2016年10月11日火曜日

とうもろこしの島


人里離れた山間の川の中州に、とうもろこしを植えて収穫を待つ老人とその孫娘。しかしそこにも戦争の影が迫っていた




 Simindis Kundzli
2014

監督:ギオルギ・オヴァシュヴィリ
出演:イリアス・サルマン、マリアム・ブトゥリシュヴィリ
配給:ハーク
公開:917日より1111日まで岩波ホールにて公開中

●ストーリー

ジョージア(グルジア)西部のアブハジアで、独立を目指すアブハズ人と、それを阻止するジョージア人との間で紛争が起きていた。一方、戦争から遠く離れた山間の川では、毎年春先になると雪解け水によって川の中洲に島が生まれていた。今年もどこからかアブハズ人の老人が新しくできた島にやってきた。この土地では、そんな肥沃な土地でとうもろこしを作流のが習慣だからだ。老人は小屋を作り、土を耕して種をまく。戦争で両親を失った孫娘も一緒だ。ときおり、両軍の兵士たちが川をボートで行き来し、両岸でにらみ合うこともあるが、老人たちには関心を示さない。とうもろこしは成長していくが、老人たちはその畑の中で傷を負ったジョージア兵を発見する。


●レヴュー

1992年にジョージア(グルジア)で起きたアブハジア紛争を描く映画の連続上映の1本。もう1本は『みかんの丘』で、これも同時公開中だ。そちらでも解説したが、アブハジア紛争はソ連邦が解体してジョージアがソ連から離れていくと、ジョージア内の自治共和国がさらに分離していくという、独立の入れ子構造のような戦争だった。『みかんの丘』でも触れたが、この戦争は元は同じ国民が殺し合う救われない戦いだった。

しかしこの映画はそうした戦争の背景の説明を一切排し、登場人物にも主張をさせない。中洲にできた島にまず老人がやってきて黙々と小屋を建て始め、そこに孫娘が加わる。二人とも寡黙で、特に前半は会話もほとんどない(少女は話せないのかと思ってしまったほどだ)。そのため、この映画は時代背景もわからない、どこか現実離れした寓話の趣さえ見せるが、ときおり通り過ぎる兵士たちが外の世界と戦争の影を落としていく。

季節は進み、とうもろこしは成長して収穫の時期を待つ。その生命の力強さと対照的に、常に“死”の影を背負う兵士たち。しかし傷ついた兵士を目の前にすれば、老人はただ命を助けるだけだ。戦争は老人と子供しかいない世界を生む。孫娘が心動かされる相手は、もはや世界には傷ついた兵士しか残っていない。

両岸で睨みあう兵士たちがいる。とすればこの川の中州の島は、どちらにも属さない平和な世界だが、そこには老人と子供しかいない。そしてその存在すら許されないかのように、そんな平和さえも川の濁流が奪っていく。この世界に、もはや平和な場所は残っていないのか。しかし、翌年になればまた、新たな島が生まれ、そこにとうもろこしを植える男がやってくる。世界はまた同じことを繰り返していくのだろうか。

美しい自然の中で、生命を育むことと奪うことを描くこの寓話は、きっと多くのことを考えさせてくれるはずだ。(★★★☆前原利行

 

■関連情報


2015年ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート