2020年6月7日日曜日

15年後のラブソング

大人になりきれない大人たちのラブコメディ

Juliet,Naked

2018年/アメリカ・イギリス

監督:シェシー・ペレッツ
脚本:エフジェニア・ペレッツ、ジム・テイラー、タマラ・ジェンキンス
出演:ローズ・バーン、イーサン・ホーク、クリス・オダウド
配給:アルバトロス・フィルム
上映時間:97分
公開:2020年6月12日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

●ストーリー 
 仕事もあり、長い付き合いの恋人ダンカン(クリス・オダウド)もいる30代後半のアニー(ローズ・バーン)。周囲からは安定した生活を送っていると思われていて、特に不満があるわけではないのだが、日々なんとなくモヤっとした思いを抱いていた。
 そんな折、1990年代に表舞台から姿を消した、ダンカンが敬愛する伝説的ロック・シンガーのタッカー・クロウ(イーサン・ホーク)から1通のメールが届く。それがきっかけとなり、イギリスの港町サンドクリフとアメリカ・ニュージャージー州の田舎町をつなぎ、彼らの奇妙な三角関係が始まる。

●レヴュー 
 それなりにやりがいのある仕事を持ち、腐れ縁のパートナーと一緒に暮らす主人公アニー。今の生活は安定しているが、なんとなくモヤモヤしているこじらせ女子。ある年齢に達して、そういう思いに陥っている人は少なくないかもしれない。そんな彼女に絡む二人の男性も大人になりきれない男たち。アニーと同居するダンカンは、90年代に表舞台から姿を消した伝説のロックシンガーに陶酔し、アニーそっちのけで彼を追うSNSの運営に忙しいオタク系。そのロックシンガーは、音楽活動を放棄して仕事もせず、元妻の家の倉庫に間借りして幼い息子と暮らしている超ダメ男。そんな彼には子供が5人もいるらしい。三人にはそれぞれに苦い経験や人に言えない思いがあるのだが、それを心に封印して毎日をやり過ごしてきてしまったようだ。年齢、性別や境遇で共感ポイントは違ってくると思うのだが、この三人をなぜか憎めない。その男女を三人の俳優が見事なアンサンブルで好演している。
 
 ある日、アニーはダンカンのSNSサイトに批判的な投稿をしたところ、タッカー本人から返信の書き込みが来る。それをきっかけに二人は繋がり、漫然としていた日々が少しずつ変化していく。新しい何を模索していく成り行きがさらりと描かれ、いくつかのトピックが軽妙に演出されていて心憎い。これから大人になる人も、今モヤっとしている人も、もう大人になりきってしまった人にも楽しめる小粋な作品だと思う。

 伝説のロックシンガーを演じたのはイーサン・ホーク。「いまを生きる」(89年)で、気弱な生徒を演じた美少年も、このところ「大人になれないダメ男」がはまっている。それがなぜかチャーミングに見えるのは、幅広い役を演じ分けるイーサン・ホークならではの魅力だろう。かくいう筆者も長年のファン。若いころのイーサンの写真が登場し、劇中、彼の歌声が聞けるのは嬉しい。また、タッカーの曲をネイサン・ラーソンやロビン・ヒッチコックといった面々が提供。90年代のオルタナティブロックのムーブメントが各所に散りばめられ、楽しめる作品になっている。
 原作は「アバウト・ア・ボーイ」などで知られるニック・ホーンビィの『Juliet, Naked』。イギリスの港町サンドクリフの風情がとてもいい。(★★★☆加賀美まき)