2019年12月23日月曜日

サイゴン・クチュール

1969年のサイゴンから現代にタイムスリップした女の子がファッション界で活躍!

2017年
監督:グエン・ケイ、チャン・ビュー・ロック
出演:ニン・ズーン・ラン・ゴック、ホイ・ヴァン、ジェム・ミー 9x、ゴ・タイン・バン(『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』)
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
公開:12月21日より新宿K’s cinemaほか

●ストーリー

1969年のサイゴン。ミス・サイゴンに選ばれるほどのルックスとファッションセンスを持っているニュイだが、実は9代続いたアオザイ仕立ての老舗の娘。
母親が守る伝統のアオザイは大嫌いで、それから逃れようと最新の西洋ファッションに身を包み、母親を失望させていた。
しかしある日、突然ニュイは現代のサイゴン(ホーチミン)にタイムスリップしてしまう。
そこでは華やかだった店は閉店しており、ぶくぶくと太って落ちぶれた自分がいた。
ニュイは店と現代の自分を救うために、青年トアンの助けを借りて、現代のファッション界に身を投じる。
そして最新ファッションを追いながらも、アオザイの魅力に気づいていくのだった。

●レビュー

1969年というとベトナム戦争真っ盛りだと思うが、ここではそれについては1ミリとも触れない。
「ベトナム=戦争」だけじゃないぞというベトナム人の思いかもしれない。
実際、1969年の時点では、戦争は遠い国境地域で行われていたという意識なのだろう。
タイムスリップして現代に来た主人公も、戦争の結果とか政治・社会的な話題は全く気にしていないし。

ということで、本作はエンタメに割り切ったベトナム発のファッションムービーだ。
“タイムスリップ”というストーリーを生かし、60年代ファッションから現代のファッションに至るまでの変遷も見せてくれるのが面白い。
過去のシーンでは、当時のトレンドであるミニなどのロンドンファッション、ヒッピー風ファッションなど、さながら『ワンス・アポン・イン・ア・タイム・ハリウッド』の世界のよう。
もちろん舞台がアオザイの名店ということもあり、伝統的なアオザイの数々も見せてくれる。

次に現代。
ここでは主人公はファッション界で働くという設定なので、最新のトレンドなど現代のファッションを見せてくれるが、中心となるのはやはり主人公が得意とする「レトロモダン」だ。
ファッションデザイン事務所の様子や女社長の雰囲気が、『プラダを着た悪魔』をわざとなぞっているのも面白い。
トールサイズのコーヒーを常に片手に持つボスは、アナ・ウインターのマネだ。

ストーリーはワガママだった主人公が、心を入れ替えて店のために頑張り、すべてが丸く収まるという他愛のないものだが、それはそれでこの気楽なコメディ作品にはいい。
とにかく、主人公の女の子を可愛く見せ、そして多くのファッションで観客をうっとりさせ、楽しく映画館を出てもらうのが目的なのだから。
気軽に見て楽しめる、そんな映画なのだ。

最後に。
主人公のニュイの母親役を演じているゴ・タイン・バンは、ベトナムの人気女優。
近年では『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(ローズの姉ペイジ役)にも出演しているほか、Netflixなどで配信中の映画『ハイ・フォン : ママは元ギャング』は世界でもヒット。現在はプロデューサーとしても活躍している。
★★★前原利行)