2020年6月12日金曜日

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

四姉妹の成長を描いた「若草物語」とその続編である「続 若草物語」の瑞々しい映画化


Little Women
2019年/アメリカ
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公開:6月12日より全国
公式HP:https://www.storyofmylife.jp/


●ストーリー

1860年代、ジョーはニューヨークの出版社に原稿を持ち込んでいた。そんな彼女の脳裏に7年前の家族の姿が蘇る。父親が南北戦争に従軍し、留守になったマーチ家。しかし優しい母(ローラ・ダーン)のもと、しっかり者の長女メグ(エマ・ワトソン)、次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、三女ベス、末っ子のエイミー(フローレンス・ピュー)の四人は楽しく暮らしていた。裕福な未亡人の叔母(メリル・ストリープ)は、裕福な相手との結婚が女性としての幸福だという。やがて彼女たちの輪に隣家の少年ローリー(ティモシー・シャラメ)も加わるが、ジョーは彼の想いを拒否する。

●レヴュー

『レディ・バード』などの女性監督グレタ・ガーウィグによる、オルコットによる自伝的小説「若草物語」と「続若草物語」の映画化だ。主人公ジョーを演じているのは、その『レディ・バード』の主演シアーシャ・ローナン。グレタ・ガーウィグが主演した『フランシス・ハ』を見ていると、シアーシャ・ローナンがガーウィグによく似ていることがわかる。ローナンは本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたが、それも納得の好演だ(本作はアカデミー賞主要6部門ノミネート)。

映画の時間軸の“現在”は、姉妹たちが実家を離れた後。主人公のジョーが過去を振り返る形で、現在と過去の話が入り混じる。「古めかしい古典」かと思って見ていると、その予想は外れる。100年前の家族愛や女性の悩みが語られるが、それは実に今日的なのだ。古典を新鮮な語り口で、今も女性たちが抱える問題として蘇らせたガーウィグの手腕はすばらしい。

女性はなぜ男性と同じ幸せを得られないのか。この社会は男性中心で作られていることは、今も変わらない。結婚していない女性、子供を産めない女性を「かわいそう」などと平気で言う女性は今もいる。女性の価値は、結婚する相手で決まると信じている女性もいる。結婚を人生のゴールとする価値観は、未だに健在なのだ。しかし結婚が人生のゴールとする男性はほとんどいない。

マーチ家の四姉妹は、これから大人になる様々な女性たちの価値観の現れだ。それは現代でも変わっていない。今では結婚をしなくても女性は生きていけるが、それでも独りの寂しさは消えないだろう。劇中で、ジョーが自分を愛する男性の求婚を拒否するが、同時に分かち合えない寂しさを感じる。誰が正しいか正しくないかなんてわからない。正解のない人生の中で、それぞれが自分の道を選択して生きていく。それが初々しく、この映画自体が「古典」となる美しさを持っている。邦画の『海街diary』のように、いつまでもこの四姉妹と一緒にいたくなる。そんな作品だ。(★★★★ 前原利行)