2018年10月13日土曜日

世界で一番ゴッホを描いた男

中国のゴッホの複製画家が本物に会いに欧州へ




2016年
監督:ユイ・ハイボー、キキ・ティンチー・ユイ
出演:趙小勇(チャオ・シャオヨン)
配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
公開:10月20日より新宿シネマカリテにて公開
公式ページ:http://chinas-van-goghs-movie.jp/

職人か芸術家か
その問いを自分に投げかける人は、世の中にたくさんいるだろう。
自分を表現するために何かを始め、それで飯が食えるようになっても、
いつのまにか単に技術を提供するだけになっている、
なんてこの世界、当たり前のことだ。
僕が住んでいる出版や編集の世界でもまったく同じ。
最初は“バイト仕事”ぐらいに感じていた、技術だけ提供する雇われ仕事が、いつのまにか生活を支えるようになっている。
このドキュメンタリーの主人公となる趙小勇(チャオ・シャオヨン)は、その逆だ。
スタート地点が、生活を支えるための模写だった。
そして20年目にして、彼の心を動かす出来事が起きる。

中国深圳市にある大芬(ダーフェン)村
複製画の制作が世界の半分以上のシェアを占めるという、
世界最大の絵画村だ。
ここには複製画を描く職人たちの工房が軒を連ねている。
地方の農村から出稼ぎでここにやってきた趙小勇は、独学で絵を学び、ここでもう20年、ゴッホの複製画を描いている
工房には彼の妻や親戚もいるが、籍はまだ地方にあるので、
娘は遠く離れ、言葉もあまり通じない田舎の学校に通わなくてはならない。

本作の前半は、この大芬村で複製画を描いていく人々や、
その様子を映し出していく。
その中で次第に、ベテランの趙小勇がクローズアップされていく。
彼の夢はいつしか、“本物のゴッホ”を見ることだ。
本やテレビでしか見たことがない、ゴッホの絵。
自分が20年も描いてきたものの、本物が見たい。
仲間のひとりは、すでに複製画ではなく、“自分の”絵を描くようになっていた。そんな焦りもあったかもしれない。

後半は、お金をかき集めて、ついに念願の欧州へ旅立つ
趙小勇をカメラが追う。
長年、自分たちの描いた複製画がアムステルダムの画廊で
売られていると思っていた趙小勇だが、
着いてみるとそこはただのおみやげ屋だった
失望が顔に浮かぶ趙小勇。
さらに販売価格が、自分たちの売値の8倍と知って
やるせない気持ちにもなる。
複製画だが、誇りを持って描いてた自分なのに。

そして彼は、アムステルダムのゴッホ美術館に。
ゴッホの自画像に見入る趙小勇。
彼の旅は、アルル、サン・レミ、最後の地となったオーヴェル・シュル・オワーズと続く。
ゴッホの足跡を訪ねるその旅はまた、
趙小勇が自分を見つめ直す旅でもあった。
自分はいったい何者なのか。
本物と偽物の違いとは? 芸術家と職人の違いは? 
帰国後、彼はある決断をする。

複製しか描いたことがなく、自分の作品がない趙小勇が苦悩する姿は、滑稽でもあり、また私たちに真摯に訴えかけるものでもある。
彼が苦しむ姿は、“本物”だからだ。
これといった大きな仕掛けはない小品だが、
趙小勇の問いは多くの人が感じていること。
きっと観客の心にも、その問いは投げかけられることだろう。
★★★