2019年10月17日木曜日

ロボット2.0


2.0



スーパースター、ラジニカーント主演の大ヒット作の続編

 2018年/インド

監督:シャンカルロボット』『ボス その男シヴァージ』
出演:ラジニカーント(ロボット』『ムトゥ、踊るマハラジャ)、アクシャイ・クマール(パッドマン 5億の女性を救った男)、エイミー・ジャクソン
配給:アンプラグド、KODOKAWA
公開:1025日より新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか


●ストーリー
南インドのチェンナイで、携帯電話が一斉に空に飛んで消えていくという事件が起きる。その後、携帯業者や通信会社の社長が携帯に襲われて変死する事件が続く。事態を重く見た政府に呼ばれたロボット工学のバシー博士は、助手の女性型ロボットのニラーと共に事件を追う。電波の発信源を追った先には大量のスマホがあり、それが合体して巨大な怪鳥となって二人を襲ってきた。バシー博士は解体されてしまったロボット、チッティを復活させて怪鳥と戦わせる。やがて怪鳥の正体が分かってくるが。。

●レビュー
日本に久しぶりにインド映画ブームを巻き起こし、ラジニカーントを再び知らしめるきっかけになった2010年の映画『ロポット』の続編だ。監督のシャンカル、博士とロボットの一人二役がラジニカーントというのは同じだが、今回は悪役として、昨年パッドマン 5億の女性を救った男が日本公開もされアクシャイ・クマールがキャスティングされている。もっともメイクが激しくて、パッドマンの人とは気がつきにくいが(笑)。製作費は90億円というインド映画史上最大級で、その多くは前作同様過剰なVFXに費やされているのだそうだ。インドでは2018年に公開されて大ヒットした。

あれから8年。インドは変わらないようで変わった。インド映画を見続けているとわかるのだが、洗練されてきたのだ。アクション、コメディ、恋愛、ミュージカルと一つの映画に全て詰め込んで幕の内弁当のようにする映画は急激に減り、ジャンルに分かれる“ふつうの”映画が主流になってきた。そしてインドだからというローカルさが減り、世界の誰もが見ても通用する、いわゆる“ハリウッド”ぽい作風になってきたのだ。それはマーケットが世界に広がってきたこともあるだろう。大作の製作資金は、自国だけで回収することはできないこともある。

前作『ロポット』が面白かったのは、実はハリウッドに依頼したVFXの凄さではなく、その使い方が実にインド的だったこと。インド的な生活をする人々の中にハイテクを持ち込んだ設定、そして「そんなことにお金を費やすのか!」というハリウッドではありえないバカなCGの使い方がとても新鮮で、「さすがインド!金の使い方が違う」と思ったのものだ。で、今回はどうかというと、その点、かなりハリウッド大作CG映画に寄っており、『トランスフォーマー』とかアメコミ映画に似たテイストになり、どこかで見たようなCGアクションばかり。奇抜な絵を見せてくれなくなっている気がした。面白い絵面は、前作ですでにやったもので新鮮味も薄い。

“悪役”を作って続編を続けるというのも、アメコミ映画と同じやり方。なので本作では、実はラジニカーント演じる博士も、ロボットのチッティも影が薄い。物語を動かすのは、“悪役”となるアクシャイ・クマール側で、そちらのストーリー(なぜそんなことをしているのか)の方が、映画の中では印象深くなっているのだ。

もちろん“インドらしさ”も随所にこの映画にはある。本作のストーリーのもととなるのは、世界有数の「携帯中毒国インド」への批判だ。インドに最近行ったことがある方ならわかるだろうが、インド人は本当に携帯好きだ。もともとおしゃべり好きということもあるが、携帯なしには生きられない感じは日本以上。それがスマホの時代になり、「どこに行ってもセルフィー」状態が加速し、「世界で一番セルフィー死亡率が高い国」と言われるようになってしまった。本作で言及されているように、おびただしい電波が飛び交い、中には繋がりやすいように国の規定を超えた電波を飛ばしている携帯会社もあるだろう。そんな社会への風刺や警告を盛り込んでいるといえよう。

ということで、前作超えの続編は難しい。新たな敵を作ってシリーズ化するとマンネリ化してしまう。そんなことを考えてしまったこの続編だった。期待が高すぎたのかな。
★★★

●映画の背景
映画の舞台となるのはチェンナイだが、事件の発端となるのはチェンナイ郊外、マハーバリプラム(マーマッラプラム)へ行く途中にある寺院の町ティルカールクンドラムだ。ここで博士はスマホが集合した怪鳥に襲われるのだが、なぜ鳥かという理由は映画の中で明かされる理由の他に、このティルカールクンドラムという地がある。
ここはチェンナイでは有名な巡礼地のひとつで、町を見下ろす丘上にあるヴェーダギリーシュワル寺院には毎日正午になると遠く聖地ワーラシー(ベナレス)から二羽のワシEgyptian Vultureが飛んできてここのバラモン僧から餌をもらうといわれている(ワシというよりはタカかもしれない)。日本の解説には書いていなかったが、今回の悪役のイメージは、この鳥にそって作られていると思う。タミルの人なら、この寺のワシの話は知っていると思う。