2021年10月29日金曜日

MONOS 猿と呼ばれし者たち


南米の4000m級の山上、そして低地のジャングル。ゲリラ組織の命令で人質を預かる少年少女たち。しかし次第にその団結は崩れていく。

 

 




原題:Monos

監督:アレハンドロ・ランデス

出演:モイエス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソン

製作年:2021

製作国:コロンビア、アルゼンチン、オランダ、スウェーデン、ウルグアイ、スイス、デンマーク

配給:ザジフィルムズ

公開日:20211030日よりシアター・イメージフォーラムほか

上映時間:102

公式HPhttp://www.zaziefilms.com/monos/

 

ストーリー

雲を見下ろす4000m級の山上。壊れたコンクリートの建物で、“博士”と呼ばれるアメリカ人女性の監視と世話をしている十代の8人の若者たちがいる。反政府ゲリラの組織に属している彼らは「モノス(猿たち)」と呼ばれ、組織のメッセンジャーと呼ばれる男が定期的に人質と彼らの様子を確認している。そんな彼らの団結は、組織から預かった乳牛のシャキーラを仲間のドッグが誤って撃ち殺してしまうことで崩れる。リーダーのウルフは責任を感じて自殺。二番手のビッグフットは、死んだウルフに罪をなすりつけた。やがて、“敵”の襲撃を受け、モノスは人質を連れて低地の熱帯雨林に移動するが…。


レビュー

 

本作は南米で50年続いた内戦を下敷きにした映画だ。中南米の反政府ゲリラは、必ずしも庶民の味方とは限らず、単にその土地の利権を政府と争う武装組織ということもある。例えば、政府が反米ならば、武器や資金は米国から供与され、親米ならロシアなどの共産圏がお金を出す。中には政権を奪う気は最初からなく、最初から資金目当てで組織を立ち上げることもある。また、武力でその地域を制圧すれば、そこから出るお金を吸い上げることもできるし、資金源となる麻薬の原料の栽培だってできる。人的資源に関しては、時おり村を襲い、子供をさらって洗脳すれば良い。疑いを持たない子どもの方が、冷酷な兵士になるのだ。

 

人里離れた山頂付近で人質監視の任務を受けた、武装した8人の少年少女たち。他の世界を知らない彼らは、おそらくさらわれて兵士にされたのだろう。親兄弟もいない彼らは純粋に組織を信じ、命令に従う。大人になる前の年齢だが、リーダーのウルフとその恋人のレディのように男女の仲になるものもいる。

 

組織にとって彼らの一番の役目は、人質の監視だ。中南米では誘拐ビジネスが横行している。それはイデオロギーでもなく、生活の手段だ。この“博士”と呼ばれている米国人女性がどうしてさらわれたのかの説明はない。監禁が長期に及んでいるらしいことは伝わる。ただし、人質が弱ったり死んでしまったりしたら元も子もない。だから8人のモノスは、彼女をそれなりに大事にしている。それに人質がいなくなったら、彼らを結束させている目的はなくなる。彼らはやがて、人質は組織ではなく、モノスのものであると考えるようになる。

 

彼らの力関係はリーダーのウルフの死により崩れていく。次のリーダーとなったビッグフットが、事件の責任を死んだウルフになすりつける。しかしウルフの弟分だったランボーは気が収まらない。やがてモノスたちたちは今までの高みから下界の熱帯雨林へと拠点を移す。すべてがすっきりとしていた山上とは違い、ここでは木々によって視界は遮られる。湿気と虫が不快感を増す。そこで7人になったモノスもバラバラになっていくし、人質も脱出を計る。

Mono」はスペイン語では「猿」だが、ギリシャ語では「単体」を意味する。つまりモノスは「孤独な者たち」だ。

 

ジャングルで崩れた彼らの団結の行く末はどうなっていくのか。ようやく最後になって画面に登場する“街”で、人間らしく生きることはできるのか。

 

神話と現実世界が混在したような場所。そこには都市に住んでいる私たちが忘れてしまった物語がある。映像と音楽も素晴らしくに、それに浸るだけでもおすすめだ。

 

★★★★前原利行)