2019年5月18日土曜日

マルリナの明日



たった1人で強盗団に立ち向かうマルリナ。
これが噂のナシゴレン・ウェスタンだ!

2017年/インドネシア・フランス・マレーシア・タイ合作/インドネシア語
監督:モーリー・スリヤ
出演:マーシャ・ティモシー(『カリファーの決断』『ザ・レイドGOKUDO』)、エギ・フェドリー、ヨガ・プラタマ
配給:パンドラ
公開:5月18日(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー
https://marlina-film.com/

■ストーリー

夫と子供を亡くし、荒野の一軒家で静かに暮らすマルリナ。そこへ、7人の強盗団が彼女を襲う。暴行を受けながらも次々と強盗団を倒し、首領マルクスの首を刎ねて脱出する。自らの正当防衛を証明するため、遠く離れた警察へ向かうが、強盗団の残党たちが彼女の行方を追う。

■レビュー

舞台はヌサ・トゥンガラ諸島にあるスンバ島。
荒涼とした乾いた土地は、そこがインドネシアであることを忘れてしまいそうだ。以前は森林で覆われてたそうだが、過度の放牧や野焼きで荒廃してしまったのが原因らしい。インドネシアでも最も貧しい地域であり、「現代社会では起こりえない事が、今でも起こっている場所」(監督の弁)なのだそうだ。未開拓地域・無法者の闊歩する世界を描いた西部劇の移築先としては最適な場所なわけだ。

西部劇風といっても不思議なテイストに満ちている。テーマもいわゆる復讐劇や英雄譚とはちょっと違う。「何じゃこりゃあ!」と松田優作みたいに驚いてほしいので詳細は伏せるが、スンバ島の風習や精霊信仰が色濃く作風に現れている。(その風習はスラウェシ島にも存在する)個人的には『ガルシアの首』('74)『メルキアデス・エストラーダ三度目の埋葬』('05)あたりを彷彿とさせるが、モーリー・スリヤ監督にとってはジャームッシュの『デッドマン』('95)が制作のガイドになっているようだ。
ちなみに「ナシゴレン・ウェスタン」と宣伝文句が踊っているが、ナシゴレンは出てこない。劇中に出てくる象徴的な食べ物はスプ・アヤム(鶏のスープ。ソト・アヤムとも言う)である。インドネシアのおふくろの味であり、傷ついた女性を癒すにはぴったりの優しい味の料理だ。もう少しネタばらしをするなら、この映画は西部劇の男臭さとは相反して、虐げられた女たちの物語なのである。

映画の企画は、2014年シトラアワード(インドネシア版アカデミー賞)で審査員を務めていた縁で、ガリン・ヌグロホ監督から原作「The Woman」を手渡されたことに始まる。ヌグロホ監督がスンバ島での経験を元に書いた脚本は、女性監督によって制作されるべきだと考えたようだ。そうして完成された作品は、カンヌでお披露目、フィルメックスで最優秀作品賞、2018年の同シトラアワードで10部門受賞する快挙となった。

先輩風を吹かせるわけではないが、僕は2013年の旅シネベストテンでモーリー・スリヤ監督の『愛を語るときに、語らないこと』('13 )を2位に挙げている。盲学校を舞台に、赤裸々な恋愛から国家表象まで描かれ、凄い才能の映画作家が出て来たものだと興奮した。彼女のオリジナル脚本で、本来の持ち味が色濃く出ている作品だ。こちらの作品も素晴らしいので、是非上映機会が増えることを願っている。(『マルリナの明日』も『殺人者マルリナ』のタイトルで2017年度のベストテン6位に挙げている)

(カネコマサアキ★★★☆)