2018年8月13日月曜日

1987、ある闘いの真実


1987

2017年/韓国
監督:チャン・ジュナン
脚本:キム・ギョンチャン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・へジン、キム・テリ、パク・ヒスン、イ・ヒジュン、
   ソル・ギョング、カン・ドンウォン、ヨ・ジング
配給:ツイン
上映時間:129分
公開:2018年9月8日(土)、シネマート新宿、シネマート心斎橋 全国順次ロードショー


●ストーリー 

 1987年1月、警察での尋問中に大学生パク・ジョンチョル(ヨ・ジング)が死亡する。パク署長(キム・ユンソク)は、部下らに遺体の火葬を命じるが、その日当直だったチェ検事(ハ・ジョンウ)は不審を抱きそれを拒否、上層部の反対を押し切り解剖を執行させる。警察は心臓麻痺という虚偽発表を続けるが、現場の痕跡や解剖所見は拷問致死を示していた。事件を取材していたユン記者(イ・ヒジュン)は「水拷問中の窒息死」と報道。これに対しパク署長は、チョ班長(パク・ヒスン)と刑事の2人だけを拘束し事態を収束させようとする。
 一方、民主化運動家で指名手配中のキム・ジョンナム(ソル・ギョング)は真実を暴く機会をうかがっていた。協力者のハン刑務官(ユ・へジン)は、収監中のチェ班長から情報を得ると、検問をかいくぐるため、姪のヨニ(キム・テリ)に情報伝達の任務を託す。そして民主化運動が拡大する中、ヨニが知り合った学生運動家イ・ハニョル(カン・ドンウォン)に事件が起こる・・。

●レビュー 

 「1987」は、軍事政権下の1987年、大学生の死に端を発した韓国民主化闘争を描いた作品で、実話に沿い気骨に語られている。その年の1月、体制への不満が高まり各地で学生デモが勃発する中、警察に連行されたソウル大生が拷問中に死亡。隠蔽されようとしていた死因が暴露されるや前途ある若者の死の衝撃は、民主化の動きとなって韓国全土に広がっていく。

 実際の事件に基づくため、実在する多くの人物が登場する。脱北者の立場から任務遂行に執念を燃やす署長。青年の死を隠蔽しようする警察や強権的な政治指導者。その末端で命令に従う者たち。一方、体制に抗う者は、事実を暴こうする奔走する。民主化運動家、自ら行動を起こす学生たちや協力者。その裏では、体制に翻弄されてきた国民がいて、やがて彼らも民主化のうねりのひとつとなっていく。劇中、そうした登場人物一人一人に焦点がしっかりと当てられ、当時の韓国に生きた人々の姿がリアルに描かれている。キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、カン・ドンウォンら力のある俳優が背景をしっかりと含みながら役柄を演じて秀逸。特に刑事役のパク・ヒスン、記者役のイ・ヒジュンの堅実な演技がさらなる説得力を生んでいる。

 隣国が軍事政権下にあり、民主化運動が起こったのは、日本が「バブル」という名の景気に踊らされていた頃。この物語の1987年は、わずかに31年前のことだ。アジア大会後、「漢江の奇跡」と言われた経済発展を遂げ、ソウルオリピックを控えた隣国の実情を私たちは知らずにいたと思う。こうした作品を通じてあらためて隣国の本当の姿に気付かされる。

 最終盤、学生たちの民主化運動が激しさを増す中、無差別に発射される催涙弾が学生のひとりを直撃する。重症を負ったその学生の死亡が伝えられると、民主化運動は最大のうねりとなっていく。亡くなった学生の写真が掲げられる中で集まった市民。声をあげた彼らの勇気が大きな希望となり国を動かしていったことに心を動かされる。そして、知らずにいたことを目を向けていくこと、それがこれからの隣国との関係に必要なのだろうと感じる。韓国を知る上で必見の作品。最後には実際の写真も多く映し出される。
★★★★)

第69回 百想芸術大賞4部門
    (大賞、脚本賞、主演男優賞/キム・ユンソク、助演男優賞/パク・ヒスン)