2020年1月7日火曜日

パラサイト 半地下の家族


世界の映画祭で各賞を受賞した社会派エンタメ
半地下に住む無職の一家が、高台の裕福な一家の家で働き出すが


2019年/韓国

監督:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル-漢江の怪物-』)
出演:ソン・ガンホ(『タクシー運転手 約束は海を越えて』『シークレット・サンシャイン』)、イ・ソンギュン(『ソニはご機嫌ななめ』)、チェ・ウシク(『新感染ファイナル・エクスプレス』)、チョ・ヨジョン
配給:ビターズ・エンド
公開:2020110日より全国にて
公式HPwww.parasite-mv.jp

●ストーリー
事業に何度も失敗しているが楽観的な父ギテク、妻チュンスク、大学受験に失敗して浪人中の長男ギウ、美大に進学したいが予備校に行くお金のない長女のギジョンの4人のキム一家。
ただし家族全員で失業し、今はなんとか内職で食いつないでいる。
一家の住む半地下の住宅は、電波が悪いし、水圧が低いからトイレは家の一番高い位置にあると住みづらい。
ある日ギウは友人の紹介で、大学生と偽って高台に住む裕福なパク一家の娘ダヘの家庭教師の仕事を得る。
パク一家はIT社長のドンイク、美人でおっとりとした妻のヨンキョ、高校生の長女ダヘ、小学生の長男ダソンの四人暮らしだ。
ギウは妹のギジョンを、兄妹であることを隠してダソンの家庭教師として紹介する。
こうして次々にパク一家に“パラサイト(寄生)”していくキム一家だが、事態はキム一家の想定を超えるようになっていく。

●レビュー
2019年のカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルムドールを受賞。以降、世界各国の映画賞を次々と獲得し、外国語映画には敷居が高いアメリカでも、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、全米映画批評家協会賞などを受賞。間もなく発表されるアカデミー賞でもノミネート確実と言われている作品だ。

監督のポン・ジュノは、『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』などの作品で日本にもファンが多く、国際的にも高い評価を得ており、2013年の『スノーピアサー』では海外進出も果たしている。
韓国では誰もが知る人気監督で、本作も韓国で公開されると1000万人を動員する大ヒットとなった。
また韓国以外の国でも動員は好調で、フランスでは160万人動員、アメリカでも動員は好調だという。

落ちこぼれて半地下に暮らす一家が、丘上の高級住宅に住む一家から仕事を得たことで、思わぬ事態が起きていく。
家族構成はほぼ同じだが、まるで対照的と言っていい家族。
誰もが指摘することだが、世界を代表する映画監督たちがここ12年でこうした格差社会への問題提起映画を、まるで示し合わせたように作っている。
是枝裕和監督の『万引き家族』、トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』、ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』、ジョーダン・ピール監督の『アス』などを連想する人もいるだろう。
世界的に「格差」は今や避けられない問題になっているのだ。

ポン・ジュノも2013年の『スノーピアサー』で社会の格差の寓話を、近未来の走る列車の中というSFアクションですでに描いている。
『スノーピアサー』では列車の最後尾から前の車両へという横移動だったが、本作では高台と半地下という高低差を生かしたよりわかりやすいビジュアルだ。
本作の方が、重いテーマもよりエンタテインメントとして消化されており、その洗練された演出にジュノ監督の成長ぶりが見える。

ただしひとつの映画の中でサスペンス、ドラマ、コメディといったジャンルがめまぐるしく変わり、なんとも言えぬ味わいを生み出していくジュノ作品の特徴は消えていない。

無難なエンタメではなく、毒があり、人の嫌がる部分にも触れることは変わりない。
意外の連続を楽しんで欲しいのでストーリーを語れないが(ここで紹介したストーリーは映画の導入部のみ)、笑いながらもスリリングな結末に向かっていく展開には、誰もが引き込まれるだろう。これといった悪人がいるわけでもないのになぜこうなるかは、結論の出ない話かもしれない。しかし見るべき1年に数本のベスト級の作品だ。
まあ、ここにいろいろ書きたいけど、見た人たちだけのオフ会で(笑)。

★★★★前原利行