2017年6月9日金曜日

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白

たった1年の出稼ぎのはずが騙されて中国の農村に売られてしまう‥。
二つの家族の間で揺れながら、貪欲に生き抜こうする一人の北朝鮮女性の記録。

有効にしてください。</div></div>
MRS.B.  A NORTH KOREAN WOMAN

2016年/韓国、フランス
監督:ユン・ジェホ
配給:33BLOCKS
上映時間:72分
公開:2017年6月10日(土)、シアター イメージフォーラムにてロードショー

●ストーリー

 北朝鮮女性B(ベー)は、十年前、家族のために一年間だけの出稼ぎで中国に渡るが、騙されて中国の貧しい農村へ嫁として売り飛ばされてしまう。憎むべき中国人の夫と義父母との生活を受け入れ、中国と北朝鮮の家族を養うため脱北ブローカーとなっていく。
 その後、北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じた彼女は、息子たちを韓国へ脱北させ、自らも過酷な脱北の旅へと出る。命からがら辿り着いた韓国で、彼女を待ち受けていたのは、苦しく辛い日々だったが‥ 

●レビュー

 北朝鮮のニュースを毎日のように触れる昨今。海を隔てた隣国でありながら、私たちはこの国のの本当の姿を知らないと思う。ここ数年、北朝鮮を捉えたドキュメンタリー映画がいくつか公開された。統制下での撮影からは、ごくわずかな断面しか伺い知ることはできないし、その国から決死の覚悟で脱北する人々が数多くいることは知っていても、その実際は私たちにはわからない。この作品は、脱北した名もなき北朝鮮出身の女性・ベーを記録したドキュメンタリーである。

 脱北者を扱った作品ということで、脱北の経緯やその様子を追ったものと思ったが、彼女の生き様は私たちの想像を超えていた。登場した北朝鮮出身のマダム・ベーは、中国の片田舎で貧しい農家の嫁となり、たくましく一家を支えていている。十年前、夫と二人の息子を残し出稼ぎのために中国に渡ったが、騙されて売られてきたのだという。そのようなケースは珍しくないらしい。中国人の夫と年老いた義父母との生活を余儀なくされる中、自らも脱北者を手助けするブローカーになっていく。両方の家族を養うための手段だったといい、自らの厳しい境遇を超えて生き抜く貪欲なたくましさに驚かされる。そのような生活の中、彼女は息子二人を韓国に脱北させ、自らもラオス、タイ経由の脱北ルートで韓国へ向かうことを決意する。彼らの将来を案じての決断。決死の道程。安定と平穏な暮らしを求めて突き進む彼女には、境遇、倫理感や心持ちを超えた人として強さが漲っている。

 そして韓国。脱北した夫も合流し、家族揃っての生活が映し出されるが、安定した職を得て働くマダム・ベーの表情には以前の力強さがなくなっていた。貧しさから抜け出してやってきた韓国で、家族は本当の意味での安寧を得ることができていないように見える。脱北者の韓国社会での実際を知る機会は少なく、彼らの置かれた境遇を知ることはとても興味深い。そして、中国の夫と連絡を取り合っているマダム・ベー。中国での生活は、愛情あるものではなかっただろうが、自然と誼が生まれていたようだ。第二の家族との間の心の揺れに彼女の生き様の残酷さを垣間見る。

 分断国家という現実。同じ民族でありながら二つの国は大きく乖離してしまっているように思える。たくましく生き方を模索し、懸命に幸せをつかもうとしている人間の強さと、そこに立ちはだかる現実を強く印象付けられるこのドキュメンタリー作品。マダム・ベーはさらに自分の手で何かをつかもうとするのか否か。生きる道を模索するマダム・ベーのような女性が他にもいるのだろう。★★★☆)加賀美まき

2016年 モスクワ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー映画賞 受賞
2016年 チューリッヒ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー映画賞 受賞
2016年 カンヌ国際映画祭 ACID 部門正式出品