2017年8月5日土曜日

リベリアの白い血

Out of My Hand

西アフリカ・リベリアからニューヨークへ。日本人監督が描く移民たちの物語。




2015年/アメリカ
監督:福永壮志
出演:ビショップ・ブレイ、デューク・マーフィー・デニス、ディヴィッド・ロバーツ、シェリー・モラド
配給:ニコニコフィルム
上映時間:88
公開:8/5(土)より アップリンク渋谷ほかにて公開
公式サイト:https://liberia-movie.com/


■ストーリー

リベリア共和国のゴム農園で働くシスコは、過酷な労働条件の下、家族を養っていた。仲間と労働環境の改善するために争議を企てるも失敗。そんな折、ニューヨーク在住の従弟からアメリカでの生活を聞き、単身アメリカ行きを決意する。
NYのリベリア人コミュニティーに身を置きながら、タクシードライバーとして働きだしたシスコは徐々に都会生活に順応していく。そして、元兵士ジェイコブと予期せぬ再会するのだった。それはシスコの忌々しい過去の記憶を呼び覚ます出来事だった。

■レビュー

冒頭、リベリアの農村でゴムの樹液を採取する様子が克明に描かれる。木の幹に傷をつけ、道をつくり、樹液が流れていく。その繰り返し作業に、面白そうだ、やってみたい、と好奇心が湧く。だが、そんな思いも束の間、労働者たちは1日何百本というノルマをこなさなければならないと知らされると、どこかへ吹き飛んでしまう。

主人公シスコはどちらかというと無口だが、仲間の体調を気にかけたり、家族への思いやりがあり、とても信頼できそうな男だ。ニューヨークへ渡ってからの順応性も早く、タクシー運転手への転身のスムーズさといい、聡明な”できる男”という印象さえもつ。
そんな折、思わぬ男と再会する。元兵士仲間のジェイコブだ。近づくジェイコブにお前なんか知らない、とシスコは拒否する。ジェイコブはシスコがいかに”できる兵士”だったかほのめかす。”できる兵士”が意味することとは…? 

前半リベリアの農村、後半NYの移民たちの生活を実に淡々と描く。昨年公開されたスリランカ移民を描いた『ディーパンの闘い』ほど仕掛けも切迫感もないが、1人のリベリア移民の一挙手一投足が淡々と描かれる分、共感とともに、彼の持つ深い闇がじわりと伝わってくる。唖然とするラストだが、冷静すぎるシスコの態度が逆に彼が内戦時代に行ったこと、犯した罪を、われわれに想像させる。

冒頭から撮影がすばらしいと思って見ていたのだが、資料をみて愕然とした。カメラの村上涼は、この映画の撮影でマラリアに感染し、ニューヨークの自宅で33歳という若さで亡くなったという。冒頭のゴム農園のシーンは村上自身が撮ったドキュメンタリーに由来しており、この映画に大きなインスパイアを与えたという。その才能が惜しまれる。

カネコマサアキ(★★★)

■関連事項

リベリア共和国はアメリカで解放された黒人奴隷によって建国され、国名はラテン語のLiber(自由)に由来しているという。ルワンダ紛争やソマリア内戦ほどは知られてはいないが、80年代から2000年代に2度にわたる内戦が起きており、未だに人々はトラウマを抱えているようだ。

第65回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式上映
第21回ロサンゼルス映画祭最高賞受賞
題16回サンディエゴ・アジア映画祭新人監督賞受賞