2019年4月4日木曜日

ROMA/ローマ

本年度暫定マイベストワン! 内容、風格とも素晴らしい 


 
2018年/メキシコ、アメリカ
監督:アルフォンソ・キュアロン(『ゼロ・グラビティ』)
出演:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タピラ
配給:Netflix
公開:公開中
劇場情報:アップリンク渋谷、シネスイッチ銀座ほか


今年のアカデミー賞作品賞最有力と言われながら、劇場での限定公開、
そしてメインが動画配信サイトのNetflixでの公開のためで惜しくも3部門の受賞にとどまり、
選考基準にも一石を投じた作品。
ただし、映画自体は文句なくすばらしく、また作品賞を取ってもいい格調であるあることは確か。
そして動画配信作品ながら、もっとも映画館の環境で見るべき作品だ。もし、見に行くか迷っている人がいたら、公開が終わる前に必ず行くべし! 
パソコンのモニターとスピーカーで見たら、映画の良さの1/10ぐらいしか伝わらないからだ。
ベネチア映画祭では最高賞の金獅子賞、アカデミー賞では外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞



舞台は1970年から71年にかけての、メキシコシティのローマ・コンデンサ地区。
若い先住民の女性クレオはそこで医者のアントニオと妻のソフィアに雇われ、
住み込みの家政婦として働いている。
家には夫婦の子供たちが4人、ソフィアの母のテレサも暮らしていた。
ケベックへ仕事で出かけたアントニオだが、そのまま家には帰ってこなかった。
その前からソフィアとの夫婦関係はギクシャクしていたのだ。
一方、クレオは友達の恋人の紹介で、フェルミンという武術を習っている青年と付き合っていたが、ある日、彼に自分が妊娠したことを告げると、彼は戻ってこなかった。
クレオの出産予定日が近づき、テレサにつれられてベビーベッドを買いにいくクレオだが、
そこで暴動に巻き込まれてしまう。。。


上映時間2時間15分、モノクロ、映画のための劇伴音楽は一切なし。そして出だしはスロースタートと、見ていて眠くなってしまう要因は多いが、最初だけ我慢して見続けて欲しい。
冒頭、床とそこに流される水が数分にわたって映し出される。耳を澄ますと流れる水の音、
犬の吠える声、遠くを飛ぶ飛行機、通りの物売りの音がリアルに聞こえてくる。
カメラがパンすると、主人公である若い家政婦のクレオが映し出され、
それから彼女の日常の1日の仕事が始まる。
この生活音の音響設定が見事で、まるで自分がそこにいるかのように、
左右、前方から聞こえてくる。
スロースタートなのは、映画の世界に没入するようにするためだろう。
基本的には1シーンのカット割りが長い。というか、ほぼ1シーン1カットだ。
家の2階をゆっくりカメラが一周し、クレオの仕事とそこで暮らす家族を映し出す(これが劇中何度か繰り返される)。観客は間取りまで、完全に頭の中に入る。
ワイドスクリーンの画面をフルに使った画面構成は見事
クレアが家を出て町の通りを歩き、映画館に着くまでを長い横移動でほぼ1カットで見せる。
クレアがベビーベッドを買いにいくくだりでは、数百人のエキストラが動き、デモから暴動、
屋内の家具店内での事件からクレアの破水までを、ほぼ1カットの流れるような移動カメラで見せる。すごい迫力だ。
このカメラワークと、自然音の演出は、クレオの出産シーンやラストの海のシーンでピークに達する
そうした映画の中でインパクトが強いシーンの合間にも、印象的なシーンが多い。
というか、ほとんどが印象的なシーンといってもいい。
フルチンで武術をクレオに見せるフェルミンの滑稽さと、その後の最低男ぶりは、
誰かに語りたくなるほど。
フェリーニ映画(とくに『アマルコルド』)のような、大変なできごとを後ろの方で起きているユーモラスな絵のアンバランスが打ち消す。
たとえば深刻な状態でベンチに座り込んでアイスを食べている一家の後ろには巨大なカニの作り物(カニ道楽のような)があり、そして後ろでは結婚で喜ぶ新婚カップルが映し出されるなど、あげていけばきりがない。
さらに、メキシコにおけるメスティソと先住民との経済格差といった問題(先住民が多い地方の町はバスを降りると未舗装でドロドロだ)などが、重層的に盛り込まれている。
ただ、そうした階層の差を超えて、いつしか家政婦のクレオと雇い主のソフィアは、
男に苦しめられている女性という点で心情が理解し合えるようになるのだ。
もちろんアメコミ映画などとは違い、受け身で楽しめる映画ではない
しかし集中して見れば、不穏な空気がだんだん高まっていき、緊張を持って見ることはできるだろう。
なので、いつでも視聴を止められる環境で見ることは、あまり勧められない(集中が中断すると良さは半減する)。
そして、素晴らしい立体的な音響効果を堪能するには、やはり音のいい劇場空間で。
いや、本当に音が360度から聞こえてきて、びっくりした。THXならもっといいんだろうな(試してないがヘッドフォンやサラウンドシステムもアリかも)。
見る人を選ぶかもしれないが、今の所、本年度暫定ベストワンの作品だ。
★★★★☆