2015年12月3日木曜日

創造と神秘のサグラダ・ファミリア


SAGRADA : El misteri de la creacio

「神は急いでおられない」 1世紀を超える巨大プロジェクトの過去と“いま”を見せるドキュメンタリー


2012
監督:ステファン・ハウプト
出演:外尾悦郎、ジョセップ・マリア・スピラックス、ジョルディ・ボネット、ジョアン・バセゴダ
上映時間:94
配給:アップリンク
公開:1212日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか


●レヴュー 

インドのタージマハルやパリのエッフェル塔と並び、いまや世界で最も有名な建築物といってもいいのが、バルセロナのサグラダ・ファミリア(聖家族教会)だろう。2005年には世界遺産に登録され、入場者数もぐっと増えたとか。しかしそのサグラダ・ファミリア、実はまだ“未完”なのはご存知だろうか。「建築中なのに世界遺産」というのも、類を見ないだろう。本作は、そのサグラダ・ファミリアの設計や建設に携わる人々へのインタビューを通し、建設の裏側にカメラを向けるドキュメンタリーだ。

最近、独立運動も起きているスペインのカタルーニャ地方。その州都であり、スペイン第2の都市であるバルセロナの中心部で、1882年から建築が始まったサグラダ・ファミリア。翌年、初代建築家が依頼主と対立したため、30歳になったガウディが2代目建築家として呼ばれる。こうして世紀のプロジェクトが始まった。途中、第一次世界大戦による資金不足を経て、ガウディ自身は1926年に亡くなる。そして1936年から始まったスペイン内戦で、図面や模型の大部分が破壊されてしまう。そうしたこの大聖堂が歩んで来た歴史が、このドキュメンタリーで語られる。

しかし、そうした歴史は本でも知ることができる。このドキュメンタリーが貴重なのは、いま、まさに目の前でこの教会を作っている人たちの、サグラダ・ファミリアにかける思いが語られるインタビュー映像だ。サグラダ・ファミリアの解説本は数多くあるが、実際に建設に携わっている人たちの声をまとめて聞けることはそうないからだ。そして、観光で行っても見ることができない、建築現場という“裏側”も見ることができる。

このドキュメンタリーで驚いたのは、内戦で肝心の設計図や模型のほとんどが破壊されたので、ガウディの意思は継いでいるが、細部ではかなり各担当者のオリジナリティが発揮されていること。つまり、私たちがガウディ、ガウディと言っているが、すべてがガウディの設計やデザインという訳ではないということだ。これには2つのスタンスがあり、ガウディならこういうのを望むだろうと思って作る者と、自分のオリジナリティを曲げずに作る者に分かれる。

前者の代表は、「ガウディに近づくためにカトリックに改宗した」とまで言う、日本人彫刻家の外尾悦郎氏だろう。「生誕のファサード」の彼の作品は、それに乗っ取って造られたものだ。しかしガウディは細部まで指定していないので、彼はアジア的な要素を彫刻に取り込んでいる。後者は、現在ほとんどできあがってきた「受難のファサード」の彫刻家のスピラックスだ。彼は自分で「私は無神論者だ」「ガウディから離れて考えている」と言う。さらに内部のすばらしいステンドグラスがあるが、そこの職人も「長年抽象画を手がけてきたから、サグラダ・ファミリアで別のスタイルは試せない。それは自分への裏切りになる」と語る。つまりこの教会は、ガウディの作品のようであり、一方で現代や作家それぞれを反映しているものでもあるのだ。

そんな姿を見ていると、サグラダ・ファミリアは完成が目的なのではなく、建設自体が目的なのではないかとも思えてくる。「神は急いではおられない。焦って作る必要はない」とガウディも言っている。なので「永久に完成しないほうが、人々にとって幸せではないか」とも感じてしまうのだが。ちなみに映画は、淡々としていて非常に地味です(笑) エキサイティングな方には行かず、上品に淡々と進んで行くので、アメリカンな映画ばかり見ている人には、辛いかも。興味ある人にはいいけれど。(★★★)

■映画の背景

この映画は2012年製作なので、3年たった今では、より建築が進んでいることは知っておいたほうがいいかもしれない。