通り、善行を行うことで自分も聖職者になれると思ったのかもしれない。それもまた正義なのだろうか。彼の本心がどこにあるのか、善とも悪ともつかないダニエルの行動や心の揺らぎが何によるのか推し量りながら物語が進んでいき、最後まで惹きつけられる。
 やがて、ダニエルの正体は知れるところとなる。宗教的な部分にまで踏み込んだ理解は(その背景がない筆者には)難しいところだが、閉塞的な田舎の村の人間関係とダニエルという人物を通じて、人間の危うさ、罪深さや不確かさを鋭くつく視点が秀逸。物語は完全な赦しには着地しないが、ラストシーンまで何が受容されたのか見るものが問われる作品だと思う。

 そのダニエルを演じたのは、深い眼差しが印象的な28歳のバルトシュ・ビィエレニア。独特な佇まいで善とも悪ともつかない人物を見事に演じている。そのようなダニエルの不確実さや全体に流れる静穏だが張り詰めた空気感を表すような、ブルーグレーやグリーンがかったベールに包まれたような色調の画面が美しい。ダニエルが教会を去ったあとに映し出される道端のマリア像も印象深い。(★★★★加賀美まき)

第92回アカデミー賞 国際長編映画賞へのノミネート。
「2020 ORL Eagle Awards」(ポーランド版アカデミー賞) 監督賞、作品賞、脚本賞、編集賞、撮影賞ほか11部門受賞