2019年2月28日木曜日

サッドヒルを掘り返せ

荒れ地と化した名作映画のロケ地を蘇らせる、熱き映画への想いが詰まったドキュメンタリー


Sad Hill Unearthedさい。</div></div>

2017年/スペイン
監督・制作・撮影・編集:ギレルモ・デ・オリベイラ
出演:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウド、ジェイムズ・ヘットフィールド、ジョー・ダンテ
配給:東北新社
上映時間:86分
公開:2019年3月8日(土)、シネマカリテほか全国順次ロードショー

●ストーリー

 マカロニ・ウエスタンの名作『続・夕陽のガンマン』(1966年)で伝説のシーンの舞台となった「サッドヒル墓地」。撮影用に作られたロケ地が当時のまま人知れず残っていた。2015年10月、その「サッドヒル」を掘り起こし、再び命を吹き込もうとする巨大プロジェクトが始まる。映画ファン有志によるその活動のニュースは世界に広まり、毎週末、ヨーロッパ中の映画ファンが鍬やシャベルを担いでスペインの荒野へ駆けつけた。そうして、スペインのブルゴス郊外に50年間埋もれていた舞台が蘇っていく…
 
●レビュー 
 
 思入れのある映画のセットやロケ地を訪ねることは、ファンにとって巡礼のようなものだと思う。本作は、長い年月の間に草や土に埋もれていたあるオープンセットを掘り起こし、再生しようとする人たちの熱いドキュメンタリーである。

 その場所の名は「サッドヒル墓地」。かの名作映画「続・夕陽のガンマン」クライマックスシーンと聞けば、エンニオ・モリコーネの名曲「黄金のエクスタシー」、ギターの旋律から始まる「トリオ」、トランペットが鳴り渡る中、クリント・イーストウッド、イーライ・ウォラックら三つ巴の決闘シーンへ・・と記憶が蘇るだろう。円形の石畳の周囲に無数の墓標が並ぶ、あの墓地のオープンセットは、50年近くもの間、スペイン北部・ブルゴス郊外の荒れ地にのみ込まれ場所がわからなくなっていたという。その場所の痕跡が発見されると、いつしか有志が集まり、遺跡発掘さながらにその場所を掘り起こすプロジェクトが動き出したのである。
 
 かつてマカロニウエスタンと呼ばれたイタリア製西部劇。アメリカのバージニアに似ているというスペインの北部は撮影場所のひとつとなった。石畳の円形広場を5000基もの墓標が囲むオープンセットもその枯れた荒野に作られた。近くに駐屯していたスペイン軍兵士たちが動員され、たった2日間で広大な土地にセットを作ったという。かれらはエキストラとしても駆り出されたそうで、フランコ政権下のスペインで、そんな大らかさが当時の映画を巡る環境にあったというのも興味深い。
 
 2014年、4人の男たちがそのセットを掘り起こそうと声を上げた。映画が主要な娯楽だった時代、家族と一緒に何度も映画館へ足を運び見た「続・夕陽のガンマン」。その思い出は作品への愛に変わり、墓地を掘り起こそうという「サッドヒル 文化連盟」が立ち上がる。やがてそのプロジェクトは周囲に広がり、集まってきたボランティの力によってセットは昔の姿を取り戻す。彼らの活動の様子をカメラは追っていく。そして2016年には撮影50周年という記念イベントが開かれ、最後のサプライズにはほろりとさせられる。
 
 かれらの純粋な作品愛、その熱量は半端なく、さらに当時の映画人、専門家、ファンらのインタビューも見どころ。登場する人々の語り口がとにかく熱い。芸術志向の強かったイタリア映画界で、セルジオ・レオーネ監督の評価は高くはなかったが、緻密で機知に富んだ監督の作品は、後にタランティーノなどの若手監督たちに影響を及ぼしたのも頷ける。当時の熱い映画づくりが、時代を超えて人々の心を結びつけ、「サッドヒル」復活へと繋がったと思う。
 「サッドヒル墓地」はスペイン、サント・ドミンゴ・デ・シロス自治州に属し、誰でも訪れることができるそうだ。★★★☆)加賀美まき