皆様にお伝えしなければならないことがあります。
コロナも収束に向かい、これから新たな旅へ出ようかという矢先の訃報、本当に残念でなりません。
主筆を欠いた今、旅シネの継続については迷いがありますが、彼の映画レビューを残しながら、今後についてはもう少し時間をいただき、前向きに検討していきたいと思っています。ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。
最後になりましたが、故人のご冥福を心からお祈りいたします。
突然言い渡された絶交。
精霊舞い降りるアイルランドの島で起きる二人の男の対立の行方
●ストーリー
栃木の田舎町で、くすぶり続ける映画監督の渡辺紘文。映画製作団体「大田原愚豚舎」を旗揚げし、東京国際映画祭ほか数々の受賞歴を持つ渡辺は、自他ともに認める“世界の渡辺”である。しかし“世界の渡辺”もいまは脚本も書けず、大手映画会社から依頼がくることもなく、地元の仲間たちと悪態をつきながら日々を過ごしている。ある日、旧知のプロデューサーから、世界的映画監督の代打で沖縄での映画制作の話が舞い込む。久々の映画制作に浮足立つ渡辺が沖縄に向かうと、「いますぐ俺を主人公にして映画を作れ」という“社長”に高級ホテルに缶詰めにされるが…。
●レヴュー
この映画のもう一つの主役は、全国の個性的な映画館とそこで働く人たちだ。南国の沖縄・首里劇場から、大分・ブルーバード、福岡・小倉昭和館、鳥取・ジグシアター、兵庫・豊岡劇場、雪が舞い落ちる北海道・サツゲキを経て、日本最北端の映画館・大黒座まで…。全国にはこんなに多様で素敵な映画館があるのか!と感嘆せざるえない。だが、コロナ禍も相まって、既に閉館した所もあるというのが実情である。悲しいかな、貴重なアーカイヴ映像となりつつある。
(★★★☆カネコマサアキ)
●ストーリー
夏の夜、セーヌ川のほとりで、フェリックスはアルマと出会い、恋に落ちる。夢のような時間を過ごすが、翌朝アルマは家族と共にヴァカンスへ旅立ってしまう。 フェリックスは、親友のシェリフを誘い、相乗りアプリで知合った学生エドゥアールを道連れに、アルマを追って南フランスの田舎町ディーに乗りこんでいく。しかし、車が故障してから、暗雲が立ち込める。アルマは予期せぬ彼らの訪問に戸惑っている様子だ・・・。
●レヴュー
新型コロナ感染予防のための行動制限がない夏休みということで、今年は旅行に出かけている人も多そうだ。自分のように、どこへも出かける予定のない人も少なからずいると思うが、映画館に篭ってヴァカンス気分に浸るのも良いかもしれない。
本作で新鮮に感じたのは、アフリカ系移民の若い労働者をメインキャラクターにしていること。ヴァカンス映画は、たいてい中流以上の白人が主人公に据えられていることが多いので、彼らがどういう思いでヴァカンスを過ごすのか興味を引く。もちろん、ママから「子猫ちゃん」と呼ばれる裕福そうな家庭で育ったエドゥアールが、「相乗りアプリ」で女装したフェリックスたちとマッチングし、巻き込まれる形で伴走するのだけれど。(彼は常連俳優ヴァンサン・マケーニュのヤング版といった風貌だ)
彼の運転する車が故障するあたりから、雲行きが怪しくなってくる。「ヴァカンスの呪い」は既に始まっているのだ。宿泊所は小学生が使うようなキャンプ場で、狭くて小便くさいテント寝泊まりするハメに。フェリックスは入れ上げたアルマに再会することはできたが、当初の熱はなく軽くあしらわれ、ギクシャクする。一方、友人思いの温厚なシェリフは幼な子を連れた既婚女性と仲良くなるが、「お前は恋愛に発展性のない女ばかりを好きになってる!」とフェリックスに罵られる。エドゥアールはひたすらカラオケで歌っている。男3人はフラストレーションをためながら、ヴァカンスが終わりに近づいていくが、ちょっとしたマジックが起きる。
ロメールの後継者と目されるギヨーム・ブラック監督が注目を浴びるきっかけになった中編『女っ気なし』(11)は北部の漁村オルトにヴァカンスに訪れた母娘と、彼女たちが滞在するアパート管理人シルヴァン(ヴァンサン・マケーニュ)との真剣かつトホホなドラマが印象的だった。本作は海ではなく、ドローム川周辺の山が舞台だが、『女っ気なし』の構造を踏襲、発展させたような群像劇だ。未見だが『7月の物語』(17)と同様、フランス国立高等演劇学校の学生たちと作り上げた作品で、学生たちの身の上話から着想を得たそうだ。
同館では、ギヨーム・ブラック監督特集も組まれており、上記のほか、代表作『やさしい人』(13)、 短編『遭難者』(09)『勇者たちの休息』(16)も上映される。この機会にぜひ。
(★★★☆カネコマサアキ)
●関連事項
●レヴュー
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ビクトリア・ハーバーで水泳を楽しむ老人チャン・ハックジー(陳克治)74歳。1968年、彼と恋人(現在の妻)は、中国本土から、海を泳いで香港に逃れてきた。その様子を97年生まれの若手俳優たちが演じる。その映像は、やはり文化大革命から香港に逃れる筋書を持った唐書璇『再見中国』(1972)のシーンとよく似ていて、つながりを感じた。
セッ・チョンイェン(石中英)、ヨン・ヒョッキッ(楊向杰)70歳。彼らは16歳の時、共産主義寄りの文芸誌を配布したことで、投獄された。当時信じていた共産主義が、現在では形を変え抑圧する側になっていることを複雑に思っている様子。日本ではあまり知られていない六七暴動は、文化大革命に刺激を受けた香港の親中派の労働者が、香港イギリス政庁に抵抗するデモを行い、それが7か月に及ぶ暴動に発展。1,936人が逮捕・起訴され、832人が負傷(うち警察官212人)、51人が死亡するという事件だ。
(★★★☆カネコマサアキ)
●関連事項