2018年8月3日金曜日

祈り 三部作


監督:テンギズ・アブラゼ
配給:ザジフィルムズ
公開:8月4日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

ジョージア(グルジア)の巨匠テンギズ・アブラゼ監督の伝説的な傑作『祈り 三部作』(『祈り』『希望の樹』『懺悔』)が一挙上映される。

■レビュー

 テンギズ・アブラゼ監督の作品は『懺悔』(1987)が2009年に公開されているので、ご存知の方も多いかと思う。(前原さんのレビューがリンク切れのようで残念です)
自分はこれまで見る機会を逃していて、今回はじめて三部作『祈り』('67)『希望の樹』('76)『懺悔』('84)を立て続けに拝見する機会に恵まれた。こんな映画作家がいたのか、とただただ圧倒されるばかりだ。

 とりわけ感心したのは、今回日本初公開になる『祈り』の素晴らしさだ。ジョージアの国民的作家V.ブシャヴェラの叙事詩をもとに19世紀の部族の対立を描いている。詩的かつ精緻なモノクロ映像は神話・宗教性を帯びていてカール・ドライヤーの作品を思わせる。舞台になってる北東部の山岳地帯ヘヴスレティという隔絶された辺境の美しい風景、シャティリという村の独特な建築物の造詣。こんな場所があるなら旅してみたいと思わずにいられない。そして何よりもキリスト教とイスラム教徒の対立を双方の視点を描き、融和を訴える内容は、今の世界の現状に強く響いてくる。いま力を持つのは、一つの宗教への信仰を描いたドライヤーの作品より、複数の文化・宗教が共存する希望・祈りを描いたこちらの作品だろう。

ロシア革命前夜のカヘティ地方の村を舞台に2人の純真な若者の悲恋を描いた『希望の樹』、スターリン(グルジア出身)時代の恐怖政治を揶揄するような『懺悔』は、『祈り』の作風とは全く違っていて、ユーモアやグロテスクな風刺が効いている。いずれも、小国グルジアの歴史と人間に深く向き合った怪作だ。

10月13日からは「コーカサスの風 ジョージア(グルジア)映画祭2018」も予定されている。グルジア映画の代名詞となったオルギー・シェンゲラーヤ監督『ピロスマニ』、オタール・イオセリアーニ監督『落葉』、『とうもろこしの島』のギオルギ・オバシュビリ監督作などがラインナップとして上がるようだ。

(カネコマサアキ★★★★)