突然言い渡された絶交。
精霊舞い降りるアイルランドの島で起きる二人の男の対立の行方
2023年1月27日金曜日
イニシェリン島の精霊
2022年11月18日金曜日
擬音 A FOLEY ARTIST
映画に命を吹き込む音響効果技師を通して見えてくる台湾映画史
2017年/ 台湾
監督: ワン・ワンロー(王婉柔)
出演: フー・ディンイー(胡定一)、ほか
配給: 太秦
上映時間: 100分
台湾映画界で活躍してきたフォーリー・アーティストの胡定一(フー・ディンイー)。彼の40年に及ぶ仕事と、台湾~中華映画史を振り返るドキュメンタリー
映画に効果音をつける職人のことを、フォーリー・アーティストという。サイレントからトーキーへの過渡期、1920年代後半に、アメリカのジャック・フォーリーによって編み出された技法が受け継がれ、その名が配されている。人が歩く時の足音、衣ずれの音、ドアを開ける音、風が吹く音…。映画を生きたものにするためには欠かせない仕事だ。
台湾映画界のレジェンド、胡定一は、スタジオ内で画面の質感を想像しながら、様々な道具を選び、巧みな腕捌きで音を生み出していく。キン・フー映画を思い出すような、剣を鞘から抜く音などは金属のヘラを使っている。
2022年11月12日土曜日
あなたの微笑み
くすぶる映画監督が自作を売り込みにいく映画館巡りの旅
監督:リム・カーワイ
出演: 渡辺紘文、 平山ひかる、 尚玄、 田中泰延
配給::Cinema Drifters
上映時間:103分
公開:11月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム、
12月3日よりシネ・ヌーヴォ他全国順次公開
●ストーリー
栃木の田舎町で、くすぶり続ける映画監督の渡辺紘文。映画製作団体「大田原愚豚舎」を旗揚げし、東京国際映画祭ほか数々の受賞歴を持つ渡辺は、自他ともに認める“世界の渡辺”である。しかし“世界の渡辺”もいまは脚本も書けず、大手映画会社から依頼がくることもなく、地元の仲間たちと悪態をつきながら日々を過ごしている。ある日、旧知のプロデューサーから、世界的映画監督の代打で沖縄での映画制作の話が舞い込む。久々の映画制作に浮足立つ渡辺が沖縄に向かうと、「いますぐ俺を主人公にして映画を作れ」という“社長”に高級ホテルに缶詰めにされるが…。
●レヴュー
この映画のもう一つの主役は、全国の個性的な映画館とそこで働く人たちだ。南国の沖縄・首里劇場から、大分・ブルーバード、福岡・小倉昭和館、鳥取・ジグシアター、兵庫・豊岡劇場、雪が舞い落ちる北海道・サツゲキを経て、日本最北端の映画館・大黒座まで…。全国にはこんなに多様で素敵な映画館があるのか!と感嘆せざるえない。だが、コロナ禍も相まって、既に閉館した所もあるというのが実情である。悲しいかな、貴重なアーカイヴ映像となりつつある。
そんな監督ゆえ、外側からの目線、日本の状況や配給システムに目がいくのだろう。映画製作者から劇場を通して観客に届けるまで、映画愛に溢れた作品である。
(★★★☆カネコマサアキ)
2022年8月22日月曜日
サハラのカフェのマリカ
サハラ砂漠に行き交う人々を受け入れる小さなお店
そこはまるでオアシスのような場所だった
監督・撮影:ハッセン・フェルハーニ
出演:マリカ、チャウキ・アマリ、サミール・エルハキム
配給:ムーリンプロダクション
上映時間:90分
公開:2022年8月26日(金)から ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国劇場公開
HP:https://sahara-malika.com
アルジェリア、サハラ砂漠。そこに佇む一軒の雑貨店兼カフェはマリカという女性が一人で営んでいる。
ほとんどの営業時間中に客が来ることはなく、ネコと共に時間を過ごす。たまにトラックの運転手や旅人がやってくるとコーヒーやおやつを提供して、他愛もない世間話に興じる。
日が暮れると、砂漠の真ん中の雑貨店に灯されるロウソクだけが光を放つ。そして彼女は自分の人生を語り出すのだった・・・
