オークションにかけられた幻の名画。老いた画商が人生最後の勝負に挑む
2018年
監督:クラウス・ハロ
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
公開:2月28日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか
公式HP: lastdeal-movie.com/
●ストーリー
長年仕事を優先し、家族をおろそかにしてきた老画商のオラヴィ。ヘルシンキで小さなギャラリーを営む彼の元に、音信不通だった娘から連絡が入る。問題を起こし、職業体験の引受先がない孫息子のオットーを預かってくれというのだ。その一方、オラヴィはオークションに出品されていたある男の肖像画に心を奪われていた。署名がないために安い価格がついていたその絵だが、オラヴィは妙にひっかかるものを感じたのだ。オットーと共に作者を探し始めたオラヴィは、その絵がロシア写実主義の巨匠イリヤ・レーピンの作ではないかと推測する。
●レビュー
イリヤ・レーピンを知っているだろうか。
世界史や美術史の本にはたいてい「ヴォルガの舟曳き」が掲載されるが、個人的には「イワン雷帝と息子イワン」が印象的だ。伝説を取り入れたこの絵では、抗議しに来た息子をイワンが癇癪を起こして杖で殴り殺してしまった直後を描いている。自分がしでかしたことに恐れおののく老人の恐怖の表情が、夜に見たらトラウマになりそうなぐらい怖い(ゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」に匹敵する)。
イリヤ・レーピンはロシアの巨匠だが、その作品の多くがロシア国内にあるため、世界的にはあまり知られていなかった。晩年はサンクトペテルブルク郊外に住んでいたが、その地がフィンランドの独立とともに編入されると、高齢であることを口実に帰国することなく1930年に没した。やがてソ連=フィンランド戦争が起き、レーピンの住んだ地はソ連に編入される。
そのような経緯があるので、本作のような「幻の名画」の話も俄然現実味を帯びてくる。レーピンの晩年に描かれた絵がフィンランド内に残っていても不思議はない。それではなぜ署名がないのか。その謎を探る部分はミステリー仕立て、そしてそれを周囲に知られることなく落札する下りはサスペンスになっている。ただしそれはストーリーを進行させるためのもので、強く印象に残るのは、他人に対して愛情が薄かった仕事人間が年老いてようやく家族の大事さに気づくドラマ部分だ。
主人公のオラヴィは日本人でもいそうなキャラクターだ。仕事熱心といえば聞こえはいいが、自分のことにしか関心がないとも言える。不実ではないが、相手のことに関心がない。それは家族に対しても同様だ。
面倒なことを考えるより、仕事をしている方が楽と人生を過ごしてきた感がある。
そんな男が、この肖像画の購入を通して、今まで気がつかなかったものに気づくが、人生は残り少なかった。観ていてなんとなく、自分の父親とオーバーラップしてしまった。派手さ皆無の小品だが、こうした地味なドラマもなかなか良い。(★★★前原利行)