2015年4月8日水曜日

サンドラの週末


ダルデンヌ兄弟 × M・コティヤール 異色の組合わせ!

Deux Jours, Une Nuit

2014年/ベルギー、フランス、イタリア

監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(『ロゼッタ』『息子のまなざし』『ある子供』)
出演:マリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』『ダークナイト・ライジング』)、ファブリツィオ・ロンジォーネ
配給:ビターズ・エンド
公開:523日よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町


●ストーリー
金曜日、休職していた職場に復職が決まった矢先に、サンドラは突然解雇を言い渡される。不況の中、社員にボーナスを支給するには、ひとり解雇する必要があるというのだ。しかし同僚の取りなしで社長に会い、月曜日に社員で再投票をし、ボーナスではなくサンドラを選ぶ者が過半数を超えれば、復帰できることになった。サンドラには飲食店で働く夫と、ふたりの子供がいて、マイホームを手に入れたばかり。ここで失職してしまうわけにはいかない。週末の2日間、サンドラは夫に支えられながら、同僚たちを説得して回る。しかし同僚たちにもさまざまな事情があった。

●レヴュー
 ダルデンヌ兄弟×M・コティヤール。かたや過去二度もカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞している、世界トップレベルの監督たち。芸術性は高いが、ドキュメンタリー性の高い非商業映画的な作風だ。コティヤールは『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』(07)で、アカデミー主演女優賞を受賞したフランス人女優で、最近は『ダークナイト・ライジング』などアメリカ映画にも進出している。まぎれもなくフランス映画界を代表するスターだ。その組合わせに、最初は「ダルデンヌ兄弟が作風を変えたのか?」と驚いたが、その心配は見事に吹き飛んだ。映画の中のコティヤールは、いつものダルデンヌ兄弟作品の中の登場人物と変わらず、“私たちの身近にいる人”。“すっぴん”で労働者階級の主人公を演じ、本作で本年度のアカデミー主演女優賞にノミネートされる、高い演技力を示していたのだ。

 しかしこの映画、かなりエグい設定である。従業員16人のソーラーパネルの製造会社。日本でいえば地方の町工場で、従業員はみな地元に住んでいる規模。給料だってそんなに高くはないだろう。だって、サンドラの解雇に同意するボーナスの額が1000ユーロ(約16万円)という、多いんだか多くないんだかという微妙な額。しかし、従業員たちに取っては、喉から手が出るお金なのだ。サンドラが週末を使って、各従業員をひとりひとり訪ねて行くが、ここでサンドラを打ちのめして行くのは、みなそれそれに事情があって、そのボーナスが必要なこと。生活に余裕があるものなんてひとりもいない。サンドラに悪態をつく者もいるが、基本的には悪人はいない。そしてサンドラに投票すると決めた者も、悩んだ末の決心なのだ。自分を支持してくれる人はありがたいが、彼らはサンドラのためにボーナスを断念したのだ。当然、それはサンドラの心に重くのしかかって行く。

 とはいえサンドラにも事情がある。彼女が会社を休んでいた理由はハッキリは明かされないが、鬱を含んでいたことは確かだろう。そこから立ち直って、ようやく社会に復帰するというときに、「社会から必要とされない人間であること」を突きつけられるのは、かなり酷なことだ。しかし、従業員の中には、そうした精神の病に関して、理解がない者もいるし、そんな人間が復帰したら迷惑だ、という考える者もいない訳ではない。断られるたびにサンドラの心は傷ついていき、サンドラを擁護してくれる者もがいれば、気力を取り戻して行く。

 「和を重んじる」日本なら、こうしてサンドラがひとりひとり説得して行く、という設定はないかもしれない。「自分の運命は自分で切り開く」ことはしないだろう。しかし、だからといって、サンドラに共感できない人はいないだろう。結末は書けないが、サンドラはこの週末のできごととその結果を通して、人間の尊厳を取り戻したはずだ。(★★★★前原利行)