サハラ砂漠と聞いて、どこまでも広がる砂の大地というイメージしか浮かばないのだが、その中に建つ一軒の雑貨店兼カフェが本作の舞台。そこで愛猫と暮らす高齢の女主・マリカが主人公である。
アフリカ大陸北部の3分の1を占めるサハラ砂漠は、南北1,700キロメートル、東西4,800キロメートル。面積は約1,000万平方キロメートルで、アメリカ合衆国とほぼ同じ広さのとてつもない大きさの砂の大地だ。不毛の地のような想像をしてしまうが、そこは複数の国にまたがっていて、多数の民族が暮らしている。南北を縦断するトランス=サハラ・ハイウェイという大きな道路が整備されていて、人やモノが行き交っている。マリカのカフェはその道路沿い、アルジェリアの中央辺りにあるらしい。原題の『143 SAHARA STREET』はマリカの店の住所になる。
マリカは悠然とした風で客を迎え、客は皆どこか安堵の表情をしているように見える。砂漠を走る途中で立ち寄るその場所もマリカという存在もまさにオアシスなのだろう。人が心の拠り所に求めているもの、それが伝わってくる作品だと思う。
監督は自身の旅の途中でマリカと出会い、映画を撮ることを決めたという。本当に何もない砂漠の中にポツンと佇むマリカの店。そのことがはっきりとわかるように、マリカの店をぐるりとカメラが映し出す映像やランプの灯りが窓から漏れるシーンは美しく印象的だ。
マリカの店の近くに巨大が給油所兼休憩所が建設されるなど、周辺の社会状況の変化も見えてくる。マリカについての詳細は語られず、想像するしかないのだが、マリカ自身にとってもかけがえのないその店は今も続いているのだろうか、私たちから遠く離れた世界に思いを巡らす。
2022年8月20日土曜日
みんなのヴァカンス
ヴァカンスの呪いを乗り越えろ!
ギヨーム・ブラック監督が描く鮮やかな青春映画
2020年/フランス
監督・脚本:ギヨーム・ブラック
配給:エタンチェ
上映時間:100分
公開:8/20(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
HP : https://www.minna-vacances.com/
●ストーリー
夏の夜、セーヌ川のほとりで、フェリックスはアルマと出会い、恋に落ちる。夢のような時間を過ごすが、翌朝アルマは家族と共にヴァカンスへ旅立ってしまう。 フェリックスは、親友のシェリフを誘い、相乗りアプリで知合った学生エドゥアールを道連れに、アルマを追って南フランスの田舎町ディーに乗りこんでいく。しかし、車が故障してから、暗雲が立ち込める。アルマは予期せぬ彼らの訪問に戸惑っている様子だ・・・。
●レヴュー
新型コロナ感染予防のための行動制限がない夏休みということで、今年は旅行に出かけている人も多そうだ。自分のように、どこへも出かける予定のない人も少なからずいると思うが、映画館に篭ってヴァカンス気分に浸るのも良いかもしれない。
本作で新鮮に感じたのは、アフリカ系移民の若い労働者をメインキャラクターにしていること。ヴァカンス映画は、たいてい中流以上の白人が主人公に据えられていることが多いので、彼らがどういう思いでヴァカンスを過ごすのか興味を引く。もちろん、ママから「子猫ちゃん」と呼ばれる裕福そうな家庭で育ったエドゥアールが、「相乗りアプリ」で女装したフェリックスたちとマッチングし、巻き込まれる形で伴走するのだけれど。(彼は常連俳優ヴァンサン・マケーニュのヤング版といった風貌だ)
彼の運転する車が故障するあたりから、雲行きが怪しくなってくる。「ヴァカンスの呪い」は既に始まっているのだ。宿泊所は小学生が使うようなキャンプ場で、狭くて小便くさいテント寝泊まりするハメに。フェリックスは入れ上げたアルマに再会することはできたが、当初の熱はなく軽くあしらわれ、ギクシャクする。一方、友人思いの温厚なシェリフは幼な子を連れた既婚女性と仲良くなるが、「お前は恋愛に発展性のない女ばかりを好きになってる!」とフェリックスに罵られる。エドゥアールはひたすらカラオケで歌っている。男3人はフラストレーションをためながら、ヴァカンスが終わりに近づいていくが、ちょっとしたマジックが起きる。
ロメールの後継者と目されるギヨーム・ブラック監督が注目を浴びるきっかけになった中編『女っ気なし』(11)は北部の漁村オルトにヴァカンスに訪れた母娘と、彼女たちが滞在するアパート管理人シルヴァン(ヴァンサン・マケーニュ)との真剣かつトホホなドラマが印象的だった。本作は海ではなく、ドローム川周辺の山が舞台だが、『女っ気なし』の構造を踏襲、発展させたような群像劇だ。未見だが『7月の物語』(17)と同様、フランス国立高等演劇学校の学生たちと作り上げた作品で、学生たちの身の上話から着想を得たそうだ。
同館では、ギヨーム・ブラック監督特集も組まれており、上記のほか、代表作『やさしい人』(13)、 短編『遭難者』(09)『勇者たちの休息』(16)も上映される。この機会にぜひ。
(★★★☆カネコマサアキ)
●関連事項
2020年シャンゼリゼ映画祭批評家賞(フランス映画長編部門)
2022年7月17日日曜日
Blue Island 憂鬱の島
文化大革命、六七暴動、天安門事件など、過去を紐解きながら、香港人としてのアイデンティティを探る『乱世備忘 僕らの雨傘運動』監督の意欲作
監督・編集:チャン・ジーウン
配給:太秦
上映時間:97分
公開:7/16(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
HP : blueisland-movie.com
●レヴュー
ストーリーを簡単に説明すると、2019年の民主化デモに参加し、警察に逮捕されたことをトラウマに抱える17歳の少女が、死をほのめかして行方不明になり、デモで居合わせた少年達グループが彼女を探し回るという劇映画だ。当時、抗議の自殺をする若者が相次いだという事実を背景としており、登場人物の様々な家庭事情も描かれていた。
場内には、在日の香港人たちも駆けつけており、上映後のトークショーも熱気を帯びていた。上映中、すすり泣きの声も聞こえてきた。映画の終わりは、決してバッドエンドではなく、希望を感じられるものではあったが、彼らにとってはまだ生々しい記憶であり、デモの灯火はまだ消えていなのだ、と実感した。
*
ビクトリア・ハーバーで水泳を楽しむ老人チャン・ハックジー(陳克治)74歳。1968年、彼と恋人(現在の妻)は、中国本土から、海を泳いで香港に逃れてきた。その様子を97年生まれの若手俳優たちが演じる。その映像は、やはり文化大革命から香港に逃れる筋書を持った唐書璇『再見中国』(1972)のシーンとよく似ていて、つながりを感じた。
セッ・チョンイェン(石中英)、ヨン・ヒョッキッ(楊向杰)70歳。彼らは16歳の時、共産主義寄りの文芸誌を配布したことで、投獄された。当時信じていた共産主義が、現在では形を変え抑圧する側になっていることを複雑に思っている様子。日本ではあまり知られていない六七暴動は、文化大革命に刺激を受けた香港の親中派の労働者が、香港イギリス政庁に抵抗するデモを行い、それが7か月に及ぶ暴動に発展。1,936人が逮捕・起訴され、832人が負傷(うち警察官212人)、51人が死亡するという事件だ。
そして、映画は最後のパートで、有名・無名は問わず、意外な人たちを登場させる。これには驚いた。
僕は去年から、この国がジョージ・オーウェルの『1984』で描かれた未来社会の更に上をいくディストピア国家になってしまったと感じている。香港は問題の所在がはっきりっしているだけマシに見えるが、日本国民の大半はその問題の所在さえわかっていない。巧妙に隠されているのだ。「伝えない」「知らせない」という言論統制をするマスコミ。”洗脳”という言葉がぴったりかもしれない。データ改竄、ワクチンのリスクを伝えないまま幼い子供にまで打とうとする勢力(民族浄化か?)、一方的なウクライナ報道、改憲勢力3分の2を獲得した参院選、安倍元首相の銃撃事件から露わになったカルト教団との関係…。どこか誰かのシナリオ通りな感じもするし、不気味で不穏だ。この国は一体どこへ向かおうとしてるのか。「憂鬱の島」とは、この国の事ではないだろうか?
(★★★☆カネコマサアキ)
●関連事項
